
シンセ・ベースのパラ出力を装備
メイン出力にはひずみエフェクトを搭載
Rhythm Wolfの外形寸法は約315(W)×51(H)×221(D)mmで、13インチ型のノート・パソコンと同程度のコンパクトなサイズ。トップ・パネルには全5パートの音源とその音作りに使うノブ、6つのMPCパッド、16個のスイッチが横一列に並ぶステップ・シーケンサーが配置されています。リア・パネルにはUSB/MIDI端子やMIDI IN/OUT、Gateトリガーの入出力などが備えられ、MIDIクロックだけでなくGate信号を使った外部機器との同期にも対応。USB/MIDI端子やMIDI OUTからは、ステップ・シーケンサーのノート情報やベロシティを出力することもできます。
音源部の方式はフル・アナログで、4パートのドラム音源と“BASS SYNTH”で構成されています。音声の出力はメイン・アウト(TRSフォーン)とBASS SYNTH専用のシンセ・アウト(フォーン)のモノラル2系統で、メイン・アウトの前段にはサチュレーターのようなひずみ系エフェクト“HOWL”を備えています。
ROLAND TRシリーズのようなドラム
ベースはエッジの効いた太い音色
それでは実際に音を出しつつ、パラメーターなどの構造的な部分も見ていきましょう。ドラム音源の“KICK DRUM”は、ROLAND TR-808のキックに似た構造ながらもサウンドはより硬め。チューンやアタック、ディケイなどのノブは大きさが程良く、配置にも余裕があり演奏しやすいのが特徴です。KICK DRUMの右側にある“SNARE DRUM”はホワイト・ノイズとサイン波を組み合わせたもので、ROLAND TR-909のスネアに近い印象。ディケイがかなり伸びるので、ノイズを増やしながら余韻を極端に伸ばすような荒々しいサウンドも出せます。
続いてSNARE DRUMの右にある“PERCUSSION”。これはサイン波のオシレーター2基とホワイト・ノイズを組み合わせて音作りします。ノイズを増やしていくと、クラベスのような音がクラップのようなサウンドへと変化。その隣にある“HI-HAT”はTR-808のハイハットに近いホワイト・ノイズ基調のサウンドで、オープンとクローズドを別々に打ち込むタイプです。
ドラム音源の次はBASS SYNTHをチェックしてみましょう。これはROLAND TB-303をうまくデフォルメしたような、実に良い感じのアシッド・ベースで、フィルターのカットオフ/レゾナンスやエンベロープ・ジェネレーターのアマウント、ディケイなどのパラメーター・バリエーションもTB-303とそっくり。サウンドはエッジが立って太いので、ひずみ系エフェクトとの相性が良さそうです。
シーケンサーはROLAND TRシリーズに近い構造。最大32ステップで、パッドでの演奏を記録する“レコーディング・パフォーマンス・モード”と、ステップ・スイッチで入力する“レコード・ステップ・モード”の2通りの方法で打ち込みます。
チェックしていて面白いと思ったのは、HOWLのひずみ量によって音源の倍音構造が変化し、サウンドのキャラクターが大きく変わるところ。特にKICK DRUMのキャラ変化が面白いです。筆者は時計の針で言う、10時〜2時の間をよく使いました。ひずみに強いアナログの特性を生かした部分に、単なるTRシリーズ・クローンに終わらない個性が出ています。HOWLはメイン・アウトだけに作用するので、BASS SYNTHはその影響を受けないようシンセ・アウトからパラで出すことをオススメします。かく言う筆者も、HOWLでドラムをひずませながら、BASS SYNTHに外部エフェクトやプラグインをかけて……とやっているうちに何時間も遊んでしまいました。
総合的には、何でもソツ無くこなす優等生というより“強烈な存在感を放つ一台”という印象。Gateイン/アウトを使ってモジュラー・シンセと組み合わせたり、操作性が良いためライブにも生かせるなど用途は広そうです。細かく見ていくと荒削りな部分もあるのですが、楽器としての楽しさにあふれ、ベース音源までついて29,800円というところにAKAI PROFESSIONALの楽器メーカーとしての攻めの姿勢を感じました。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年3月号より)