「SOFTUBE Mutronics Mutator」製品レビュー:多くのアーティストが愛用したステレオ・フィルターがプラグイン化

SOFTUBEMutronics Mutator
プロ・オーディオ機器を数多くプラグイン化してきたスウェーデンの名門ブランドSOFTUBEが、ついにMutatorのプラグインを発表しました。Mutatorは1990年代初頭に、イギリスのMUTRONICSが発表したラックマウント型のステレオ・ローパス・フィルターで、レディオヘッド、ダフト・パンク、ナイン・インチ・ネイルズなどのビッグ・アーティストたちに愛用されてきた名機です。そのキャラクターのコアになっていたパーツが入手不可能になり生産されなくなってしまったのですが、そのサウンドがついにプラグインでよみがえりました!

往年の機器に使われていた
SSMフィルターの質感を再現

Mutator自体は、言ってみればVCOの無いシンセサイザーのようなもので、2つのVCF、2つのVCAを搭載し、内蔵のLFOやエンベロープ・フォロワーによってフィルターをスウィープできる構造。Mac/Windowsに対応し、VST/VST3/Audio Units/AAXをサポートしています。

実機に採用されていたフィルター・チップはSSM2045。独特のキャラクターを持った4ポールのレゾナント・フィルターでした。これはE-MU Emulator IIやFAIRLIGHT Fairlight CMI IIなどにも搭載されているものと同じ、アナログのローパス・フィルターです。

パネルをご覧の通り、上段には2つのチャンネルが並行に並んでおりそれぞれ独立したセッティングが可能になっています。“ENV SOURCE”は“INT”にすると内蔵の“ENV FOLLOWER”がフィルター・スウィープに使われますが、“EXT”にすると外部からの信号をサイド・チェインとして使用できます。またエンベロープは使わずに“GATE”に切り替えると、オーディオ入力に応じてフィルターがばっさりとかかったりバイパスされます。

実際にはエンベロープを使うケースが多いと思いますが、そのパラメーターとして用意されているのがエンベロープの感度調整の“SENS”、立ち上がりの時間を決める“ATTACK”、そして余韻部分の長さを設定する“RELEASE”です。シンセサイザーを使う人ならおなじみのパラメーターですね。

“LFO”もスピードを設定する“RATE”、4つの波形から選択する“WAVEFORM”、効きの強さを調整する“DEPTH”が搭載されています。その横にあるのが2つのチャンネルのLFOを同期させる“LINK”スイッチです(リンクさせた場合上段がマスターになります)。そして同期させたときに片チャンネルのLFOを逆相にする“INVERT”スイッチ、そしてLFOのデスティネーションをVCF、VCA、またはその両方にかけられるように選択出来るスイッチが用意されています。INVERTスイッチをONにすると、オート・パンのような効果があって面白いです。

VCFセクションは
シンセ・エディット同様の操作で可能

肝心のVCFのパラメーターはLFOセクションの右横にあります。“ENV SWEEP”は文字通りエンベロープのスウィープの強さを調整。12時方向で効力がなくなり、右へ回すと正相、左へ回すと逆相のエンベロープ・カーブでフィルターを開閉させることができます。そして“CUT OFF”でフィルターの閉じ具合を設し、“RESONANCE”ではカットオフ・ポイント付近の周波数を強調するという、シンセのエディットと同じパラメーターとなっています。“RESONANCE”を右に回し切ると自己発振寸前で止まりますが、この感じは悪くないです。一番右端の“V.C.A.”スイッチは、VCAをバイパスさせるかどうかを切り替えるものですが、“IN”状態でLFOのデスティネーション用のスイッチを“VCA”か“BOTH”にすると、LFOがモジュレーション・ソースになります。

下段のツマミはSOFTUBEオリジナルのパラメーターです。“TEMPO SYNC”はDAWのテンポとLFOを同期させることができ、その際のLFOが拍に対してどのように同期するか、“1/12”“1/4”“1bar”“4bars”といった設定値で決めます。その右横の3つのツマミは、2つのチャンネルをステレオとして使用したときにどれくらいのステレオ感を持たせるか、そのパンニング具合を調整する“WIDTH”(12時方向で通常のステレオ、それ以上右に回すとステレオ感を強調、左に回すとモノラルに近付く)、バイパス音とエフェクト音とのミックス比率を変える“MIX”、マスター・アウトプットの音量を決める“VOLUME”です。さらにプラグインのメリットとも言える、パラメーターのバリューをウィンドウの最下部に数値で表示するモードがあります。

さて、最後にそのサウンドですが、ハードウェアの場合には音質がトータル・ミックスに耐えうるクオリティか、というところが気になりますが、さすがにその心配は一切ありませんでした。アナログのモデリングではありますが、ヒス・ノイズの再現まではされていないようで、非常にS/Nの良いフィルタリング効果が狙えます。

Mutronics Mutatorの有効的な使い方ですが、個別のトラック、例えばドラムに原音とミックスしてかけると音が太くなってレゲエやヒップホップに合いそうです。しかし何と言ってもマスター・トラックにインサートしてダフト・パンクの「around the world」みたいにフィルターを開いたり閉じたりするのが最高です。フィルターの感じは筆者所有のE-MU Emulator IIともよく似ていて、SSMらしいレゾナンスのシャープさと、キレのいい割にちゃんと柔らかさもあるアナログ感を見事に再現していると思います。えぐさがなく、上品な音質が特徴と言えるでしょう。近年増えつつある数あるフィルター系プラグインの中でもトップ・クラスの出来映えと言って差し支えありません。かなり気に入りました。このビンテージ感をぜひ皆さんにも味わっていただきたいですね。

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年3月号より)

SOFTUBE
Mutronics Mutator
22,000円
▪Mac:OS X 10.6〜10.8以上(32/64ビット対応) ▪Windows:Windows 7/8(32/64ビット対応) ▪共通項目:INTEL Core Duo、AMD Athlon 64 X2以降、VST/VST3/Audio Units/AAXに対応したホスト・アプリケーション