「SLATE DIGITAL VMR」製品レビュー:API 500シリーズのラック・マウント・システムを再現したプラグイン

SLATE DIGITALVMR
現代のニーズにマッチしたプラグインを続々とリリースしているブランド、SLATE DIGITAL。VMR(Virtual Mix Rack)は、API 500シリーズの環境を電源ラックごと模したプラグイン・エフェクトです。流行中のシステムを再現しているだけに、また面白いところを突いてくるなとニヤニヤが止まりません。早速レビューしていきます!

同時に使えるモジュール数は最大8
複数モジュールのセットをA/B比較可

VMRはMac/Windowsに対応し、VST/Audio Units/RTAS/AAXをサポートしています。コンプとEQのモジュールが2種類ずつ標準搭載されているほか、以前単体の無償プラグインとしてリリースされたひずみ系モジュールRevivalが付属。今後は追加モジュールも発売予定だそうです。画面左にはモジュールのブラウザーがあり、そこから任意のものを選んで右のスロットにドラッグ&ドロップ、もしくはダブル・クリックしてロード(画面①)。

▲画面① GUI左側のブラウザーからFG-401モジュールをドラッグ&ドロップし、最も左のスロットに読み込もうとしているところ。ブラウザー内のモジュールをダブル・クリックすることでもロードでき、その場合は左のスロットから順に埋まっていく形 ▲画面① GUI左側のブラウザーからFG-401モジュールをドラッグ&ドロップし、最も左のスロットに読み込もうとしているところ。ブラウザー内のモジュールをダブル・クリックすることでもロードでき、その場合は左のスロットから順に埋まっていく形

同時に使えるモジュールは最大8つで、未使用スロットには実機さながらのブランク・パネルが表示されます。

モジュールをたくさんロードすると、それぞれがどういう効き方をしているのか分からなくなりそうですが、モジュールごとにON/OFFとソロのスイッチが付いているので、任意のもの単体のかかり具合を確認することができます。また、モジュールをスロット上でドラッグ&ドロップすると接続順を変更可能。モジュールにはロードした順にアルファベット(A〜H)が付けられ、それにひも付く形でON/OFFやソロ、オートメーションなどの機能が管理されますので、オートメーションを書いた後に接続順を変えても、そのオートメーションが別のモジュールのパラメーターにアサインされるようなことはありません。

複数モジュールを組み合わせて2種類のセッティングを作り、それらをA/Bボタンで切り替えて比較できるのも便利です。単体のエフェクトでA/B切り替えできるものはたくさんありますが、複数を組み合わせたセッティングをワンタッチで切り替えられると、バージョン違いのミックスを作るのも簡単そう。プリセットに関しては単体モジュールの設定だけでなく、複数モジュールを組み合わせたものも用意されています(画面②)。

▲画面② プリセットのパラメーター設定は、ベース/ドラム/ギター/ボーカルといった各種パートに向けたものに加え、EDM用のセッティングもスタンバイ。単体モジュールのプリセットはもちろん、画面のように複数を組み合わせたものも用意されている。最も右に見えるのは、チューブ/トランス/テープなどの特性を再現するエンハンサー、Revival。もともとは単体の無償プラグインとして登場したが、VMRにも付属している ▲画面② プリセットのパラメーター設定は、ベース/ドラム/ギター/ボーカルといった各種パートに向けたものに加え、EDM用のセッティングもスタンバイ。単体モジュールのプリセットはもちろん、画面のように複数を組み合わせたものも用意されている。最も右に見えるのは、チューブ/トランス/テープなどの特性を再現するエンハンサー、Revival。もともとは単体の無償プラグインとして登場したが、VMRにも付属している

1176や1073を思わせるモジュール
実機と似つつもモダンなサウンド

ここからはコンプとEQの各モジュールについて、詳しく見ていきましょう。

FG-116

UREI 1176の再現版と思われるモジュール。アタックとリリースは実機と同じく反時計回りに動かすほど長くなり、コンピューターのshiftキーを押しながらアタック・ノブをクリックすると、コンプをバイパスさせることができます。また実機と同様にスレッショルドは無く、コンプがかかるレベルまで入力ゲインを上げる方式ですが、そうするとどうしても出力音量まで上がってしまいます。実機ならインとアウトを同時に触って音量調整できるものの、プラグインではなかなかそうはいきません。しかしこのFG-116は、shiftを押しながらイン/アウトのいずれかを回すことでそれぞれが異なる方向に動き、音量を一定に保ってくれます(画面③)。

▲画面③ 筆者は今回Mac環境でチェックを行ったが、FG-116はコンピューターのshiftキーを押しながらインプット/アウトプットのいずれかのゲインを調整すると両方が動き、出力レベルを一定に保ってくれる。画面はその様子で、両ゲイン値が同時に表示されている ▲画面③ 筆者は今回Mac環境でチェックを行ったが、FG-116はコンピューターのshiftキーを押しながらインプット/アウトプットのいずれかのゲインを調整すると両方が動き、出力レベルを一定に保ってくれる。画面はその様子で、両ゲイン値が同時に表示されている

これはかなり便利ですね! また、原音とエフェクト音の割合を調整するためのミックス・ノブが付いていて、パラレル・コンプレッションが簡単に行えるのも今っぽくて良いです。

筆者は実機の1176LNを所有していますが、再現版のプラグインを使っていると“脚色があり過ぎる”と思うことがあります。そのたびに、ビンテージとは言っても、こんなにノイズは無いよ!とツッコミたくなるのですが、FG-116は大仰な色付けをせず、音楽的に聴こえるところに落とし込んでいて非常に好印象です。

FG-401

SSLのバス・コンプを意識したモジュール。マスターに挿して、リダクション1〜2dBの浅いコンプレッションをかける場合に向きそうです。スレッショルドのヘッド・マージンに余裕があり、前段でゲインを下げなくても済むため使いやすいです。筆者はSSLのバス・コンプも実機を所有していますが、再現版のプラグインにはいかにもな感じに音が硬くなるよう設計されているものが多いと感じていました。その点、FG-401は硬いというより透明感のあるサウンドで、まさに原音の特性を変えることなくピークを抑えたいときに有用です。個性的な機能はアンプ回路1と2の切り替え(画面④)。

▲画面④ FG-401では、GUI上のスイッチによりバーチャル・トランスのO N/OFFや回路1/2の切り替えが行える。トランスをONにすると音の密度感が向上。回路1に設定するとタイトなサウンドが得られ、回路2に切り替えると低域の量感が増す。楽曲に合わせて手軽にキャラクターを調整可能だ ▲画面④ FG-401では、GUI上のスイッチによりバーチャル・トランスのON/OFFや回路1/2の切り替えが行える。トランスをONにすると音の密度感が向上。回路1に設定するとタイトなサウンドが得られ、回路2に切り替えると低域の量感が増す。楽曲に合わせて手軽にキャラクターを調整可能だ

回路1はパンチのあるタイトな音色、回路2は低域の伸びたスムーズなサウンドです。

FG-N

NEVE 1073の再現版モジュール。実機は3バンドEQ+ハイパス・フィルターの構成ですが、FG-Nは中域を2バンド化し、4バンド+ハイパス・フィルターとなっています。周波数の設定は、実機がスイッチで切り替えるセミパラメトリックであるのに対し、FG-Nは連続可変に対応。ただし周波数の値をクリックすればセミパラメトリック的にも使えるため、まさに良いトコ取りです。

NEVE人気の理由の一つに、ゲインを上げると気持ち良くひずむことが挙げられます。ただし実機ではゲインを上げた後、上げた分を卓のフェーダーで下げてバランスを取らなければなりません。FG-Nには“DRIVE”スイッチが付いており、押すと音量は一定のまま、ゲイン・ノブの上げ下げでひずみ量を調整できます(画面⑤)。

▲画面⑤ FG-Nのハイパス・フィルター&インプット・ゲイン・セクシ ョン。DRIVEスイッチをONにすれば、インプット・ゲインの上げ下げによってひずみの量をコントロールすることが可能 ▲画面⑤ FG-Nのハイパス・フィルター&インプット・ゲイン・セクション。DRIVEスイッチをONにすれば、インプット・ゲインの上げ下げによってひずみの量をコントロールすることが可能

至れり尽くせりですね! もちろん出音も素晴らしい。

FG-S

SSL SL4000シリーズのEQを再現したであろうモジュール。出音は実機と似ていますが、何と言っても効き方が非常に音楽的。高域と低域を極端にカットしても、ナロー・レンジになる印象がありません。先のFG-NのようなNEVE型のEQは魅力的なサウンドですが、マイクを通っていないデジタル音は特定の帯域が持ち上がっていたりして、対応し切れない局面があったりします。そんなときにこのFG-Sがあると、細やかな設定が可能なので便利だと思います(画面⑥)。

▲画面⑥ FG-Sの低域。デフォルトではシェルビングだが、BELLスイッチをONにするとピーキングになる。周波数ポイントは、NEVE型のFG-Nと同じく連続可変だ ▲画面⑥ FG-Sの低域。デフォルトではシェルビングだが、BELLスイッチをONにするとピーキングになる。周波数ポイントは、NEVE型のFG-Nと同じく連続可変だ

総合的な使用感は、プラグインを触っているというより、新興メーカーのクローンのハードウェアを使っているような気分。オリジナルの実機と似ているけれどキャラクターはそれほど濃くなく、現代にマッチした音です。そして何より使いやすい。とりあえず試してみることをお勧めします!

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年2月号より)

SLATE DIGITAL
VMR
オープン・プライス (市場予想価格:24,000円前後)
▪Mac:OS X 10.7以降、INTELデュアル・コア・プロセッサー、VST/Audio Units/AAX/RTAS対応ホスト(いずれも64ビット対応) ▪Windows:Windows 7(32/64ビット)、INTELもしくはAMDのSSE2対応プロセッサー、VST/AA X/RTAS対応ホスト(いずれも64ビット対応) ▪共通項目:2GB以上のRAM