「Spark 2」製品レビュー:ARTURIAのドラム音源がモジュラー構造を備えバージョン・アップ

ARTURIASpark 2
ここ最近モジュラー・シンセが注目を集めていますが、フランスのシンセ・メーカーARTURIAは、10年以上前からモジュラー・シンセをソフトウェア化していた老舗。そのARTURIAから発売されているドラム音源Sparkが、バージョン2にアップデートされました。早速その実力をチェックしていきましょう。

他社製MIDIコントローラーに対応
タブ式のインターフェースを新採用


Spark 2はMac/Windowsで動作するソフトウェアで、スタンドアローンのほかVST/Audio Units/AAXに対応しています。今回はABLETON Live 9をホストにして、Spark 2はVSTプラグインとして使用します。Webサイトから最新版のインストーラーをダウンロードし、インストール後にインターネット経由でアンロックすれば準備完了。ドングルも必要なく、セットアップに手間はかかりません。以前のSparkは専用のMIDIコントローラーとのセットでしたが、Spark 2はSpark Dubstepなどと同様ソフトのみでの販売。サード・パーティ製のMIDIコントローラーにも対応していますが、今回のレビューでは筆者所有のSpark LEコントローラーを使用しました。Spark 2を起動すると最初に表示されるMAIN画面は全体のステータスを表示しており、MIDIコントローラーを使って演奏する上で必要な情報が表示されています。Spark LEコントローラーのタッチ・パッドで操作するライブ・エフェクトの情報などもここに表示され、細かな設定が可能。全体のインターフェースは専用ハードウェアを模したアニメーション式から汎用性の高いタブ式に変更されており、動作も軽快です。次はLIBRARYの画面に移り、ドラム・キットを読み込みましょう。ここでは①ソングまで含めた“PROJECT”、②ドラム・キット全体を読み込む“KIT”、③含まれている個々の楽器=“INSTR.”を読み込めます。キットに含まれる楽器の種類がアイコン表示され、視認性も向上。サウンド・エンジンは、従来のサンプル・プレイバック/アナログ・モデリング/物理モデリングの3種類に加え、REXプレーヤーも追加されています。 

12種類のモジュールを搭載し
より自由度の高い音作りが可能に


Spark 2のサウンドを聴くために、いろいろとプリセットを切り替えながら音を出してみましたが、ARTURIAシンセのキャラクターが前面に押し出され、個性が強いサウンドが多い印象。プリセットには“DR-909”など有名なリズム・マシンを模したものも含まれていますが、実機のサウンドを正確にエミュレートしたというよりも、“ARTURIAのシンセでその機種に近いサウンドを作ってみた”という感じです。そのため、大量のプリセットの中からハマりそうなサウンドを選ぶより、いちからサウンドを組み立てる使い方に向いているように感じました。今回は新機能のモジュラーを使いたいので、“Template”と名付けられたモジュラー用のプリセットを使い、キック、スネア、ハイハットと個別にインストゥルメントを読み込んでキットを組んでいきます。音作りはSTUDIOタブで行います(メイン画面)。ここにはPitchやDecayなど音作りに使うおなじみのノブが上部に並んでおり、エフェクトのインサートも可能。ここでのパラメーターの名前や操作方法は一般的なものが多いので、慣れている方ならサクサク音作りできるでしょう。より深い音作りをする場合は、MODULARタブをクリックします。画面には結線されたモジュールがずらっと並んでおり、“おおっ、そうきたか!”と感じました。Spark 2は、より自由度の高い音作りのために各インストゥルメントの内部は完全なモジュラー構造で作られており、STUDIO画面はモジュラーを分かりやすく表示したものなのです。モジュールは全12種類で、“OSCILLATOR”“SAMPLER”などの音源から“ENVELOPE”“LFO”などのモジュレーション系、さらには物理モデリング用モジュールまでそろっています。それではこのMODULARで、ROLAND TR-808のカウベルっぽい音を作ってみましょう。マニュアルではトリガーとなるPAD/ENVELOPE/OUTPUT×2のモジュールを最初に組むよう推奨されているので、そのやり方にのっとってモジュールを組んでいきます。TR-808のカウベルは2和音で構成されているので、DECAYを短めにしたENVELOPEの後段にOSCILLATORのモジュールを2つインサートし、それぞれの音程を少しズラします。次にこの2つのオシレーターの音声をミックスするため、OSCILLATORの後段にMINIMIXERをインサートします。次にその後段でローパス・フィルターをかけるためFILTERをインサートし、FILTER用のENVELOPEも配置します(画面①)。
▲画面① 新たに搭載されたMODULAR画面で、ROLAND TR- 808のカウベル風の音色を作ったところ。トリガーは黄色、オーディオは赤というように、通る信号によってケーブルが色分けされており、ビギナーでも視認性よく作業を進められるだろう。モジュールは画面のもののほかにリング・モジュレーター、フリケンシー・シフター、CVモジュレーターなど12種類を用意。またマクロコントロールを6つまで設定でき、全体的な音色はそこで制御する ▲画面① 新たに搭載されたMODULAR画面で、ROLAND TR-808のカウベル風の音色を作ったところ。トリガーは黄色、オーディオは赤というように、通る信号によってケーブルが色分けされており、ビギナーでも視認性よく作業を進められるだろう。モジュールは画面のもののほかにリング・モジュレーター、フリケンシー・シフター、CVモジュレーターなど12種類を用意。またマクロコントロールを6つまで設定でき、全体的な音色はそこで制御する
 こうしてモジュールを組んでいくさまはモジュラー・シンセそのもの。ハマりがちなパッチングも、モジュールの入出力が種類ごとに色分けされており、視認性は良好です。また、ケーブルをダブル・クリックすると、モジュレーションの量や極性をエディット可能です。こうしてドラム・サウンドを工作感覚で作れるのも楽しいですね。ただ、複雑なパッチングになると画面がモジュールで埋まってしまい、リサイズやズーム・イン/アウトもできないので、今後のバージョン・アップに期待したいところです。音色ができたら次は音を変化させたくなりますが、モジュラー構造ではどこを触ればよいのか分かりづらいかもしれません。そこで音色変化を簡単にコントロールできるよう、MODULAR画面には6つまでのマクロコントロールが装備されており、ノブに各モジュールのパラメーターを割り当てることができます。 

Liveのセッションビューに似た
“チェイン”による再生


音作りの次は、打ち込みでリズム・パターンを組んでいきましょう。SEQUENCERタブをクリックします。Spark 2はROLAND TRシリーズのボタン式ステップ・シーケンサーを踏襲しており、ノートだけでなくFilterやDecayなどのパラメーターのオートメーションも記録可能。オートメーションの編集ツールも5種類用意されており、ただ演奏したオートメーションを記録するだけでなく、ステップ・シーケンサーのような音色変化を付けられます。また、この画面からドラッグ&ドロップしてDAWにオーディオ/MIDIを書き出すこともできます。幾つかパターンを組んだら、次はSONG画面を開いて曲構成を作りましょう。作成したパターンをドラッグ&ドロップで並べるだけで、簡単にソングを組めます。SONG画面では新たに“チェイン”という概念が導入されました。これは、組んだパターンを最大8つまで縦に並べ、上から下へとループ再生する構造。チェイン下部にある矢印をクリックすると、再生が右のチェインに移るようになっています。ABLETON Liveのセッションビューをドラムに特化したような感じで、6小節のパターンAを再生したら、2小節パターンAのフィルを入れて、パターンBに移って同様の再生をしたら、またパターンAに戻る、というようなシーケンスが簡単に組めます(画面②)。
▲画面② 一新されたSONGモード。“チェイン”という概念が導入され、作成したパターンを並べて自由度の高い再生が可能。Spark専用コントローラーを使用している場合は、ステップ・ボタンを使ってパターンを選択でき、曲構成をリアルタイムでオーディションする使い方にも向く ▲画面② 一新されたSONGモード。“チェイン”という概念が導入され、作成したパターンを並べて自由度の高い再生が可能。Spark専用コントローラーを使用している場合は、ステップ・ボタンを使ってパターンを選択でき、曲構成をリアルタイムでオーディションする使い方にも向く
 音作りや打ち込みが一通りできてきたら、MIXER画面に移動してミキシングを行いましょう。アナログ・ミキサーを模したインターフェースで、18種類のエフェクトから、センドで2系統/インサートを2系統使用できます。エフェクトは一通り必要なものがそろっていますが、チャンネルごとにパラアウト可能なので、DAW側でお気に入りのプラグインを使うこともできます。なおプリセットを選んだ場合は、ここでがっつりコンプがかかっていることもあるので、注意しましょう。 一通りSpark 2をチェックして印象に残ったのは、“MIDIコントローラー対応のドラム用モジュラー・シンセ”への進化でした。またインターフェースの変更によるタブの配置が絶妙で、ワークフローが改善されたのも大きなポイント。モジュラー・シンセが多数リリースされているトレンドをとらえたARTURIAが、今後どのような方向に発展していくか楽しみです。  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年9月号より)
ARTURIA
Spark 2
26,000円
▪Mac:Mac OS X 10.7以上 ▪Windows:Windows 7/8 ▪共通項目:2GHz以上で動作するマルチコア・プロセッサー、4GB以上のRAM、2GB以上のハード・ディスク空き容量、インターネット環境