3種類のサウンド・ライブラリーは
それぞれ適切なマイクで録音
今回のサンプルの対象となったYAMAHA CFXという機種は、YAMAHAのフルコンサート・グランドCFIIIの上位機種として2010年にデビューして、まさに向かうところ敵無しの、最高品質のピアノです。私が弾いた印象ですが、YAMAHAのフルコンサート・グランド・ピアノは、これまでも明るい音質が特徴的で、本来ポップスなどにも映える音質を持っていると思います。それが今回の新機種CFXでは、さらにその、クリスタルのような輝く音質に磨きをかけ、一音鳴らすだけでもうっとりしてしまうような、まさに珠玉のコンサート・グランドと言えるのです。それを今回、ロック／ポップスの殿堂、アビイ・ロード・スタジオのエンジニア・チームによる丁寧な収録により、非常に高品質なサンプル音源としてリリースされることになりました。GARRITANは、大容量のオーケストラ音源をいろいろとリリースしていますが、今回のこのパッケージは、YAMAHA CFXのみの収録ながら、122GBと大変容量が大きいです。Mac/Windows対応で、スタンドアローンのほか、VST/Audio Units/RTAS/AAXプラグインとしても動作します。収録内容は、Classic、Comtemporary、Playerと、３種類のサウンド・ライブラリーがあり、それぞれ名前の通り、クラシック寄り、現代的なもの、アビイ・ロード・スタジオで演奏しているような音色になっています。それぞれの音色は、CLOSE、AMBIENTに適切なマイクをチョイスして録音されており、各ライブラリーには10種類程度のプリセットがありますが、CLOSE、AMBIENTのマイク音量はそれぞれを上げ下げできるようになっていて、自分の判断で音作りが可能になっています（メイン画面）。大変便利ですね。それぞれのサンプルの印象から感じたことですが、Classicはやはりその空気感とナチュラルな鳴りが魅力的です。CLOSE、AMBIENTのマイク・バランスで音作りすれば、これをポップスのピアノとしても生かすことも可能だと思います。もともとYAMAHAは、分かりやすいキャラクターを持ったピアノ・メーカーですから、とても汎用性のある音色です。Comtemporaryも、Playerも、設定された用途以外にも幾らでも使える、汎用性の高い音質のサンプルでした。お好みでのバリエーション違いということで使うと良いと思います。そのままの設定ですと割とリッチでウェットなサウンドですが、調整次第で、ドライな音作りも可能。本当にうまくサンプリングしてある印象です。
調律のごとく細かい設定が可能
2系統の3バンドEQを搭載
CLOSE、AMBIENT以外にもさらに踏み込んだ音作りも可能です。上部のPIANOボタンを押すと、ベロシティのカーブや、蓋の開け閉め、弦の共鳴、リリースのクロスフェード、ペダル・ノイズなどあたかも調律しているがごとくに設定できますし、同じくSTUDIOでは、コンボリューション・リバーブの設定のほか、CLOSE、AMBIENTそれぞれに３バンドEQで調整が可能。これらを積極的に生かせば、いろんなジャンルに対応できる音作りが可能でしょう。また、リアルタイムの演奏という観点では、特に重いエンジンを搭載しているというわけではないので、近年のコンピューターのスペックであれば、例えばライブ演奏などの場にも連れ出すことができると思います。発音の制限やメモリー、使用ディスク容量の管理などの設定も可能なので、ここをうまく使えば、スペックの低いコンピューター環境でのリアルタイム打ち込みなどにも対応できます。これまで数多くのグランド・ピアノのサンプルがリリースされてきました。それぞれに個性的な音場を持ち、どの場面でどれを使うか、選択肢が多く、迷いながらのチョイスにもなってきていると思います。海外製のグランド・ピアノの比重が多い世の中、新たに登場したこのソフトは、これまで無かったパズルのピースを埋めるような製品に仕上がっていると思います。数々の定番ソフトを使っている方も、この国産最高峰のグランド・ピアノのサンプルをバリエーションとして投入される価値はあるでしょう。キャラクター違いとしてももちろん、この中でもバリエーションがたくさん作れますので、初めてのピアノ・サンプル・ライブラリーとしても、最高のパッケージだと言えます。それにしても、このコンサート・グランドを作ったYAMAHAの技術力にあらためて感嘆。素晴らしいですね。それを、こんなお手ごろ価格で個人環境にも入れることができるなんて……と思いますが、良い時代ですね。ぜひ、この価値ある最高峰の楽器を体感してほしいと思います。 （サウンド＆レコーディング・マガジン 2014年9月号より）
