「TOONTRACK EZ Drummer 2」製品レビュー:音色の刷新に加えパターン検索など操作性が向上したドラム音源

TOONTRACKEZ Drummer 2
TOONTRACKのドラム音源EZ Drummerが8年の時を経てバージョン・アップ、“EZ Drummer 2”とド直球の名前を冠してリリースされました。マルチマイクで録音されたドラムのオーディオ・ファイルを扱う生音再現系のソフトながら、軽快な動作や取っつきやすいインターフェースに定評があり、音色の刷新に加え曲構成を作るのに便利な新機能が搭載されているようです。どのような進化を果たしたのか、基本的な部分からチェックしていきたいと思います。

Modern/Vintageの音色キットは
ビンテージ・コンソールを用いて収録


EZ Drummer 2はMac/Windows対応、スタンドアローンのほかVST/Audio Units/RTAS/AAX Nativeプラグインとしても動作します。初代EZ Drummerと完全互換しており、拡張音源のEZXシリーズも引き続き使用できます。インストール後、ソフトを立ち上げるとドラマーの視点で描かれたドラム・キットが大きく表示され(メイン画面)、各楽器をマウスでクリックすると発音します。画面右にはハンド・クラップ、シェイカー、タンバリンなど通常のドラム・キットには含まれない楽器が表示され、こちらもクリックして音色を確認できます。画面右上にあるオレンジ色のスロットには、立ち上げた時点では“Basic”と表示されています。ここは音色プリセットを選択できるセレクターで、あらかじめ“Modern”“Vintage”という2つのライブラリーが用意されています。ModernはNEVE 88RとEMI TGコンソール、一方のVintageはEMI Redd 51コンソールを使用して収録されているとのことで、音質へのこだわりが伺えます。Modernに含まれる音色プリセットは“Basic”を筆頭に“80s”や“Disco Pop”など16種類。一方のVintageも“Dirty Rock”“Glam Delay”など11種類のプリセットを収録しています。好みのキットを選んだ後で、例えばスネアの音だけをほかに差し替えることも可能です。楽器の下にある小さな矢印をクリックすると変更可能な音色が表示され、例えばスネアは“5x14"Ludwig 400”といった感じで選ぶことができ、ここでピッチや音量の調整も可能です。こうして好みのパーツで構成したドラム・キットは、先述したスロットをクリックすると表示される“User Presets”から“Save As”を選ぶと名前を付けて保存でき、以降スロット内にリスト表示されます。 

BROWSER/SEARCHの両ページで
MIDIフレーズを手早く検索


次に、画面上部に4つ並んで表示されているDRUMS/BROWSER/SEARCH/MIXERの各ページを紹介したいと思います。まず“DRUMS”ですが、これはここまで紹介したドラム・キットが表示されているページです。EZ Drummer 2は音色と同時に多彩なリズム・パターンを収録しているのが特徴。“BROWSER”ページでは、膨大なMIDIフレーズ(8,000種類以上のリズム・パターンを収録!)の中から、求めるグルーブをテンポ/拍子などを手がかりに検索できます(画面①)。
▲画面① “BROWSER”画面。まず“Ballad”“Uptempo”など大まかな音楽カテゴリーを選んだ上で拍子や曲パートを決め込んでいくことで、条件に合致するMIDIフレーズのバリエーションが右にリスト表示される ▲画面① “BROWSER”画面。まず“Ballad”“Uptempo”など大まかな音楽カテゴリーを選んだ上で拍子や曲パートを決め込んでいくことで、条件に合致するMIDIフレーズのバリエーションが右にリスト表示される
 まずBallad/Midtempoなどの音楽カテゴリーを選択し、さらにSwing3/4などの拍子、Intro/Verse/Fillsなどパートの選択を進めていくと、目的に沿ったMIDIフレーズのバリエーションがリスト表示されます。試聴機能も搭載されており、どんなフレーズかをすぐ確認でき便利。ちなみに今回のチェックはABLETON Liveにプラグインとして立ち上げて行ったのですが、このMIDIフレーズはLiveのMIDIトラックにダイレクトにドラッグ&ドロップできるなど、DAWとの連携もよく練られています。EZ Drummer 2ではこのMIDIフレーズの検索機能が強化されており、その筆頭が“SEARCH”ページにある“Tap 2 Find”です。これはマウスやMIDIコントローラーなどで求めるリズム・パターンを軽く打ち込むことで、近いイメージのMIDIフレーズを選出してくれるユニークな機能。やり方は簡単で、画面左上のTap 2 Findボタンをクリックすると現れるドラム・キットをクリックに合わせて1小節たたくだけ(画面②)。
▲画面② “Tap 2 Find”のインターフェース。キットをたたいて1小節のパターンを入力(クオンタイズにも対応)。下の“Show Results”ボタンを押すと、打ち込んだパターンと近いMIDIフレーズを検出してくれる ▲画面② “Tap 2 Find”のインターフェース。キットをたたいて1小節のパターンを入力(クオンタイズにも対応)。下の“Show Results”ボタンを押すと、打ち込んだパターンと近いMIDIフレーズを検出してくれる
 シーケンスはひたすらループしており、ダビングも可能です。打ち込んだ後に“Show Results”ボタンを押すと選出されたMIDIフレーズが一覧表示され、“Matching”欄で打ち込んだパターンとどれだけ合致しているかを最大100%で表示してくれます。このSEARCHページでは、ほかにもPop/Rock/Countryなど7種類の“Genre”や、Beat/Fillといった10種類の“Type”から目的のフレーズを絞り込めます。このようにEZ Drummer 2は多彩なフレーズをトライ&エラーでどんどん選んでいくことで、結果的に幅広いジャンルに対応できているように感じました。とにかく手軽なので、名前で判断する限りはミスマッチかと思っていたMIDIフレーズが、意外と曲にフィットするという発見も増えそうです。 

お気に入りのパターンから
曲構成が作れるSong Creator機能


こうして選び出した好みのMIDIフレーズを順番に並べられるセクションが、新しく搭載された“Song Track”ウィンドウです。リズム・フレーズを取りあえず並べておく、繰り返すなどの作業をソフト内で実現し、全体の構成を視覚的に確認できます(画面③)。このSong Trackはどのページを開いても同じ画面下部に表示されています。
▲画面③ バージョン2より搭載された“Song Track”ウィンドウ。選択したパターンごとに色分けして表示され、DAWのような感覚で1曲を通してのリズム展開を組むことができる ▲画面③ バージョン2より搭載された“Song Track”ウィンドウ。選択したパターンごとに色分けして表示され、DAWのような感覚で1曲を通してのリズム展開を組むことができる
 もう一つ、今回のバージョン・アップで注目なのが“Song Creator”機能。画面右下にあるSong Creatorボタンを押すと起動し、任意のMIDIフレーズを“MIDI Drop Zone”にドラッグすると、そのグルーブの流れに合ったIntro/Verse/Chorusなど曲展開のMIDIフレーズをおのおの数パターンずつ検出します。それらを選択し並べていくことで、一曲分のドラム・トラックの流れを作れるというわけです(画面④)。
▲画面④ “Song Creator”のインターフェース。上の“Drag MIDI here to get suggestions”と記されたウィンドウに好みのMIDIフレーズをドロップすると、それに合ったIntro/Chorusなどパート別のMIDIフレーズを数パターンずつ表示。それらを選択して下のSong Trackウィンドウに並べていくことで、流れのあるリズム構成を手軽に組める ▲画面④ “Song Creator”のインターフェース。上の“Drag MIDI here to get suggestions”と記されたウィンドウに好みのMIDIフレーズをドロップすると、それに合ったIntro/Chorusなどパート別のMIDIフレーズを数パターンずつ表示。それらを選択して下のSong Trackウィンドウに並べていくことで、流れのあるリズム構成を手軽に組める
 最後の“MIXER”ページは、音を混ぜたり各パートの定位を動かせるセクションで、ページを開くと、中央にシンプルなルックスの内蔵ミキサーが表示されています。“Tape”“Reverse Reverb”など効きの良い内蔵エフェクトもここで使えますが、DAW(スタンドアローンの場合はオーディオ・インターフェースの各出力)へマルチアウト可能なので、プラグイン・エフェクトなどでさらに音色を追い込むこともできます。 

パターン選択のトライ&エラーが容易
意外な組み合わせが功を奏すことも


実際の制作で使用してみての感想ですが、音質的にEZ Drummer 2はオーディオ・エンジンが“完全に刷新”されているとのことで、音色自体のクオリティが高く、メーカーのドラムの質感/空気感/音色に対する意気込みが伝わってくるようでした。個人的に好感触を持った音色はModernライブラリーの“Dry Rock”。文字通りドライな質感ときらびやかなシンバル類の音色が印象的で、ジャンル検索した“Jazz”のMIDIフレーズをあえて組み合わせたところ、ライド・シンバルの音色が際立つグルーブを聴かせてくれました。このキットは“Dry”と言いつつ、MIXERページで“Amb”のフェーダーを上げれば空気感が出てきます。いわゆる打ち込み系の楽曲に、こうした空気感のあるサウンドが入ることで、トラックの音像が立体的になるように思います。EZ Drummer 2は検索したMIDIフレーズをエディットして使用するわけですが、好みの部分を抽出するという意味では、レコード・サンプリングの手法と通じる部分もあるような気がしました。なので、レコードをジャケットで選ぶように、あえて検索/試聴はせず、ランダムにMIDIフレーズを並べ、そこから自分の耳を頼りに好みのグルーブを取り出すという使い方も面白そうです。また、MIDIフレーズ自体は基本的にどのソフトにも適用できるわけで、EZ Drummer 2のリズム・パターンでほかの音源を鳴らしても面白いでしょう。そう考えると、これだけ多彩なMIDIフレーズが収録されていることがいかに制作に役立つか、本ソフトを使用してあらためて認識しました。 “EZ”の名の通り、簡単な操作でいろいろな使い方ができるEZ Drummer 2。検索機能の強化などフォーカスが絞られており、テンポ良くリズムを追い込めるのが何よりの魅力です。幅広い音楽に対応する即戦力ツールと言えるでしょう。  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年7月号より)
TOONTRACK
EZ Drummer 2
オープン・プライス (市場予想価格:16,200円前後)
▪Mac:Mac OS X 10.6以上、INTEL Core Duo 1.66GHz以上のCPU、2GB以上のRAM ▪Windows:Windows 7(最新サービスパック 32/64ビット)以上、INTEL Pentium 4もしくはAMD Athlon以上のCPU、2GB以上のRAM