ROB PAPENBlue II

個性的なラインナップを誇るオランダのソフト・シンセ・メーカー=ROB PAPEN。ビート・メイカーには高い人気を誇り、ユーザーがフォーラムで独自のパッチを公開するなどネット上でも盛り上がりを見せています(www.kvraudio.com/forum/viewforum.php?f=55)。今回、同社の代表的ソフト・シンセであるBlueの最新バージョン=Blue IIが登場しました。減算方式に加えて加算合成やFMなども可能な“クロスフュージョン”と呼ばれる6基のオシレーターを引き続き搭載するものの、新たに波形&サンプルが追加されたほか、エフェクトなども大幅に強化されているようです。
豊富なアルゴリズムで
オシレーターの接続順を設定
Blue IIはMac/Windowsで使用可能。Audio Units/VST/AAX Nativeに対応しており、ほとんどのDAWでプラグインとして使えます。Blue IIはシンセサイザーとしての基本性能の高さに加え、視認性の良いエンベロープやアルペジエイター、また本バージョンより同社のBladeで好評を博したXYパッドも搭載され、サウンド・コントロールの自由度がより高まっています。インターフェースは初代からマイナー・チェンジされ、プリセット&全体設定/オシレーター/フィルター/アンプ/LCDパネル/プレイ・モードの6セクションで構成されます(メイン画面)。まずプリセット&全体設定では、膨大なプリセットから目的のサウンドを手早く選択できるよう設計されたバンク・マネージャーのほか、簡潔な操作でサウンドを劇的に変化させるイージー・モード、エフェクト、XYパッドなどにアクセスできます。内蔵エフェクトは4系統/35種類が用意され、ディレイやリバーブなど基本的なものから、出力される音を指定したタイミングでゲートする“Gator”などユニークなエフェクトまで、使いやすいチョイスとなっています。オシレーターはトータル6基を備え、各オシレーターで変調やPD(フェイズ・ディストーション)/WS(ウェーブシェイピング)のモードを選択し、それぞれフィルター/エフェクターに送って音作りをします(画面①)。


一括してパラメーターを操作できる
イージー・モードを搭載
Blue IIのインターフェースはよく整理されていますが、複数のオシレーターのマトリクスや連動するパラメーターを駆使しての音作りは、敷居が高いと感じる方もいるかもしれません。Blue IIは4,000種類を超えるプリセットを備えており、ビギナーはまずそれらを立ち上げてみることをオススメします。プリセットは目的のサウンドが探しやすいよう、バンクで分類されています。例えば12番のバンクは“Dubstep 01”となっており、“047 SoloSinusSolo”や“057 More or Less Mute arp”などの音色をコードで鳴らすとダークな雰囲気が出て、アンダーグラウンドなクラブ・ミュージック全般と相性が良いでしょう。“Analog Bass 01”バンクの“114 Sub pusher Bass”は三角波を利用したサブベースで、Fキーあたりでサウンド・システム対応の超低域(40Hz前後)を奇麗に鳴らしてくれます。この音色とほかのオシレーターを並列で出力すれば、ディープなベース・サウンドが得られるでしょう。プリセットはリストからマウスで選択する以外にも、コンピューターのキーボードでシーケンスを鳴らしながら次々に切り替えることができるなど、操作性も優れています。また、主要なパラメーターのみを変更できるイージー・モードを利用すれば、プリセットを微調整するだけでユニークなサウンドが得られます(画面③)。変化する幅が大きいので、思いがけない音色に出会えるかもしれません。

時間軸に沿って音色が変化する
XYパッドを新たに装備
クロスフュージョン・シンセサイザーならではの音作りとしては、例えば各オシレーターに波形をセットし、先述したLCDパネルのアルゴリズムで接続順を替えて倍音をプラスするなどの合成が可能です。例えばオシレーターA/Cを“Saw”、オシレーターBを“Rez”に設定してアルゴリズムの“#20”を選択し、直列に接続してみます。この状態で各オシレーターのセミトーンを少し触るだけでも、ブローステップやEDMで聴かれるようなギラついたデジタル・サウンドが得られます。パッドの場合は“Sample ST”内に入っている“Vox”を組み合わせて、モジュレーションをXYパッドで揺らしつつ空間系のエフェクターを施すと、スペイシーな雰囲気が出るでしょう。XYパッドは描かれた軌跡に沿ってあらゆるパラメーターを制御します。“Control”ボタンから円や四角などの図形を読み込み、X軸/Y軸それぞれの周囲にある16個のノブにフィルターのフリケンシーやオシレーターのセミトーンなどをアサインすると、時間軸に沿って音が劇的に変化します(画面④)。

オールマイティな音楽に対応
シンセ・ベースは低域が濁らず優秀
Blue IIの出音としては、ノコギリ波のエグい音から透明感のあるパッドまでオールマイティ。ジャンルを問わず幅広く使用できるでしょう。筆者的にはやはりベース系に耳が行きますが、総じて質は高く、計365種類の音色が用意されているので、スタイルに合わせてサウンドを選べます。例えば現在アンダーグラウンド・シーンで支持を得ているPUNCH DRUNK、HESSELE AUDIOなどのレーベルの作品で聴かれるようなソリッドなベースは、“Digital Bass”のバンクから選ぶと雰囲気が出るでしょう。今回のレビューにあたってアナライザーで周波数を確認したところ、音色ごとに適切にアルゴリズムをコントロールしてあるため、ベース系のプリセットにありがちな“基音が濁って60Hz以下の超低域が鳴らない”というケースも少なく、とても優秀でした。 Blue IIは、アナログ/デジタルの良い部分を兼ね備えており、オシレーターの組み合わせに加え、フィルターとエフェクターを駆使すれば無限とも言える音作りが可能です。マニアックなシンセ・ファンが楽しめる構成でありながら、スピードが求められる現場やビギナーにも即戦力となるプリセットも搭載し、使い勝手の良い製品となっています。往年のアナログライクな音色からエッジの効いた攻撃的なサウンドまで幅広く作ることができ、クリエイターにとっては魅力的なソフト・シンセと言えるでしょう。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年7月号より)
ROB PAPEN
Blue II
オープン・プライス (市場予想価格:18,500円前後)
▪Mac:Mac OS X 10.6以上
▪Windows:Windows Vista/7/8
▪共通項目:インターネット接続環境