「ALLEN&HEATH QU-16」製品レビュー:HDDヘ直接マルチトラック録音が行えるPA向け16chデジタル卓

ALLEN&HEATHQU-16
GLDやILiveといったデジタル・コンソールに力を入れているALLEN&HEATHから、同社では最もコンパクトな16ch仕様のQU-16がリリースされました。しかも、USBハード・ディスクを接続すると、コンピューターやその他のハード無しでマルチトラック録音までできるそうです。

24ビット/48kHzで18tr録音
I/Oボックス拡張やiPad操作にも対応


まずはスペックから見ていきます。サイズは幅440mm、トップ・パネルの天地が471mmと非常にコンパクトな印象。重量も10kgと軽量です。そして全体がL字アングルのようなユニークな形状になっています(写真①)。

▲写真① 左側から見ると、数字の7のような形状をしている。この独特な形状によって熱の放出効率を高め、強制空冷用ファンを省くことに成功。ファンの動作音を排除した。ボディはZintecという亜鉛コートをかけた鉄製で、通常の金属よりも強固だという ▲写真① 左側から見ると、数字の7のような形状をしている。この独特な形状によって熱の放出効率を高め、強制空冷用ファンを省くことに成功。ファンの動作音を排除した。ボディはZintecという亜鉛コートをかけた鉄製で、通常の金属よりも強固だという
これはファンを搭載せず、空気の流れを作り熱を逃がすためにこのようなデザインになっているそうです。入力は16chで、16本+マスターの100mmモーター・フェーダーが並んでいます。またステレオ・インプットを3つ装備し、うち1つはトップ・パネルにステレオ・ミニ・ジャックで用意されています。出力はMain L/RとMixアウト×10(モノラル×4+ステレオ3系統)。ほかにも2TRKアウト、アウトプットするソースを選択できるAltアウト、AES/EBUデジタル出力も実装しています。各インプット・チャンネルにはプリアンプ(48Vファンタム電源対応)、フェイズ・スイッチ、4バンドEQ+ハイパス・フィルター、ノイズ・ゲート、コンプレッサー、ディレイを搭載。隣り合う奇数と偶数チャンネルはステレオ・リンク可能です。出力側を見ると、Main L/RとモノラルMixアウトにはグラフィックEQ、コンプ、ディレイが搭載。ステレオのMixアウトにはパラメトリックEQ、コンプ、ディレイがあります。後述するエフェクトは最大4系統が同時使用可能。録音機能も驚くほど充実しており、“Qu-Drive”というUSBポート(写真②)にハード・ディスク(以下HDD)を接続すると、2ミックス録音はおろかなんと24ビット/48kHzで最大18trのマルチトラック録音が可能。またリア・パネルのUSB B端子をMacと接続するとオーディオ・インターフェースとしても機能し、DAWソフトを使用してch1〜16+Main L/R+ステレオ×3のマルチトラック録音が行えます。そのほかdSNAKE端子で同社のI/Oボックス(GLD AR2412/AR84のいずれか1台)とデジタル接続できたり、“Qu-Pad”というAPPLE iPad用アプリからWi-Fiルーター経由でワイアレス操作も可能(近日対応予定)。録音/ライブ・サウンドを問わずポテンシャルの高いミキサーだと思います。
▲写真② トップ・パネル右上にあるQu-Drive用USB端子にUSBハード・ディスクを接続すると、QU-16がマルチトラック・レコーダーに。ch1〜16+任意のステレオ・ペアで計18tr の同時録音が行える ▲写真② トップ・パネル右上にあるQu-Drive用USB端子にUSBハード・ディスクを接続すると、QU-16がマルチトラック・レコーダーに。ch1〜16+任意のステレオ・ペアで計18trの同時録音が行える
 

タッチ・スクリーンと厳選したノブによる
直感的な操作性を獲得


触ってみてまず素晴らしいのは、非常に洗練されたデザイン。操作は基本的にタッチ・スクリーンと、ノブが並んだプロセッシング・パネルを使うのですが、非常に分かりやすく、使いやすいです。説明書を読まずに使い始めても、簡単に操作できました。フェーダーがインプット全16ch分すべてパネル上に配置されていて、余計なレイヤー切り替え操作が必要ないのもうれしいです。画面も見やすく、タッチに対する反応も良く、全くストレスを感じませんでしたし、ノブも大きめで非常に分かりやすく配置されています。特に4バンド・パラメトリックEQは、Q、周波数、ゲインを個別のノブで直感的に操作できます。Mixアウトなどへのアクセスもパネル右下のMix Selectキーを押すだけ。ミュージシャンのモニターへの要望にも素早く対応できました。さすがに出力側のグラフィックEQともなるとタッチ・スクリーンでは操作しづらいのですが、スライダーをチャンネル・フェーダーに展開する機能が付いているので問題ありません(画面①)。
▲画面① グラフィックEQ。青い16バンドがフェーダーに展開されている部分で、もう一度フェーダー・フリップ・ボタンを押すと右のバンド群がフェーダーにアサインされる ▲画面① グラフィックEQ。青い16バンドがフェーダーに展開されている部分で、もう一度フェーダー・フリップ・ボタンを押すと右のバンド群がフェーダーにアサインされる
必要なものをできる限り分かりやすく、操作しやすく、シンプルに配置しているこのデザインには同社のデジタル・ミキサーへの経験と熱意を感じます。デジタル・ミキサーの操作性ではトップ・レベルだと感じました。続いて音質をチェック。Mic入力にSHURE Beta 57Aを接続して声でチェックしてみると、多少ドンシャリな印象ですが、抜けは良くS/Nも良好。チャンネルEQも効きが良く、操作の反応も速く好印象です。4バンド・パラメトリックなので音作りは非常に楽です。コンプやノイズ・ゲートも細かいパラメーターまで設定可能で、快適に使用できます。特にコンプは4種類の中から選べ、オート・コンプも使えるのでいざというときに重宝するでしょう。さらに、リアルタイム・アナライザーがMain L/Rアウトに内蔵されているので、ハウリング補正もスムーズに行えました。 

効きの良いチャンネル・ダイナミクス
空間系などエフェクトも4種同時使用


 次に“Qu-Drive”でのマルチトラック・レコーディングを試してみます。このとき、いったんHDDを本機でフォーマットしなければならないので、空のHDDを用意します。インプット・アサインを決めたら、後は“Multitrack”画面を呼び出し、録音ボタンを押すだけと非常に簡単(画面②)。録音後はWAVファイルが指定のフォルダーに格納されています。
▲画面② Multitrack録音画面。“CH Source”でインプットを設定したら、後は録音ボタンを押すだけ。録音済みファイルを再生しフェーダーに立ち上げることも可能だ ▲画面② Multitrack録音画面。“CH Source”でインプットを設定したら、後は録音ボタンを押すだけ。録音済みファイルを再生しフェーダーに立ち上げることも可能だ
マルチトラックの再生も非常に簡単で、各チャンネルをCH Sourceでアナログ・インプットからUSBに切り替えるだけ。HDDさえ用意すれば、いつでもマルチトラック録音ができるのは非常に魅力的です。また、Mac用オーディオ・インターフェースとしても機能するので、ライブ録音用ミキサーとしても非常に重宝するでしょう。せっかくマルチ録音した素材があるので、そのままプレイバックをしながらミックスしてみました。前述のEQに加え、効きの良いコンプ&ゲートのダイナミクスで音を整えていきます。またハイパス・フィルターは周波数可変なので、これを調整してバランスを取っていきます。ダイナミクスやフィルターはいずれも効きが良いです。こうしたミックスで内蔵エフェクト“iLive FX”を試してみました。リバーブは49種、ディレイは“Delay Kraftwerk”という遊び心あるものを含め10種類をプリセット。そのほかコーラス、フランジャー、フェイザー、A.D.T.(ダブラー)などモジュレーション系が15種類、ゲート・リバーブは10種類あります(画面③)。
▲画面③ ビンテージのアナログ・エフェクターを模したと思われるフランジャー。画面内のパラメーターに触れ、画面右下のノブを回すと効率的にエディットが行える ▲画面③ ビンテージのアナログ・エフェクターを模したと思われるフランジャー。画面内のパラメーターに触れ、画面右下のノブを回すと効率的にエディットが行える
まずリバーブは、小型ミキサーに内蔵されているものとは一線を画すクオリティ。パラメーターはプリディレイ、 ディケイ・タイムなどの4種類が常時表に出ていて、より細かく設定したい場合はExpertモードに多数のパラメーターが用意されています。中にはEMT 250のエミュレーションなどもあり、ディレイと組み合わせるときれいになじむボーカル用リバーブとして使えます。こうしたときに、トップ・パネル右端のSoftキーにディレイのタップ・テンポをアサインしておくと、楽曲のテンポに合わせてディレイ設定が行え便利です。またボーカル向けとしてはダブラーも用意されているのもありがたいです。これだけの種類のエフェクトを、同時に4つ使えるのは非常に便利でした。 マルチトラック・レコーディング、ワイアレス操作など多彩な機能性を持ちながら、ミキサーとしての基本性能や操作性に妥協の無い優れたデザインのデジタル・ミキサーだと思います。ライブ・ハウスなどでの利用はもちろん、ホールでの移動用ミキサー、クラブ、商業スタジオ、ホーム・スタジオなど、あらゆるところで活躍してくれそうです。このスペックでこの価格ですし、しかもコンパクト。素直に良い製品だと感じました。 
▲リア・パネル。左上からランプ用端子とトークバック入力(XLR)、インプット1〜16(XLR&TRSフォーン)、左中段から右にステレオ・イン(TRSフォーン×2)が2系統、AES/EBU出力(XLR)、dSNAKE端子、2TRKアウト(TRSフォーン×2)、Altアウト(TRSフォーン×2)、メイン出力(XLR×2)、Mixアウト1〜10(XLR)、左下にはWi-Fiルーター接続用のイーサーネット端子とパソコンとの接続用USB端子が並ぶ ▲リア・パネル。左上からランプ用端子とトークバック入力(XLR)、インプット1〜16(XLR&TRSフォーン)、左中段から右にステレオ・イン(TRSフォーン×2)が2系統、AES/EBU出力(XLR)、dSNAKE端子、2TRKアウト(TRSフォーン×2)、Altアウト(TRSフォーン×2)、メイン出力(XLR×2)、Mixアウト1〜10(XLR)、左下にはWi-Fiルーター接続用のイーサーネット端子とパソコンとの接続用USB端子が並ぶ
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年10月号より)
ALLEN&HEATH
QU-16
313,950円
▪マイク・ゲイン:−5〜+60dB ▪マイク入力インピーダンス:5kΩ以上 ▪ライン・ゲイン(ch1〜16、TRSフォーン) :−10〜60dB ▪ライン入力インピーダンス:10kΩ以上 ▪メーター設定:0dB=−18dBFS ▪サンプリング周波数:48kHz ▪レイテンシー:1.2ms ▪ヘッドルーム:18dB ▪ダイナミック・レンジ:112dB ▪AD/DA分解能:24ビット ▪サンプリング周波数:48kHz ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(+0/ー0.5dB) ▪レイテンシー:1.2ms(アナログ入力→アナログ出力) ▪外形寸法:440(W)×186(H)×500(D)mm (写真①のような机上使用時) ▪重量:10kg(本体)