「STEINBERG Halion 5」製品レビュー:グラニュラーやバーチャル・アナログ音源も備えたソフト・サンプラー

STEINBERGHalion 5
今回はSTEINBERGのソフト・サンプラー、Halion 5をご紹介します。普段同社のCubaseを使っている人にはおなじみHalionシリーズの最新バージョンで、オーディオ素材を取り込んで音色作りができるサンプラー機能と、2,500以上のライブラリーを持つマルチ音源を両立したサウンド・デザイン・ツールです。これらをうまく組み合わせれば、最先端の音楽を生み出す新しいアイディアを得ることもできそうです。非常に多機能なので内容は多岐にわたりますが、特に新機能に注目しながら見ていきましょう。

4つのサウンド・エンジンを搭載
サンプルのグラニュラー加工も面白い


まずは概要から。Halion 5は最大192kHz&32ステレオ出力(6chサラウンド対応)のMac/Windows用ソフト・サンプラーで、VST3/VST2/Audio Unitsプラグインのほかスタンドアローンで駆動します。50以上のエフェクト(9種類の新搭載を含む)も内蔵しているので、Halion 5内だけで幅広い音色作りが可能です。音源の選択から素材の加工/作り込みまでをより効率よく行うために、マルチモニター対応のフレキシブル・ユーザー・インターフェースが採用されており、ウィンドウのリサイズや切り離しなど自由にレイアウトをカスタマイズできます。メインのサウンド・エンジンは4種類から構成されています。アナログ・シンセシス・エンジン、サンプル・エンジン、さらに今回から新しく搭載されたグラニュラー・シンセシス・エンジンとトーンホイール・オルガン・シミュレーターです。特筆すべきはグラニュラー・シンセシスで、サンプルを読み込んだパートに対してこれを選ぶと、素材を粒子レベルで再構成して全く新しいサウンドを生成することができます(画面①)。

▲画面① Halion 5からサンプルをグラニュラー加工することが可能になった。サンプルを細かくグレイン化し、ポジションやデュレーションのランダム値を上げて再生すれば、原音からは想像もできないサウンドを得られることもある。さまざまなサンプルで試してみたい機能 ▲画面① Halion 5からサンプルをグラニュラー加工することが可能になった。サンプルを細かくグレイン化し、ポジションやデュレーションのランダム値を上げて再生すれば、原音からは想像もできないサウンドを得られることもある。さまざまなサンプルで試してみたい機能
ドアを閉めるときの“バタン!”という音や、グラスをテーブルに置いたときの“トンッ”といった何の変哲も無い素材も、これを使えば荘厳なパッド・サウンドに変化したりします。元素材からは想像もできない音が鳴るので、狙って使うものではないかもしれませんが、例えばワンショットに用いるつもりで取り込んだ音ネタでも、このグラニュラー・シンセシスを用いることで全く予想もしなかったサウンドのアイディアへと生まれ変わるかもしれません。先述したグラニュラー加工に加えて、Halion 5では当然ながらサンプルのスライス/クオンタイズ/モジュレーションでの音作りを直観的に行うことができます(画面②)。
▲画面② フレーズ・サンプルのスライスもヒット・ポイントの感度指定をすれば簡単。各サンプルのレベルやパンはもちろんのこと、フィルター・カットオフ/レゾナンスも個別に設定ができる。もちろん任意スライスのループ再生や置き換えなどにも対応 ▲画面② フレーズ・サンプルのスライスもヒット・ポイントの感度指定をすれば簡単。各サンプルのレベルやパンはもちろんのこと、フィルター・カットオフ/レゾナンスも個別に設定ができる。もちろん任意スライスのループ再生や置き換えなどにも対応
Halion 5のブラウザーより音素材を読み込む、もしくはCubaseを使っている場合はプロジェクト・ウィンドウのオーティオをドラッグするだけで、Halion 5が自動的にヒット・ポイントを検出し、スピーディにスライスを作成してくれます。Sensitivityノブを調整することでスライス・ポイントの増減をスムーズに行えますし、もちろん手動でも微調整が可能。Applyボタンを押せば、各スライスがノートにマッピングされます。さらにスライス1つずつに対して、フィルター・カットオフやレゾナンスを簡単に設定することもできます。エンベロープも用意するほか、最先端のタイム・ストレッチとピッチ・シフトを備えたAudioWarp機能も魅力的です。 

バーチャル・アナログやリズム・マシンから
Mellotronシミュレーターも搭載


サンプラー機能だけではなく、Halion 5には最先端かつ高品質の音源ライブラリーが収録され、それらを呼び出してマルチ音源として使うことが可能です(画面③)。今回から新しく搭載された音源は以下の通りです。
▲画面③ 用意されている音源ライブラリーの一覧。サンプラーだけでなく、グラニュラー系やアナログ・モデリングなどシンセ音源としても使用できる ▲画面③ 用意されている音源ライブラリーの一覧。サンプラーだけでなく、グラニュラー系やアナログ・モデリングなどシンセ音源としても使用できる
●Auron(グラニュラー・シンセサイザー/メイン画面)Auronはグラニュラー・シンセシス独特のつややかで荘厳なシンセ・パッドはもちろん、ソリッドなシンセ・リードは最先端のエレクトロ・ミュージックの主力として活躍してくれそうです。●Model C(トーンホイール・オルガン・シミュレーター)ビンテージ風からロック系まで、欲しいオルガン・サウンドにすぐにアクセスできて便利。ロータリー・エフェクトの効きが良く、独特の音作りも楽しめます。●Haliotron(Mellotronシミュレーター/画面④)往年のプログレで有名なMellotronを再現したHaliotronは、アナログの味わい深さを持った音源。レトロなフルートやストリングスで古き良き雰囲気を出すも良し、楽曲中のスパイスとしてバッキングなどでも映えそうです。
▲画面④ HaliotronはMellotronをイメージした音源。アンプ部でのアタック/リリースやテープのピッチ設定なども行える ▲画面④ HaliotronはMellotronをイメージした音源。アンプ部でのアタック/リリースやテープのピッチ設定なども行える
●B-Box(シーケンサー付きリズム・マシン/画面⑤)これがあればダンス/ヒップホップ/ブレイクビーツなどの音作りでは困ることはないでしょう。プリセットに対して豊富なMIDIリズム・シーケンスが含まれており、即戦力パターンとして使えそうです。
▲画面⑤ リズム・マシンのB-Box。エレクトロを中心としたプリセット音源を備え、昔ながらのパターン・シーケンサーで打ち込める ▲画面⑤ リズム・マシンのB-Box。エレクトロを中心としたプリセット音源を備え、昔ながらのパターン・シーケンサーで打ち込める
●Trium(バーチャル・アナログ・シンセ)エレクトリックで攻撃的な太いサウンドが、まさに今風のEDMにぴったりの音源です。3つのメイン・オシレーター、さらにサブオシレーター、リング・モジュレーター、ノイズ・ジェネレーターを使って、シンプル操作で“使える”音にエディットできます。ほかにも、ビンテージ・アナログ風シンセのVoltageや世界各国の楽器を収録したWorld Instruments/World Percussionsといった、幅広いジャンルに対応する音源も新搭載。さらに、これらの音源を効率よく演奏するモジュールも用意しています。まずFlexPhrazerはいわゆるアルペジエイターにあたるツールで、何百種類ものパターンが登録されておりバリエーションもかなり幅広いです。ユーザー・フレーズ・エディターも搭載されているので、最大32ステップで打ち込むこともできます。またDrumPlayerはその名の通りリズム・トラック用のシーケンサー。最大64ステップ仕様で、これによってHalion内部でドラム・パターン制作が可能となり、作業効率がアップします。スウィングなどのパラメーターを調整して、好みのグルーブを探ることも可能です。なおCubase上で使っている場合は、ここで作成したパターンをドラッグ&ドロップで直接プロジェクト・ウィンドウにMIDIデータとして張り付けることができて便利です。続いてMIDI Playerはプリセット読み込み型のMIDIフレーズ再生ツールで、“African Percussion”や“Brazil Drums Fill”など数多くのプリセットを用意。自分で作成したMIDIフレーズを読み込むことも可能です。さらにMegaTrigという新しいツールもあります(画面⑥)。
▲画面⑥ 新機能MegaTrigは、サンプルをどのように再生するかを選べるツール。画面のようにプルダウンの項目からAND/OR条件を組み合わせて自分好みの設定ができる ▲画面⑥ 新機能MegaTrigは、サンプルをどのように再生するかを選べるツール。画面のようにプルダウンの項目からAND/OR条件を組み合わせて自分好みの設定ができる
これはどのようにサンプルをトリガーするかを自由に指定できるもので、“C1〜C2のノートが押されたとき”“C3〜C4ノートを離したとき”“3つ以上のノートが押されたとき”“ベロシティが○○以上のとき”というように、AND/OR条件を指定していき、再生バリエーションを生み出すことができます。複数のレイヤーで構成されたプログラムをそれぞれ再生条件を設定すれば、ライブなどでも独自の演奏スタイルを作ることができそうですね。収録音源や機能が非常に多く、全体を把握するには何日も要するほどのボリュームですが、手っ取り早くプリセットだけを使ってプロジェクトに導入することももちろん可能です。サンプリング派の人には、従来のスライスなどの手法に加え、さらに凝ったサウンド作りにも挑戦できるでしょう。好きにカスタマイズして自分だけの音をどんどん追求していきたくなる、とんでもないソフトでした。  (サウンド&レコーディング・マガジン 2013年10月号より)
STEINBERG
Halion 5
オープン・プライス (市場予想価格:39,800円前後)
▪Mac:Mac OS X 10.7/10.8(32/64ビット)、INTEL製デュアル・コアCPU、Core Audio対応デバイス、VST3/Audio Units/スタンドアローン対応 ▪Windows:Windows 7/8(32/64ビット)、INTEL製デュアル・コアCPU、VST3/VST2/スタンドアローン対応 ▪共通項目:4GB以上のRAM、1,280×800以上のディスプレイ解像度、DVD-ROMデュアル・レイヤー対応ドライブ、USB-eLicenser(別売)、インターネット環境