
MADIイン/アウトを1系統装備
カスケード接続で最大64ch伝送可
1UラックのAD/DAコンバーターAlpha-Link MX 16-4(以下、MX 16-4)とハーフ・サイズのPCIeボード型オーディオI/O、MadiXtreme 64を組み合わせたAlpha-Link MX 16-4+MadiXtreme 64。MadiXtreme 64に関しては、PCIeが挿入できるコンピューターさえあればインストール方法は極めてシンプルで、付属CD-Rに収録された専用ドライバーの指示に従ってスムーズに進められる。同梱されている長さ3mのMADIオプティカル・ケーブル2本をMX 16-4の入出力に接続すると、それだけでシステムは完成だ。MX 16-4は、同社のラージ・フォーマット・コンソールと組み合わせて納品されるAD/DAコンバーター=XLogic Alpha-Link Madi SXおよびAXを基に新しく設計されたそうで、その実力は折り紙付き。8chのアナログ入力が2系統と4chのアナログ出力が1系統装備されており(後述)、その名の通りアナログ16イン/4アウトという仕様だ。シリーズ製品として、アナログ4イン/16アウトのAlpha-Link MX 4-16(以下MX 4-16)もラインナップされており、必要に応じて使い分けたり、組み合わせて使用することができる。Alpha-Link MXシリーズはアナログ入出力のほか、MADIイン/アウトを1系統備えており、モデルを問わず計4台までMADIのカスケード接続が可能。MX 16-4を4台カスケード接続した場合、最大64chの音声信号を伝送でき、合計16chの出力と合わせてモノラル換算で最大80系統のシステムを構築できる。MADIで扱える最大チャンネル数はサンプリング・レートによって決まる。例えば、44.1kHzではMX 16-4を4台まで接続することができ、最大64イン/16アウトが扱える。96Hzの場合は2台つなげられるので最大32イン/8アウト、192kHzでは1台となっており、16イン/4アウトだ。なお、192kHzへの対応は年内のファームウェアによるバージョン・アップを待つことになる。シリーズ2機種の選択と必要台数については、ハイサンプリング・レートを必要とするかが大きな鍵になるだろう。
レベルに応じ変色する入出力メーター
基準レベルはユーザー設定が可能
ここからはMX 16-4の詳細を見ていこう。まずはフロント・パネルから。曲線を描いた質感の高いアルミでデザインされており、左側には電源スイッチ、中央にはMADIモード(56/64ch)やサンプリング・レート(44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz)、クロック・ソース(インターナル/外部ワード・クロック/MADI)の切り替えや基準レベル(+14〜24dBu)を設定するためのスイッチ群が並ぶ(写真①)。右側には、入出力レベルを表示するメーターを配置(写真②)。操作子やディスプレイ類はシンプルだが、最大限の効果を生み出す工夫が盛り込まれている。


低域の充実感を備えたA/Dの音質
モニターしやすいD/Aのサウンド
さて、いよいよサウンドについてレビューしていく。テスト時に使ったDAWはPRESONUS Studio One Professionalだ。A/DやD/Aの音質は本来色付けがあってはならないので、取り立てて音の特徴を言葉で表すのもはばかられるが、MX 16-4のA/Dは色付けの無いクリーンなサウンドながら、アナログライクな低域の充実感も併せ持っている。ダイナミック・レンジは十分で、業務用機器としてのゆとりが感じられ、使用マイクはもちろん、マイクプリの音質の違いまで味わうことができた。一方、D/Aされた音はスッキリとしており、モニターしやすい。やはり、仕事で使う道具を作ってきたメーカーらしい潔さを感じさせるサウンドだ。レイテンシーはDAWの設定との関係もあるが、演奏中にモニターしていてもさほど気になることはなく、MX 4-16とカスケード接続しても遅延は全く感じられなかった。ところで、先に述べた通り、MadiXtreme 64とMX 16-4の接続はMADIオプティカル・ケーブルによるもの。従って、MADIの規格上可能な距離までケーブルを引き延ばせることになる。私は兼ねてより"リモート・プリアンプ"あるいは"リモートA/D"を提言してきた。リモート・プリアンプとは、演奏者のマイクのなるべく近くにプリアンプを設置し、マイク・レベルの信号を早い段階でライン・レベルの信号に変換することで、安定した電気信号の引き回しを図るもの。リモートA/Dでは、プリアンプの近くにADコンバーターを設置し、信号をなるべくデジタルで引き回せるようにする。いずれも音質の劣化を食い止めることにつながり、ノイズ対策としても有利なのだ。Alpha-Link MXに使うMADIオプティカル・ケーブルは電磁気からの干渉を受けないため、A/Dした後、DAWまでの距離を電源ケーブルなどと平行させるように配線しても、クロストークやハム、電位差の心配が無い。また、長距離伝送時にも音質は劣化せず、何と2kmという距離を隔ての伝送も可能だ。さらに、マルチケーブルを使わないことで経費節約にもなり、ケーブルによるトラブルに見舞われる可能性も格段に低くなる。なお、Alpha-Link MXにはクーリング・ファンが搭載されていないため、マイクのそばでA/Dした場合、ファンのノイズがかぶることもない。上記のようなリモート配置に向いた設計と言える。PCIeスロットを持たないノート・パソコンでの使用にも興味があったので、PCIe拡張シャーシのMAGMA EB1をAPPLE MacBook Proに接続し、Alpha-Link MX 16-4+MadiXtreme 64を試してみた。動作は実に快適。高品位かつ多チャンネルのモバイルDAWシステムが構築できた。Thunderbolt対応のノート・パソコンで使用するのであれば、拡張シャーシとしてMAGM ExpressBox 3TやSONNET Echo-Exp1Hを使うと良さそうだ。さらにモバイル使用を突き詰めるなら、MadiXtreme 64ではなくRME HDSPe MADIfaceとの併用も個人的にお勧めだ。

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先述の通り、今回はAlpha-Link 16-4+MadiXtreme 64をStudio One Professionalと組み合わせてテストした。MX 16-4のコンパクトさとクーリング・ファン非搭載による静音設計は、Studio One Professionalの軽快な操作性とマッチし、快適な動作を提供してくれた。また、使用するコンピューターがノート型であっても、大規模なDAWシステムを構築できることが実証された。モバイル環境でSSLサウンドを享受できるとは、何と幸せなことか! 今回、幾つかのパターンでテストしたが、モバイル使用は特にお勧めだ。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年10月号より)
⃝MadiXtreme 64 ▪Mac/Mac OS X 10.5以降、INTEL製CPU、Co re Audio対応 ▪Windows/Windows XP(SP2)、Vista(32/64ビット)、7(32/64ビット)、INTELまたはAMD製のC PU、ASIO 2.0/WDM/MME/GSIF 2/D-Wave対応 ▪共通/512MB以上のRAM、PCIeの空きスロット