現代的な機能が盛り込まれたPorticoシリーズの4chマイクプリ

Portico 5024 Quad Mic PrePortico 5024 Quad Mic Pre
 RUPERT NEVE DESIGNSのPortico 5024 Quad Mic Preは、ビンテージ機材で世界的に有名なルパート・ニーヴ氏によるもの。氏はかなりのお年ですが、いまだに現役で新製品を発表し続けています。現代のコンピューター中心のデジタル・レコーディング環境に対応する製品として、どのようなものを出してきたのか興味の引かれるところ。伝説のNEVEサウンドの印象にとらわれずレポートしていきたいと思います。

HPFは30/90Hzの切り替え式
ch3/4を使ったMS録音にも対応


1Uのズッシリとした筐体に4ch分のマイクプリがスッキリと納まっています。品のある明るめのグレーのパネルが鮮やかで、紺色の文字が分かりやすく表示。一番大きく目を引くのがマットで落ち着いた赤色のゲインつまみで、それより小さいマットな白いつまみがトリム。スイッチ類はそれぞれ自照式で、左からGND LIFT(ch1/2のみ/黄緑)、+48V(オレンジ)、Phase(位相反転/黄緑)、SILK(ビンテージ風のサウンドにする/青)、MUTE(赤)、MS(ch3/4のみ/青)、HPF(ハイパス・フィルター/黄緑)。オンにするとカラフルに光るので使いやすいでしょう。ゲインつまみは+6〜+66dBまでの6dBステップで聴感的にも使いやすい値。またトリムは±6dBで、ゲインつまみの6dBステップをうまくカバーできます。H
PFは12dB/octで30/90Hzの切り替え式。30Hzは切り替え式では珍しく、個人的にいつも30Hz付近をカットしているのでありがたいです。ビンテージNEVEの機材にも無かったので、ニーヴ氏が時代をよく見ていることが感じられます。ch1/2にはDIとしての機能があり、それぞれDI入力、THRU端子、前述のGND LIFTスイッチを搭載。サウンドはいわゆるアクティブ系。押し出し感がよく出ます。またch3/4のMS録音機能では、単一指向性のマイクをch3につなぎ、双指向性のマイクをch4につないでMSスイッチをオンにすると、ch3の出力にはLの信号、ch4の出力にはRの信号が出力され、ステレオ・バランスになります。このときのステレオ・バランスには不自然さが無く、アイディア次第でいろいろな使い方ができるでしょう。そして全チャンネルにMUTEスイッチを実装。これはミキサーを使わずパソコンに直接録音するときに有効で、各チャンネルのチェックや事故防止に大変便利。ちなみに電源は100〜240Vのユニバーサル電源で、世界中どこでもこのまま使えます。さらに電源コード部分が取り外し可能。好みのケーブルを使用することもできます。

中域に張りのあるロック向きな音質
SILKスイッチは特にキックに効果的


ちょうどSSLコンソールがあるスタジオでピアノ、ドラム、エレキベース、ボーカルを録る機会がありましたので、いろいろチェックしてみました。ピアノにNEUMANN U87をステレオで立てて試してみたところ、普段より音像が近めなのに広がって聴こえる感じ。これはマイクと楽器の距離感の表現がうまくできているからだと思われます。オンマイク時の音像と、オフマイク時の倍音の出方のバランスが良いと感じました。続いてスネアにSHURE SM57、キックにSENNHEISER MD421で試したところ、スネアは意外にも中域にスピード感が出て良い感じ。本機はインプット/アウトプット共にトランスが使われていますが、トランス式にありがちなスピード感が少しなまる感じがあまりありませんでした。キックはSILKをオンにすると中低域の押し出し感と倍音の出方がばっちりで、太めのキックの音を作るときには効果的。一方でSILKを押すとスピード感が多少犠牲になる傾向なので、スネアはオフの方がいいかもしれません。次にエレキベースをダイレクトにDI入力につないでチェック。アクティブ系のサウンドなので、コンプを軽くかける程度のサウンドが好みな方はこのストレートなサウンドを気に入るのではないでしょうか。またボーカルはオンマイクの距離感が少し近めに聴こえるので、バラードなどの細かいニュアンスが必要なときに有効だと思います。音色はどの楽器も中域に張りのあるロック系で、SILKのオン/オフで中低域の音色と倍音の出方が変化するので、うまく使い分ければ、最近ありがちなトラック数の多いレコーディングにもうまく対応できるでしょう。具体的な例として、ピアノではオンマイクのステレオをch1/2でそれぞれSILKをオン、オフマイクのステレオをch3/4でMSをオンで使用。ドラムはスネアとキックをch1/2に割り当て、キックのSILKをオンにして、オフマイクのステレオをch3/4に割り当てMSをオンで使用して、うまくマイクをセットすれば、楽器の距離感や奥行き感、広がり感を表現できるでしょう。


本機は、私たちに"今までに無かった音楽や音を作れ"と言ってきているように感じます。ハイパス・フィルターの周波数設定やMS機能の使いやすさ、SILKの音色変化、また、トランス式ながらも現代的でバランスの良い音色など、歴史ある人たちが新しい提案をし続けていることに敬意を表したいと思います。しかしながら、それらの提案が、すべての人に受け入れられるとは限りません。噂や迷信にとらわれず、さまざまなモデルを試す中で本機のサウンドもぜひ皆さんの耳で確かめてみてください。自分だけの新しい音作りができるかもしれません。 portico_リア.jpg ▲リア・パネル。左から電源スイッチ、GND LIFTスイッチ、LINE IN/OUT 4〜1(それぞれXLR)

サウンド&レコーディング・マガジン 2012年7月号より)


Portico 5024 Quad Mic Pre
Portico 5024 Quad Mic Pre
オープン・プライス (市場予想価格/294,000円前後)
●マイク・ゲイン/0〜66dB(6dBステップ) ●トリム・ゲイン/±6dB ●最大出力レベル/+26dBu(20Hz〜40kHz時) ●外形寸法/482(W)×44(H)×254(D)mm ●重量/4kg