小型ながら豊富な入出力とミキサー機能も内包するオーディオI/O

MOTUMicro Book II
 USBオーディオI/OのMicro Book IIは、以前本誌でレビューしたMicro Bookがリニューアルしました。前世代からどこが変わったのか? 印象で言うとですね、しばらく会っていない高校生のいとこに会ったらめちゃくちゃイケメンでナイスな男になっていた、そんな感じです。さあ理由を紐解いてみましょう。

サンプリング・レートが96kHzまで対応
トップ・パネルのノブで操作性が向上


から出してみます。驚いたのはまずその外観です。前モデルと同様、APPLE iPhoneよりもやや大きくて、文庫本よりもちょっと小さいサイズ。Micro Bookはひたすらツルッとしたメーターもノブも無いただの箱的な外観だったのですが、Micro Book IIのトップ・パネルには大きなノブが2つ付いています。さらにLEDのメーターが入出力ごとに配置され、既に使いやすさ度200%増しな感じです。色も銀から黒に変更され、日焼けした青年のような成長ぶりがうかがえます。ノブを回してみるととても軽くスムーズに回る、試しに押してみると"カチっ"とクリック感がある、ということは何かのスイッチの機能もあるということか(後述)......やっぱりMOTU、1つのパーツに2つの仕事をさせるあたり抜かりが無いなと思いました。スペックを見るとこれも前モデルから大きく前進。入出力が4イン/2アウトから4イン/6アウトに出力が増えた上、サンプリング周波数も48kHzから24ビット/96kHz対応になっています。しかも事実上お値段据え置きで超イカしているんですね。また、前モデル同様本機にもデジタル・ミキサーが内蔵され、同梱されるコントロール・ソフトCueMixをコンピューターに立ち上げれば、EQやコンプなどの各種設定が行えます。製品コンセプトとして、気軽に持ち運べるというのが基本で、ミュージシャンがツアーに持っていきホテルで作曲するとかそんなシチュエーションを想定しているのでしょう。電源はUSBのバス・パワー駆動なのでACアダプターは必要ありません。入出力のコネクターも豊富で、フロント・パネルには左からマイク入力×1(XLR)とHi-Zのギター入力×1(フォーン)、そしてヘッドフォン出力(TRSフォーン)。リア・パネルには左からS/P DIF出力×1系統(コアキシャル)、ライン入力×1(ステレオ・ミニ)、ライン入力×2(TRSフォーン)、ライン出力×1(ステレオ・ミニ)、メイン出力×2(TRSフォーン)と並びます。各ステレオ・ミニの入出力はTRSフォーンの入出力とは別系統で使用可能なので、iPhoneなどの出力をステレオ・ミニ・ケーブルで簡単につなげられます。この辺りはコンセプト通り、持ち運び時のケーブル類をスマートに処理しようという配慮なんですね。最後にトップ・パネルにあるノブの使用感です。左側のノブがマイクの入力調節、右がメイン出力とヘッドフォンの音量調節。マイク入力のノブはスイッチ機能も兼ねており、ノブを押すことでPADのON/OFFもできます(長押し=48Vファンタム電源供給のON/OFF)。一方、右側のノブ調節の設定は通常ヘッドフォンとメインが連携していますが、ノブを押すことでヘッドフォンの音量のみ下げるなど個別にコントロールできるのです。前モデルではコンピューター側で操作していたことが手元で行えるのが素晴らしい。

ミックスにも対応できそうな再生音
中高域のサウンドが素晴らしい録り音


音質チェックに移りましょう。AVID 192 I/Oを用意して、同じ音源の再生およびマイク/ギターの録音チェック。まず再生音の比較です。お気に入りのCDを44.1kHzでリッピングしてABLETON Liveに並べます。正直言ってがく然としました......192 I/Oに肉薄したサウンドなのです。値段のケタがゼロ一個以上違うのに! 時代の進化なのでしょうか、低域の張り具合、高域の抜け具合、位相の正確さどれをとっても昔で言うと20万円くらいの音がします。192 I/Oとわずかに違うのは、キックより少し上ぐらいの帯域、ギターのボディとか歌の膨らみのようなところにちょっとお肉が欲しいかなというくらいです。でも、本機でミックスしろと言われたら不満を持たずにやると思いますね。サンプリング・レートを96kHzにすると多少差が出てきました。192 I/Oの方がにわかに良くなったのですが、恐らくこれは電源のせいでしょう。他社のどの製品も同じ傾向で、96kHzのスペックにUSBの電源が追いつかないのです。続いて録音をしてみます。48kHzでNEUMANN U87AIのボーカルとアコギのライン出力を試した結果、こちらでもがく然としました。過去何度もオーディオI/Oのレビューをしているので、他社製品の同じ条件のファイルが幾つもあります。それをAVID Pro Tools HD 9に並べて比較してみると、Micro Book Ⅱの音質は、中高域に関しては同価格帯の製品とは勝負にならないくらい良い音がしたのです。高域の抜け具合、それでいて密度感を感じる1kHz付近の音質が素晴らしい。逆に中高域が良過ぎるので、低音が薄く感じてしまうかもしれませんが、EQで低域を持ち上げてやるとホラ、いい感じに。低域がモコモコな素材の高域をブーストしてやるよりもよっぽど素直に理想の音質に近づけます。ヤッバいなあ、もう高価な機材を持っているだけで、プロ顔している時代じゃなくなったんだと思いましたね。

色付けの無いシンプルなコンプ
ブリティッシュ・サウンドを感じるEQ


前述した本機内蔵のデジタル・ミキサーをコンピューター上に画面表示して設定するためのソフトCueMix FXを見ていきましょう(画面①)。Micro Book IIは、MOTUの他製品と共通のDSPチップを搭載していて、コンピューターに負荷をかけることなく、低レイテンシーでEQとコンプなどの内蔵エフェクトを入出力にかけることができます。コンプは色付けのほとんどない超基本的な仕様ですが、ひずまないように録音するという目的においては最大限の仕事をしてくれます。また、EQは7バンド仕様と本格的で、ブリティッシュ・サウンドをモデルにしたアナログ感のあるとても良いものだと感じました(画面②)。コンプ/EQの2つを入出力両方に制限なく使えるというところも素晴らしいと思います。インプット チャンネル設定.jpg

▲画面① CueMix FXの設定画面。左上の3つのタブ("INPUTS""MIXES""OUTPUTS")を切り替えてどのソースを処理するかを選択する。画面中央から右に"CHANNEL""EQ""DYNAMICS""METERS""SIG GEN(シグナル・ジェネレーター)"と5つのタブを切り替えることで各効果の詳細設定画面へと移るインプット EQ部.jpg▲画面② 画面①からEQタブへ切り替えたときの表示画面。イギリス製の某アナログ・コンソールのサウンドを模したEQで、5バンドEQに加え、ローパス/ハイパス・フィルターの計7バンドを全入出力に備えるCueMix FXのソフト本体の仕様や使い方はほかのMOTUのオーディオI/Oにバンドルされているものと共通で変わりません。各出力ごとに独立したミックスを3つ同時に持つことができ、それぞれダイレクト・モニターに対応します。つまりヘッドフォン、メイン出力、ライン出力に対して異なるミックスと音量設定ができるのです。機能は申し分ないのですが、パネル・デザインがビギナーには少し分かりにくいかもしれないと思いました。この辺りは頑張って慣れてくださいね。さらにCueMix FXにはスペクトラム・アナライザーやオシロスコープ、そしてチューナーなどのメーター・アプリが充実しています。個人的にはチューナーがすごく便利だなと思いました。スペクトラム・アナライザーは音の周波数分布を示すもの、オシロスコープはL/R2つのチャンネルの位相差を示します。さてここまで褒め過ぎているような気がするので、少し気になった点を挙げたいと思います。まず、CueMix FXの入出力の名前がMicro Book II用に変更してあったらもっと分かりやすかったです。現状、Micro Book IIでは本体に"LINE IN 3-4"と書かれているのに対し、CueMix FXでは"Line 1-2"となっています。ソフト上での表示と実機の表示が異なるため戸惑いました。もう一つ、Micro Book IIのLEDメーターは一番上に達すると赤になります。当初作業をしていてなんでこんなに全部の出力が低いのかな?と思っていたのですが、ABLETON Live側の入力メーターを見るとLEDの赤がついてちょうどゼロぐらい。なので、赤がついてひずむのではなく、実際は数dB余裕があるということに気づきました。そして赤がつかないように作業をしていると全体的に少し低過ぎる印象です。使用時は頻繁に赤がつくレベル設定でも問題なさそうです。


最後に改善してほしい点を加えましたが、それはCueMix FXのソフト側なので、バージョン・アップでの変更を期待しましょう。製品自体はコンパクトなサイズから持ち運びに優れる上、この音質であれば本機でミックスまで行えると思ったほど良い印象でした。 _YK41702.jpg
▲フロント・パネル。左からマイク入力(XLR)、ギター入力(Hi-Z)、ヘッドフォン出力(TRSフォーン) _YK41691.jpg▲リア・パネル。左からUSB2.0、S/P DIF出力(コアキシャル)、ライン入力(ステレオ・ミニ)、ライン入力×2(TRSフォーン)、ライン出力(ステレオ・ミニ)、ライン出力(TRSフォーン)サウンド&レコーディング・マガジン 2012年7月号より)
MOTU
Micro Book II
オープン・プライス (市場予想価格/29,800円前後)
●接続タイプ/USB 2.0 ▪オーディオ入出力/4イン、6アウト ●最高ビット&レート/24ビット、96kHz ●外形寸法/139(W)×31.8(H)×91.4(D)mm ●重量/298g

▪Mac/Mac OS Ⅹ 10.5.8/10.6/10.7(64ビット対応)、Power PC G4 1GHz以上のCPU(Powe r PC G5またはINTELプロセッサーを搭載したMa c)、1GB以上のRAM(2GB以上推奨) ▪Windows/Vista/7(64ビット対応)、1GHz以上のINTEL Pentiumプロセッサー、1GB以上のRAM(2GB以上推奨) ▪共通項目/USB 2.0ポート、ハード・ディスク・ドライブ(250GB以上推奨)Mac/Mac OS Ⅹ 10.5.8/10.6/10.7(64ビット対応)、Power PC G4 1GHz以上のCPU(Power PC G5またはINTELプロセッサーを搭載したMac)、1GB以上のRAM(2GB以上推奨) ▪Windows/Vista/7(64ビット対応)、1GHz以上のINTEL Pentiumプロセッサー、1GB以上のRAM(2GB以上推奨) ▪共通項目/USB 2.0ポート、ハード・ディスク・ドライブ(250GB以上推奨)