人気のステレオ・バス・コンプがマスタリングに特化した仕様で登場

TK AUDIOBC2-ME
 SSLのステレオ・バス・コンプを再現したBC1MK2の評判が良かったので、個人的に気になっていたスウェーデンのメーカーTK AUDIO。そのBC1MK2をマスタリング仕様にカスタマイズしたのが、今回レビューするBC2-MEです。

ステップ式のツマミで設定を再現可能
VCAコンプらしい気持ちの良いサウンド


本機の入出力はすべてリア・パネルで、入出力L/R(XLR)とサイド・チェイン用の入力(フォーン)が装備されるのみのシンプルな構成。まずバイパス状態で試してみると、そのサウンドはとても素直。NEVEやMANLEYのように、質感が加わるようなことが無く、ハイファイかつフラットです。続いてフロント・パネルを見ていきましょう。左からThreshold/Ratio/Attack/Release/HPF、スイッチ類を挟みMake-upゲイン、Blendとツマミが続きます。これらはすべてステップ式なので、一度作った設定も再現が可能。中央には0.5dB単位のGain Reductionメーターとin(コンプのオン/オフ)、Ext SC(サイド・チェインのオン/オフ)、後述のL+R、THD(倍音を加えるボタン)、こちらも後述のClass A、StrMute(ストレート・ミュート)というスイッチが並びます。具体的に見ていくと、Thresholdは−10dB〜+10dBまで1dBずつステップ・コントロールでき、Ratioは1.25:1〜10:1まで6段階、AttackはUltrafast〜0.1〜120msまで9段階、Releaseは50ms〜1.25s〜Autoまでの6段階、HPFは75〜250Hzまで5段階、Make-upゲインは0.5dB単位で0〜10dBまで、BlendはStraight(原音)〜Comp(100%コンプレッションされた音)まで23段階でコントロール可能。このツマミ類と、Ext SC〜Str Muteまでのボタン類でマスタリングの音圧や音質をコントロールしていきます。 ちなみにThresholdやMake Upゲインのステップが細かく、Gain Reductionメーターも0.5dB単位と細かく表示されるので、ダイナミック・レンジや音圧の調整をかなり追い込むことが可能。逆にRatio/Attack/Releaseなどはざっくりしているので、コンプのかかり方の調整はあまり悩まずに感覚的に行える印象でした。音の感じとしてはVCAコンプらしくハードで、パキッとしたかかり具合で気持ち良いです。プラグインと違い、ハードにリダクションさせてつぶしても嫌な飽和感も無く、聴いていて気持ち良い感じにつぶれてくれます。AttackをUltra Fast、Ratioを10:1に設定するとブリックウォール・リミッター的なリミッティングをしてくれるので、Releaseを曲のテンポに合わせながら調整すると気持ち良く音圧も稼げました。普段筆者が使っているプラグイン・リミッターは自然に音圧が上がるものなのですが、個人的に、その場合は必要以上に音圧を上げ過ぎないようにしています。それに対して本機は音圧を上げても気持ち良い変化なので、ついつい音圧を上げてしまいたくなる......そんなかかり方だと感じました。また低域にThresholdの値が引っかからないようにしたいとき(キックやベースに引っ張られてリダクションされると中〜高域が一緒に引っ込んでしまうので)、HPFのサイド・チェインを入れると中〜高域が前に出てきて元気な感じになるのですが、このHPFも低音の減衰が音楽的で歌も埋もれずに気持ち良い感じに張り付いてきます。

Blance/Class A/L+Rなど
ユニークな機能も多数搭載


パラレル・コンプレッション機能も搭載しています。前述のようにBlendのロータリー・スイッチでCompからStraightへ回していくと徐々に変化していくので、音圧や質感を作り込んでから少しずつ原音に戻していって、音圧と素の音のダイナミック・レンジがちょうど良くミックスされたポイントを探ったり、極端にひずませた設定を少しずつ原音に足していったりと、普通のコンプではできない調整が本機のみでできるのです。さらにStr Muteボタンを押すと、コンプレッションされた音だけをモニターできる点もユニークですね。またTHDスイッチを押すと、原音に対して偶数倍音が0.5〜1%ほど加わりますが、こちらもプラグインのサチュレーターではアタックがつぶれてしまうのに対して、本機では気持ちの良い倍音が腰から頭の部分までつぶれず、音が前に出てくるイメージで加わります。これがアナログのいい部分だなとあらためて感じさせられました。そして、本機でもう1つ特徴的なのがClass Aスイッチ。出力の回路を電子バランス/トランス・バランスから切り替えるスイッチで、このスイッチをオンにするとトランス・モード。原音よりリリースが減りアタックが強くなる音で、全体のレンジは狭くステレオ・イメージも原音より狭く聴こえるのですが、痛くない音でアタックの押し出し感が増し、リズム音が強調されるようになりました。さらにL+Rボタンも独特の機能。説明書を読むと、こちらはステレオ・リンクではなく、サイド・チェインを使用した場合にスレッショルド前の6dBよりレベルの小さな音はモノラル信号としてスレッショルドを通過するという機能とのことです。実際L+Rボタンをオンにし、HPFのサイド・チェインの帯域とThresholdの量を調整すると、定位がセンターに寄ったり広がったりしていきます。今回の試用期間では有効な使い方はできませんでしたが、用途によっては面白い機能でしょう。


諸機能を中心に駆け足でのレビューとなりましたが、全体の印象としてはとてもハイファイで、個人的に使いやすいと思いました。またコスト・パフォーマンスの点も優れていると感じました。_YK41464.jpg▲リア・パネル。左から電源スイッチ、電源端子、Ext Sidechain入力R(フォーン)、Output R(XLR)、Input R(XLR)、Ext Sidechain入力L(フォーン)、Output L(XLR)、Input L(XLR)サウンド&レコーディング・マガジン 2012年7月号より)
TK AUDIO
BC2-ME
オープン・プライス (市場予想価格/189,000円前後)
●周波数特性/20Hz〜20kHz ●最大出力レベル/+26dB ●外形寸法/480(W)×43(H)×255(D)mm ●重量/4.5kg