4系統のトリガー入力を備えたバーチャル・アナログ・ドラム・シンセ

NORDNord Drum
 スウェーデンのメーカーNORDより、革新的な4chドラム・シンセサイザーNord Drumが登場です。赤いカラーリングが特徴的なNORDだけに、このNord Drumもばっちり目を引く赤いボディです。早速チェックしていきましょう。

"電子の息吹"を感じさせるサウンド
外部トリガーやMIDIで制御可


本機は単体で打ち込みを行うリズム・マシンとは異なり、音源部分だけを持つバーチャル・アナログ・ドラム・シンセです。4つの異なるサウンドを同時に鳴らすことができる4ch構成で、リアにある4系統のトリガー・インプットへドラム・パッドやトリガー信号を入力して音源部分を鳴らします。もちろんMIDI信号を入力して鳴らすこともできるので、例えばドラム・キットのバスドラに装着したトリガー、2つのエレクトロニック・ドラム・パッド、さらにMIDIシーケンサーのMIDI信号を入力して計4ch分を鳴らすといった具合に、自分の環境に合わせたシステム構築が可能となっています。また、パラメーターはすべてパネル上に出ているので(写真①)、階層を潜る必要が無い設計! 箱から出して10分で理解できるくらいシンプルで、非常にユーザー・フレンドリーな作りです。 Nord_Drumtop1.jpg ▲写真① パネル中央に一列に並ぶ8つのパラメーター・ボタン。ボタン上部に表示されているパラメーターを即座に選ぶことができ、パネル中央のダイアルで値を調節するだけのシンプル設計まずは音源部分から。Nord Drumの基本的な音源部は先述したようにバーチャル・アナログで、サンプル・プレイバックではなくシンセシスによってサウンドを作り出します。まず一聴して分かるのは"音の良さ"で、NORDらしい非常に抜けのいいサウンド。そしてダイナミック・レンジが広い上、低域もきちんとあり、非常に存在感のあるサウンドだと感じました。バーチャル・アナログといってもアナログ系のみではなく、大きく分けて下記4つのジャンルの音色が用意されています。・Real:アコースティック風のサウンド・Retro:機械っぽいサウンドやオールドスクール・サウンド・Ethno:ワールド・ミュージック風のサウンド・FX:奇妙なサウンドや効果音同社の電子音が素晴らしいのはNord Leadシリーズなどで実証済みなのですが、アコースティック風サウンドがこれまた素晴らしく、ポイントは"〜風"ってところです。生にも聴こえるけど生ではないというか、ちょうど中間のハイブリッドを突き詰めている感じが好印象。"電子の息吹"を感じさせる音色で、"この音をオケ中でたたきたい"と思わせてくれます。オケ中で引き立つというのはまさにこういう音色だと思います。続いて音色エディットについてです。本機のサウンドは、トーン/ノイズ/クリックという3つの構成要素を組み合わせて1つの音色作りをします。各構成要素にはそれぞれ独立したパラメーターが用意されており、トーン・セクションでは音のボディになる部分を作ります。いわゆる"胴鳴り"であり、サウンドの基本となります。基本波形はWAVEパラメーターで選択し、"An"はアナログ・シンセ的な波形、"b"はドラム的な音、"c"はパーカッシブ系となっており、これらの波形に加工を施して音色を作っていきます。フィルター部には、フィルターの開閉を調節するSWEEPパラメーターを内蔵し、サウンドのアタック部分にパンチを加えるPUNCHパラメーター(そのまんまですね)や、サウンドの長さをコントロールするDECAYを用意。DECAYには音をフェード・アウトさせるだけでなく、強制的に音を切るゲート・モードも搭載されており、ゲートをバツッと切ってパッドでたたくとめちゃくちゃ気持ち良いエレクトロ・ビートが演奏できます。そしてピッチを設定するPITCHパラメーター、ピッチの時間的変化をコントロールするBENDパラメーターなど、まさにシンセサイザーで音作りをするのと同じ感覚でエディットができます。また、アタックの瞬間だけにピッチ変化を加えるパラメーターも内蔵しており、幅広い音作りが可能です。ノイズ・セクションにはさまざまな種類のノイズが内蔵されており、トーン・セクションと同様にフィルターなどでノイズ・サウンドを加工できます。COLORパラメーターでノイズの種類/キャラクターを選択でき、これはトーン・セクションのWAVEパラメーターに相当。パラメーターの数値が0で最も暗く、数値が大きくなるに従って明るい音色になります。トーンとノイズのエディットでサウンド・キャラクターの8割方はほぼ決まりますが、さらに用意されているのがクリック・セクション。ここでは音が出た瞬間にごく短いパーカッシブな音をプラスできます。要はアタック部分ですね。選択できるのは、ノイズ波形を使用した"n"、ノイズにアタックをプラスした"c"、よりピッチ感のあるクリックの"t"の3タイプ。ただ、クリックの音量が大き過ぎると鳴らしたときにカチカチと痛い音になるので、ここの調整はシビアに行うのがいいでしょう。そして、これら3つのセクションの音量バランスを内蔵ミキサーで調整し、一つの音色として扱います。文字にすると複雑そうに感じるかもしれませんが、1列に並んだ8つのボタンでエディットしたいパラメーターを選択するとエディット・モードに入れるので、中央の大きなダイアルで数値を変えるだけと超簡単。直感的に操作ができる見事な作りです。またパネル左にあるROW SELEC
T/SOLO EDITボタンを押すと選択チャンネルをソロ状態にして音色確認できるので便利です。こうしてエディットした音色は、プログラムとして保存も可能です。さらに本機には80種類のファクトリー・プリセットもあらかじめ用意されています。その多くはch1〜4の順にバスドラ、スネア、ハイタム、ロ--タムとアサインされていることが多いです。この4ch分を1つのプログラムとして、上書き保存を含め99個までファクトリー・プログラムとしてセーブ可能。ファクトリー・プログラムは以下の3つのカテゴリーに分けられます。・Drums:キック、スネア、タム1、タム2・Kit:キック、スネア、タム、ハイハット・Perc:4種類のパーカッショントリガーを使う際、パッドにどのような音源がアサインしてあるか確認しやすいでしょう。そのトリガー入力ですが、ドラム・パッドをたたく強さで本体のINPUT TRIG LEVELのLEDが反応する仕組み。各チャンネルのインプット感度の調節はもちろん、振動などで不用意にトリガーしないようにスレッショルドの設定も可能となっています(写真②)。 Nord_Drumtop2.jpg ▲写真② 左のINPUT TRIG LEVELでは、トリガー入力の大きさに対して各チャンネルのLEDが反応する。右のCHANNEL SELECTはエディットしたいチャンネルを選ぶボタン

トリガー感度が素晴らしい
機械音と生演奏のコラボが楽しめる


さて、いよいよ実機テストです。今回はドラム・パッドとしてSIMMONSを2枚使用しました(写真③)。"何という新旧コラボ!"と思いながら楽しんでいたのですが、まず最初の印象はめちゃくちゃトリガー感度が良いという点に尽きます。ゲート長めのスネアをロールするときなどのベロシティ感が素晴らしく、抑揚豊かな909系ロールとでも言いましょうか、とても生っぽい演奏になります。またSWEEPを多用したシンセ・ドラム風サウンド("ピューン"とかソレ系)はべロシティの加減でピッチがどんどん変化するように設定できるのでたたいていて面白いです。ドラム・パッドが2つしかなくても音程をどんどん変化させることができるので、即興プレイにも向いているでしょう。そうそう、808系キックの"ボーン"という感じの音も、ディケイを伸ばせば"ボーーーーン"と気持ち良く再現できるし、低音をベースとしても鳴らせます。やはり根本はシンセですね。 IMG_2462.jpg ▲写真③ 今回はSIMMONSのドラム・パッド2枚を本機につなげて試奏してみたトリガーはドラム・パッドだけではなく、例えばリズム・マシンのパラアウトをそのまま入力して鳴らすこともできて面白いです。既に完成している楽曲に対し、タイミングを変えずにキックを差し替えたりプラスしたり、そして何よりMIDIを使用しないで音源を鳴らせるという点も新鮮です。またAPPLE iPhone/iPadのドラム系アプリのオーディオ信号をトリガー入力につないで、そこからリアルタイムに本機を鳴らして遊ぶのも面白いですよ(笑)。


ライブ・パフォーマンスはもちろん、楽曲に新たな要素を加えたいときなど、幅広い用途で使えるNord Drum。定評あるNORD製だし、小さいし、音良いし、価格も手ごろだし、本当にすべてにおいて素晴らしいです。 Nord_Drum_connections.jpg ▲リア・パネル。左からトリガー・イン1〜4(フォーン)、MIDI OUT/IN、オーディオ・アウト(フォーン/モノラル仕様)サウンド&レコーディング・マガジン 2012年7月号より)
NORD
Nord Drum
63,000円
●プログラム数/99 ●トリガー・インプット/4(フォーン) ●トリガー・タイプ/6種類 ●ディスプレイ/3桁LED ●外形寸法/199(W)×42(H)×136(D)mm ●重量/350g