個別に波形を選択できるオシレーターは
FMモジュレーション可能
まずは信号の流れから。オシレーター→フィルター→アンプ→エフェクトという流れは通常のシンセと同様だが、分岐させて信号を2系統に送ることができるなど、柔軟性の高さが随所で感じられる構造。とは言え、基本的なシンセの構造が分かっていればほぼ迷うことはないはずだ。
ユーザー・インターフェースは大きく3つに分かれている。上から順にオシレーター・セクション、フィルター・セクション、そして実機のシンセを思わせるLCDスクリーン・セクションだ。
オシレーター・セクションにはA〜Fまで6つのオシレーターがあり、これを組み合わせて音を作っていく。こんなにたくさんあるのには訳があり、もちろん微妙にピッチをずらしてとてつもなく重厚なサウンドを作るのもかなり面白いのだが、オシレーターで別のオシレーターをモジュレートする、FMモジュレーションによる音作りを行うためでもある(画面①)。その概念はYAMAHA DX7を彷彿とさせる。各オシレーターの接続関係を選ぶアルゴリズムと、"キャリア""モジュレーター"という主従関係。それを単純なサイン波ではなく、複雑なオシレーターの音色で成し遂げようとする、まさに無限の可能性を秘めたデジタル・シンセシスの世界と言えるだろう。
各オシレーターは個別に波形を選択可能(画面②)。アナログ・シンセのような波形から、同社の得意とするきらびやかなアディティブ(加算)系、そしてスペクトラル系など。方式によって個性がかなり違うが、同社製品に共通する独特のヨーロッパ的なダーク感と広がりを感じるクリアなデジタル感がどの音色にも感じられる。
6つのオシレーターの機能は微妙な違いがあるが基本的は同じで、あまりお目にかかれないパラメーターも随所に見られる。例えばShapeのPD(フェイズ・ディストーション)/WS(ウェーブ・シェイピング)の切り替え。これはデジタル・シンセでときどき見かけるシェイパーのたぐいだが、エディター画面まで用意される充実ぶり(画面③)。分かりやすく言えば、音をひずみっぽくギラっとさせる効果。Feedつまみでフィードバック量も変更でき、オシレーターだけでもかなり音色を詰めることができる。
次にフィルター・セクション。フィルターは2系統あり、どのオシレーターをどちらに送るか自由に設定したり、フィルターを直列につなぎ2重がけのような使い方もできる。フィルター・モードの選択肢も数多く、"12dB LP"が気持ち良かった。ほかも切れが良く、デジタルの良さが出ていると思う。ただレゾナンス(Q)は発振しない。
ちなみに本シンセのアンプをコントロールするのは、LCDスクリーン・セクションの"Env"(画面④)。エンベロープはアンプのほか6つのオシレーター、2つのフィルターにも個別に用意されている。ADSRタイプになっており、パラメーターをいじるとリアルタイムにエンベロープ・カーブが形を変えるので視認性も良い。カーブの曲線もスライダーで調整できる。
複雑な操作も分かりやすく視認できる
LCDスクリーン・セクション
続いては、LCDスクリーン・セクションの機能を抜粋して見ていこう。"Mods"はモジュレーション・マトリクスの設定画面。ここではエンベロープに加え、10個のLFO、または外部のMIDI信号を使ってBlueのパラメーターを自由自在にコントロールできる。設けられた20ものスロットにそれぞれソース、デスティネーション、アマウントを設定可能だ。MIDIコントローラーでフィルターを動かすような場合はここで設定しよう。
またモジュレーション・ソースの1つとして用意されているのがマルチエンベロープ("Multi-Env")と3つのステップ・シーケンサー("Step Sec"/画面⑤)だ。マルチエンベロープは16ポイントで仕切られたカーブをループするタイプ。ステップ・シーケンサーのステップ数は16で、グラフィックをドラッグすることで自由にアマウントを変更でき、キーを押してステップを始めることも、キーの状態にかかわらず常にステップをループし続けることもできる。またこれとは別に32ステップのシーケンサーも搭載されている。キーに反応して動くモノフォニック仕様で、ピッチのほかフィルターやボリュームの操作なども可能だが、マトリクス・モジュレーションのソースとしても指定できるので実質多機能な4つめのステップ・シーケンサーという位置付けになっている。そしてアルペジエイター("Seq/Arp"/画面⑥)。ステップ・シーケンサーと機能的にはかぶるが、こちらは押さえたキーを次々と順番にプレイするというものだ。豊富なステップ・モードの中で"Chord"を選ぶと、押さえた和音をそのままステップで設定したリズムにあわせて刻みながらプレイする。いわばポリフォニック版ステップ・シーケンサ
ーのような機能もありユニークだ。
さらに"FX"ではエフェクターが2系統使用可能。グラフィックはいささか味気無いが、ディレイやリバーブ、コーラスなど必要十分で多彩な種類が用意されており、先月紹介した同社BladeのFX同様、クセの無い高品質な音色だ。
ここまでで、ビギナーの方々にはさぞ敷居の高い製品ではないかという印象を与えたかもしれないが、2,000を越える充実したプリセットが用意され、これだけでも十分即戦力として活用できるだろう。種類別にバンク分けされ検索性も良く、使える音色が多い。ベースはデジタルっぽいクリーンなものが得意そうだが、逆にパッドはウォームで重厚感があり、アブストラクトなSEも充実。海外のダンス系クリエイターがいかにも使いそうな音色が満載だ。ダブステップやヒップホップ、ドラムンベースといったカテゴリーの中に入っている音は"もうひと味、それっぽい音が欲しいんだよなぁ"というときにぴったりのエフェクティブなプリセットで好感が持てた。より簡潔に音作りできる"Easy"(画面⑦)も装備する。
Blueでオリジナル音を作るにはじっくりと向かい合う必要はありそうだが、"一体どうやって作っているんだろう?"と思わせる個性的な音もバンバン作り出せるだろう。プリセットだけで使うのも全然アリだが、個人的には、この多機能ぶりにマニア心をすっかりくすぐられてしまった。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年7月号より)