名門ブランドが作り上げたコンパクトなベース用アナログ・モノシンセ

MOOGMinitaur
 MOOGシンセサイザーの産みの親であるロバート・モーグ氏が急逝されて久しいが、MOOGブランドはその意志を継ぐかのようにとても元気だ。ペダル型アナログ・ベース・シンセの名機Taurusを現代風に復活させたと思ったら、今度はそのコンパクト版であるMinitaurが登場。僕自身、MOOGシンセを常日ごろから愛用しているので興味津々でMinitaurを試してみたところ、MOOGの名に恥じない素晴らしいものだった。

ペダル型シンセTaurus IIIの弟分
CV/Gateからのコントロールも可能


以前は"シンセ音源"と言えばラックマウント型が主流だったが、最近は卓上型の音源が各社からリリースされている。その多くは機能的にはシンプルで同時発音数も少なめだが、コンパクトで低価格、またUSB/MIDIインターフェースが付いていたり、専用エディターでパソコンから操作できたりするなどの特徴が挙げられる。今回ご紹介するMinitaurの元祖的存在のTaurusは、足踏み鍵盤を備えたベース専用シンセで、ラッシュ、ポリス、ジェネシス、レッド・ツェッペリンなど多くのアーティストの足下で大活躍した名機だ。2006年のthe NAMM Showでは後継機となるTaurus IIIが登場し、先代Taurusと同様の人気を博している。MinituarはこのTaurus IIIの機能を凝縮して、卓上型にしたものだ。箱から出してみてまず思うのは、本当に小さいということ。Taurus IIIは足踏み鍵盤が付いているから仕方ないとはいえ、横幅と奥行きがそれぞれ約60cmで20kgもある。しかしMinitaurは横幅が約22cm、奥行きは約13cmとコンパクト。高さが8cmほどあるが、パネル面に傾斜が付けられており、ノブを操作するのには都合が良い。そして重さはわずか1.2kg。ノブも含めてまさにMOOGというデザインで、左上の猛牛のイラストがTaurus IIIの弟分だということを示している。中身も詳しく見ていこう。本機はフル・アナログのモノフォニック・シンセだ。サンレコ読者の方なら大丈夫だろうとは思いつつ、"買ってみたら和音が出ない!"なんてガッカリしないように一応書いておいた。またベース用ということで最高音がC4と、何気に低い(VCO2を1オクターブ上にするとC5まではいける)。そしてアナログ回路だから電源を入れてしばらくしないと各部は安定しないし、2つのオシレーターはシンクさせない限り、絶対に同じピッチを鳴らしてくれない。しかしソフト・シンセ全盛の現在ではこういう特徴は逆に新鮮だし、"俺、シンセいじってるなぁ!"という楽しさまで感じさせてくれるだろう。シンセとしてはTaurus IIIと全く同じ2VCO、1VCF(ローパス)、1VCA、2EG、1LFOという構成だ。VCOは伝統的なMOOGサウンドをちゃんと再現し、VCFもお家芸のラダー・フィルターを採用。エンベロープはディケイとリリースが共用になっており、名機Minimoogと同じ仕様だ。また、リア・パネルにはオーディオ・アウト以外にヘッドフォン・アウト、外部入力を本機のフィルターで処理できるオーディオ・イン、ピッチCV/フィルターCV/ボリュームCV/ゲート・イン、MIDI IN、USB端子がある。CVは一般的なV/octで5V Gateなので、ほかのアナログ・シンセとの組み合わせも可能だ。またMIDI INとUSBが両方付いているが、どちらから接続してもちゃんとMIDI音源として使える。そしてUSB接続時にはパソコン上のエディター(Mac/Windows対応/後述)からコントロールできるようにもなっている。要するに、MIDI INはMIDI端子しかない機材と接続するときに使うもので、パソコンのDAWから鳴らすならUSBだけ接続しておけばOKだ。

あのMOOGサウンドは健在
専用エディターを使うとより便利に


早速、DAWのMIDIデータで本機を鳴らしてみた。素晴らしい。こんなに小さくても間違いなくMOOGサウンドだ。我が家にはTaurus IIIは無いので、STUDIO ELECTRONICS Midimini(Minimoogをラック化した製品)と音を比べてみたが、太さという点ではほぼ同程度だし、音のハリというか立ち上がりの良さはMinitaurの方が勝っているかもしれない(ウチのMidiminiは経年変化があるからかな?)。MOOGの太いサウンドはソフト・シンセでもシミュレートものが幾つかリリースされているが、実機の豊かでコシのある低音はぜひ体感してほしい。しばらく使い込んでみると、VCO2がVCO1にシンクできない、そしてカットオフのキー・フォローが固定など、MidiminiではできてMinitaurではできない部分も気になってきた。でも、それらの多くはMIDIコントロール・チェンジによって外部から操作できるようになっていた。メーカーの宣伝文に"1パラメーターに1ツマミ"とあるが、まあ頻繁に使う機能だけツマミを付けたということのなのだろう。ちなみにMIDI CCのみで操作できるものは、上記のオシレーター・シンクやキー・フォローに加え、LFOのMIDIシンク、グライド・タイプ、ローカル・コントロールのON/OFF、ピッチ・ベンド量などが挙げられる。最後にエディター・ソフトについて紹介していこう。僕の試したMac環境ではインストールは非常に簡単だった。Minitaurエディターを解凍するとアプリケーションが出現するので、それをApplicationsフォルダーに入れて起動すれば使用可能となる(画面①)。DAWソフトと同時に起動して、こちらでMinitaurのパラメーター操作を専門に行えるというわけだ。先に書いたMIDIコントロール・チェンジに対応したパラメーター群も"Under the hood"というページで操作できるようになっている(画面②)。それ以外のパラメーターもMIDIコントロール・チェンジで操作できるので、内部でエディターが作れるDAWソフトで挑戦してみるのも面白いだろう。 Minitaur Editor001.jpg ▲画面① Minitaurエディターのメイン画面。見たまんまというか、本体がそのままパソコン画面の中に入ったようなウィンドウだ Minitaur Editor002.jpg ▲画面② Minitaurエディター内のMIDIコントロール・チェンジ送信パネル"Under the hood"。ハード機材のシャーシ内にあるディップ・スイッチをいじるような感覚だほかにエディターの重要な機能としてMinitaurの音色管理がある。Minitaurは本体に音色メモリーができないが、気に入った音色はエディター側で保存することができる(画面③)。エディターで基本的な音色を保存しておき、パラメーターのオートメーションはDAW内のMIDIコントロール・チェンジから行うと効率が良いだろう。 Minitaur Editor003.jpg ▲画面③ 音色管理ウィンドウ。本体には音色メモリーはできないが、このアプリケーションを使えば音色を保存しておくことができる。本エディター・ソフトの重要な機能の1つ


本機は現代的な制作環境のニーズに応えつつ、10万円を切る価格でMOOGサウンドがゲットできるのが最大のウリだ。そんなわけで最後にもう一度MOOGサウンドについて書いておこう。極論してしまうが、MOOGというシンセはフィルターが全開でも、閉じていても、素晴らしい説得力のある音を出してくれる。これはソフト・シンセが進化した今でも、ちゃんと実感できると思う。個人的な話で恐縮だが、最近シンセのフレーズや音色に悩んだ際はMidiminiなどハード・シンセを使うことにしている。それまでソフト・シンセでいろいろ悩んでいたことがパ〜ッと解決されたりするからだ。やはり両手でツマミをいじっていると音色作りがダイレクトに感じられる。しかも"良い!"と思ったらすぐDAWに取り込むのだが、そのときにちゃんと不要な帯域(超低音と超高音)がアナログだから削られているし、たまにサチュレートしたようなひずみも加味してくれる。この一連の作業をすべてDAW内で処理することも可能だが、"まずEQして......"とアレコレやるよりも手っ取り早い。"いや、それはあなたが慣れてるだけでしょ?"という方も一度ハード・シンセを体感してほしい。ずっと音楽的だと思うよ! MOOG2.jpg ▲リア・パネル。左からヘッドフォン(ステレオ・ミニ)、オーディオ・アウト/イン、ピッチCV/フィルターCV/ボリュームCV/ゲート・イン(以上すべてフォーン)、MIDI IN、USBサウンド&レコーディング・マガジン 2012年7月号より)
MOOG
Minitaur
89,250円
●オシレーター波形(OSC1&2)/ノコギリ、矩形 ●フィルター・カットオフ/20Hz~20kHz ●アタック、ディケイ、リリース・タイム/各1ms~30s ●LFOレート/0.01~100Hz ●LFO波形/三角 ●外形寸法/222.3(W)×79.4(H)×130.2(D)mm ●重量/1.2kg