同社コンデンサー・マイクの顔E100シリーズがバージョン・アップ

CAD AUDIOEquitek E100S
1988年にプロ・オーディオの分野に進出、レコーディング、ライブ現場においてコスト・パフォーマンスに優れたさまざまな製品を生み出し、そのクオリティが高く評価されてきたCAD。前身となる1931年創立のASTATIC COMMERCIALとともに、新たにCAD AUDIOとしてブランドを立ち上げ直し、同社コンデンサー・マイクの"顔"とも言うべきE100²をEquitek E100Sとしてリニューアルしてきた。先々代のE100、先代E100²と続くあの印象的な風貌とともに、何が受け継がれ、何が変わったのであろうか。

締まった低域とほんのり脚色された高域
中域の充実度が秀逸


代々継承してきた平たく四角いルックスは健在。マット・シルバーになったメッシュ・グリルはE100²と同様中心部にやや膨らみを持つレトロ・スタイルで、スクエアでシャープだった先々代のE100に比べて柔らかいたたずまい。新たに採用されたステルス・ショックマウントは、その名の通りマイクの一部と化すがごとく、余計な出っ張りが一切無い。床などからスタンドを通じマイクに伝わる振動を抑えつつ、狭い場所などへの設置も容易にし、マイク・アレンジの自由度を高くする優れモノである。またE100、E100²とその特徴的機能であった"充電池駆動"は今回採用されておらず、48Vファンタム電源のみで動作。その結果、正面に3つ並んでいたスイッチ類は−10dBのPADと80Hzハイパス・フィルターの2つとなり、モノトーンのカラーリングも相まって顔つきがややシンプルかつ引き締まった印象になった。内部回路の話をすると、ニッケルメッキされた1インチ・ダイアフラムは豊かで低域のレスポンスも良く、回路初段に構えるブートストラップ4FET差動増幅回路は感度は高くひずみは低く、セルフ・ノイズは3.7dBAとクラス最高......とカタログの説明文はまだ続くのだが、実際に音を聴いてそのサウンド・キャラクターを検証していくことにする。試聴にあたり、今回はアメリカ製ということで、マイクプリもアメリカ代表であるAPI 512Cを使用。比較対象としてヨーロッパを代表するAKG C414XLIIも立ち上げ使用してみる。まずはアコギ。正面よりやや上からサウンド・ホール狙いで2本を並べ、ストローク、アルペジオなどで試聴してみた。このとき、C414XLIIの指向性はEquitek E100S同様超単一に。EquitekE100Sの方がC414XLIIに比べ1.5dBほどゲインが低い。ノイズ・レベルは両者共優秀だが、Equitek E100Sはカタログ値が示す通りかなり静かで、弱音ソースに対してのアドバンテージがうかがえた。音を聴いて面白かったのは、両マイク共その周波数特性表通りの音をしていたこと。C414XLIIは200Hz辺りにややブーミーな部分があり、中域の芯になる1kHz辺りはやや抑えめ。6〜7kHz辺りが張り出し、派手ではあるがややギラつきがキツめ......とメーカーが公表する周波数特性通り。それに対してEquitek E100Sはかなりフラット。低域はもたつくことなく適度に締まりがあり、そのままガッツのある中域までクセが無い。高域の脚色はあくまでほんのりとしており、ぱっと聴きは物足りなく感じるかもしれないが極めて自然......とこれまた周波数特性表通りだった。そんな特性のせいだろうか、中域の充実度、特に1kHz辺りの反応や歯切れの良さが印象的で、"乾いたガッツのあるサウンド=アメリカンなサウンド"という常とう句を地で行く結果に。恐らく弾いたギターとの相性も良かったのだろう。これならEQせずともオケの中に存在させることができそうだ。ハイパス・フィルターも両者同じ80Hzで試してみたが、Equitek E100Sが−6dB/oct、C414XLIIが−12dB/octというデータ通り、C414XLIIの方がスパッと切れる印象。ポイントを3カ所から選べるC414XLIIと違い、Equitek E100SのようにON/OFFだけの場合はこのくらい緩やかに切ってくれる方が安心して使いやすい。

高音圧音源の収音も余裕
近接効果を狙った録音も可能


次にエレキギター。PADを入れアンプ・キャビネットから5cmほど離し、コーンの中心を狙う。最大耐入力はE100²が145dB(−20dBのPAD使用時)だったのに対し、Equitek E100Sは150dB(−10dBのPAD使用時)とスペックを上げてきている。そのためかギター・アンプからの高音圧に対しても反応に余裕が感じられ、先程同様張りのある中域の切れはここでも健在。高域のギラつきが少ない分、コーン中心を狙っても耳に痛くなりにくいのはありがたい。低域も飽和する感じが少ないので、コンデンサー・マイクながらキャビにかなり近づけ、近接効果を狙うこともできる。最後に男性ボーカルで試してみる。やはりしっかりとした中域をとらえるEquitek E100Sだが、高域のエンハンス感がさほど強くないため、声との相性によってはややピーキーに感じられるかもしれない。男女問わず、芯の弱い声の押しを強くしたい場合などに向く気がする。


ブランド再生の旗手としてカタログの表紙に起用され、製品紹介ページや商品梱包箱のあちらこちらに"Engineered and built in the USA"と表記し、マイク本体下部に"USA Series"と印刷されているこのEquitek E100S。それらが示すメーカーの意気込み通り、個性的でしっかりとしたアメリカン・サウンドを得られる1本である。(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年6月号より)

撮影/川村容一

CAD AUDIO
Equitek E100S
92,400円
▪指向性/超単一▪周波数特性/40Hz〜18kHz▪感度/−30dBV@1Pa▪出力インピーダンス/150Ω▪最大SPL/150dB(PAD時)▪セルフ・ノイズ/3.7dBA▪外形寸法/62.7(W)×154(H)×30(D)mm▪重量/600g