
演奏中によく使うパラメーターを
操作子としてパネルに装備
フラッグシップ機のJupiter-80も、基本的にはライブ・パフォーマンスを前提として設計されている。しかしJupiter-50はサイズやパラメーターの数がコンパクトになり、何にでも使える多目的な楽器というよりは、現場で即戦力となる実用性が重視されているようだ。Jupiter-80が巨大な航空母艦だとしたら、本機はさしずめ小回りの利く高速戦艦のようなもの。最大同時発音数は128音で、ディスプレイはバック・ライト付きグラフィックLCDとなっており、Jupiter-80から幾つかの変更が図られているが、ステージでの生演奏には必要十分なスペックだろう。操作面では、演奏中にスピーディな調整が求められるパラメーターの多くを、ほぼワンアクションで扱える点がうれしい。例えばトランスポーズやオクターブの上げ下げ、オルガン音色に必須のロータリー・スピーカー・エフェクトなどは、パネルに専用の操作ボタンが用意されている。"ディスプレイから編集画面を選び、目的の階層を探して"といったストレスとは無縁だ。また、フィルターのレゾナンスとカットオフ周波数を調整できるツマミを、パネルの左上部に装備。右手で鍵盤を弾きつつ左手で触りやすい配置だ。シンセ音色のパフォーマンスでは最も多く使うパラメーターだけに、演奏シーンを見据えた仕様と言える。
ニュアンスまで再現した鍵盤楽器の音色
USBメモリー内のオーディオを再生可
プリセットにはギターやベース、管弦/打/民族楽器などに加え、シンセ音色も豊富。"Jupiter"の名から連想できるビンテージ風のアナログ・サウンドからD-50、JD-800など同社のシンセで人気を博したデジタル音色まで多彩だ。とりわけピアノやエレピといった鍵盤楽器のサウンドが美しい。減衰していく弦の共鳴感までがリアルに表現されている。また"SuperNATURAL"に採用されている音源技術"Behavior Modeling Technology"は、細かいニュアンスの表現に有効。メロディの演奏などで音が連続する際、自動的にその楽器に適切な音色変化が繰り出される。例えばギターやベースのサウンドを用いて2つの音を滑らかに弾くと、2つ目の音は自動的にアタック感が無くなり、レガート演奏が行える。音作りの簡単さも魅力。3つのパートに好みの音色を割り当て、それらを重ねるだけだ。各サウンドの音量バランスは演奏中でもパネルのフェーダーで簡単に変えることができ、"シンセ・パッドを薄くレイヤーした生ピアノ"のような音色も合成できる。またSPLITボタンを押しつつ任意の鍵盤を押せば、その鍵盤を中心として左右に音色が振り分けられる。左手でベースを、右手でエレピを鳴らすといった演奏も可能だ。こうした設定は"レジストレーション"と呼ばれるプログラムとして本機に最大128通り保存でき、"REGISTRATION"セクションのボタンで即座に呼び出せる。また、パネルにはUSBスロットが用意されており、音色データをUSBメモリーに保存できる。さらに、外部機器で作成したWAVやAIFF、MP3形式の音声ファイルを内蔵のオーディオ・プレーヤーで再生することも可能。パソコンやミキサーなどとの煩雑なワイアリングは一切無しで、本機1台をステージに置きバック・トラックを再生しつつプレイする......といったソロ・パフォーマンスの光景が目に浮かぶ。とにかく、購入したらすぐにステージへ持ち出し、弾き倒したくなること間違い無しのシンセだ。
▼リア・パネルには左から、フット・ペダル・イン×3や液晶ディスプレイのコントラスト調整ツマミ、MIDI IN/OUT、USB端子、オーディオ・インのゲイン調整ツマミ、オーディオ・イン(ステレオ・ミニ)、サブアウトL/R(フォーン)、メイン・アウトL/モノラル&R(フォーン)、ヘッドフォン・アウト(フォーン)、DCインが並ぶ

(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年6月号より)