エレクトロ系ダンス・ミュージック制作に最適化した大容量ソフト音源

UVIElectro Suite
フランスの人気プラグイン・メーカーUVIが、無償提供しているサンプル・プレーヤーUVI Workstation。同社はこのプレーヤーを介して使用するソフト音源やライブラリーを、UVI Soundcardシリーズとして販売しています。その中にダンス・ミュージック・シーンのど真ん中に腰を据え続けている"エレクトロ"に特化した強力な音源/ライブラリー=Electro Suiteが新たにラインナップされました。同社は、ブラック・アイド・ピーズのプロデュースやマドンナのリミックスなどで活躍するトップDJ、デヴィッド・ゲッタとともに開発したiOSアプリElectro Beatsもリリースしています。そうした経緯もあってか、簡単な操作で本格的なエレクトロ・ヒッツが即座に作れてしまうというこのツールを早速検証していきたいと思います。

ドラム音源のDrumShaperでは
キックのレイヤーが簡単に実現


Electro Suiteは、スタンドアローンのほか、Audio Units/RTAS/VST/MAS対応のソフト音源。4つの音源とループ素材を含むトラック制作のためのツール、即戦力のサウンドを豊富に収録したライブラリーによるコンストラクション・キットから構成されています。音源は、オリジナルのドラム・サウンドを生成しリズム・パターンの作成もできるDrumShaper、ダーティなサウンドのモノフォニク・シンセサイザーでステップ・シーケンサーも備えたDirtyMONO、かつて無いほど簡単で強烈なポリフォニック・シンセサイザーCarminePoly、ノイズ・スイープが瞬時に完成するSweepMachineの4つ。そしてコンストラクション・キットのループ素材をパートごとに選んで組み合わせるだけで、簡単にトラック制作ができるツールMissionControlがあり、これらをUVI Workstationにロードすることで、ソフト音源として操作できるというものです。順に見ていきましょう。まずはドラム音源DrumShaper。これはキック、スネア、ハンド・クラップ、ハイハットに特化した音源で、画面最下部にあるBD(キック)、SD(スネア)、CLAP(クラップ)、HH(ハイハット)というボタンを押すことで、それぞれのサウンドのエディット・モードに入ります(画面①)。

▼画面① DrumShaperはElectro Suiteの要とも言えるビート制作のためのドラム音源。操作方法はシンプルで最下段の左にあるボタンBD(キック)をはじめ、右に順次SD(スネア)、CLAP(クラップ)、HH(ハイハット)と並ぶボタンを選択して、各ドラム・パートへアクセスするという分かりやすさ


まずはキック。ここでいきなり驚きました! 複数のサンプルをレイヤーしてオリジナルのキックを作り込むというのはプロにはポピュラーな手法ですが、従来根気が必要だったこの作業を完全にシステム化したインターフェース。アタック音(ATTACK)、核となるボディ音(BODY)、そして音程を決定づけるトーン音(TONE)という3つのレイヤーが用意されています。ATTACKは75種類のサンプルから選択して、ボリューム、チューン、ハイパス・フィルター、ディケイをエディットし、リバーブ成分を加味できます。BODYは72種類のサンプルから選んだ音をボリューム、チューン、ハイパス・フィルター、ローパス・フィルター、ATTACKからのタイムラグを設定するアタック、それにディケイといったパラメーターでエディット。TONEではキックにプラスするサブベースの音程をキー・ボタンで設定したり、ディケイ音を"ウォン!"っとなるようにピッチ・モジュレーションをかけたりなどもできます。これが素晴らしいのは、パネル上に構造を分かりやすく図解した上で、程良い数の実践的なサンプルを集めて、必要なパラメーターを明解に配置している点です。それにDAWのトラック上では、重ねた音の発音のタイミングの調整にファイルの位置を少しずつドラッグするといった地道な作業が必要だったのですが、それをアタックというパラメーターとしてツマミでちょちょいとエディットできるのは、何と素晴らしいんでしょう!ほかのスネア、ハンド・クラップ、ハイハットに関しても同様にレイヤーでの作業が可能である上に、それぞれに特化したパラメーターが用意されており、こんなに簡単にできちゃっていいの!?っていうくらいサクサクと使えるオリジナル音が作成できます。アナログ・モデリングのリズム音源だと、自由度が高い分、ちょっとした弾みで狙いからそれてしまいがちですが、サンプル・ベースという点が欲しい音を的確に得る上でもポイントになっていると思います。またパターン・シーケンサーには、全体のスイングやクラップのタイミングを前後にずらしてグルーブ感を出すツマミもあって、至れり尽くせりな感じです。

ダーティな音作りが得意なDirtyMono
派手な音作りが得意なCarminePoly


最初に紹介する音源でいきなり熱くなってしまいました! 続けてどんどん見ていきましょう。強烈なモノシンセDirtyMonoは4つのオシレーターで構成されており、画面右下の"SYNTH"選択時が操作画面になっています。VCO1はノコギリ波、矩形波、そのミックスと、ダーティなサウンド作りに適した波形を用意し、VCO2ではいかにもエレクトロな鳴りのデジタル音、SUBとNOISEはその名の通りのサブベースとホワイト・ノイズを出力します。それらをローパス・フィルターに通しますが、FILTERノブの右側にあるDRIVEがまたいい感じで音を荒らしてくれます。そしてエンベロープ、LFO、ポルタメントといった必須のパラメーターに加え、FILTERとLFOにあるMODWHEELというボタンがまた絶妙。MIDIコントローラーのモジュレーション・ホイールの使いどころがピンと来る感じです(画面②)。FXページではやはり汚し系のBIT CRUSHERがトップを飾り、フェイザー、ディレイ、SPARKLE(リバーブ)のエディットが可能。はっきり言ってキレイなシンセ音など一切出ません! 20種類ある即戦力なプリセットがそれを如実に語っています。PHRASERページのステップ・シーケンサーでフレーズを記録することも可能です。

▼画面② モノシンセDirtyMonoのFILTERとLFO部分に備えられているMODWHEELボタン(FILTERは中央上/LFOは黄色部分)。FILTER部でこのボタンをオンにすると、MIDIコントローラーのモジュレーション・ホイールでカットオフ値を操作できるようになり、LFOではその深さをコントロールできるようになる


CarminePolyは、派手できらびやかな音を得意とするポリシンセ。太いベースはDirtyMonoに任せ、こちらではメロディ・ラインや上モノ的な使い方が適しているでしょう。VCO1、VCO2共通の23種類の波形サンプルからチョイスし、厚みを付けて、アンプ、フィルター、LFOなどで味付けしていきます。面白いのがフィルター部にあるOFFSETツマミで、VCO1と2のカットオフ値の間隔を設定でき、デチューンとは違った独特の厚みをつけてくれます(画面③)。DirtyMono同様フィルターにドライブが付いていますが、最下部のエフェクター部にもドライブがあり、前者はフィルターに対してかかるもの、後者はトータルにかかるもので、それぞれ別の効果が出ます。エフェクターにはほかにフェイザー、ディレイ、リバーブがありますが、すべてオン/オフとドライ/ウェットのバランスを取るのみとシンプルです。

▼画面③ ポリシンセCarminePolyのフィルター部。特筆すべきは一番右側の真ん中にあるOFFSETで、VCO1/2のカットオフ値の間隔を半音単位で設定することができる



スイープ音を生成するSweepMachine
手早くトラックができるMissionControl


SweepMachineは現在のダンス・ミュージックに必要不可欠なスイープ音を作るためだけのシンセサイザー。3種類のノイズを組み合わせ、スイープする長さを小節単位で指定するだけ。こんな便利なシンセって今までありました? 基本のノイズ・オシレーターでは、ホワイトとピンク以外にもブラウン、ブルー、バイオレット、ロスラー、ローレンツなど特殊なものも含めた9種類のノイズから選択可能。そしてサブノイズ・オシレーター、さらに25種類のメタリックなカラーを加えるオシレーターMETALがあります。それぞれにローパス/バンドパス/ハイパスのフィルターを選ぶボタンとQツマミがあり、スイープ・コントロールでスイープする長さを小節単位で設定します。最長で16小節。スイープが入っていくのか抜けていくのか、あるいはその両方なのかをボタンでセットします。それをLFOで揺らせるし、フランジャー、ディレイ、リバーブを加えることも可能。これまでスイープ音作りに費やしてきた時間は何だったんでしょう? "こんなのがあればいいのに"っていうアイディアを余すところ無く取り入られていて、余計なものが一切ありません!MissionControlは上記のシンセサイザー類とは違い、Electro Suite付属のコンストラクション・キットを操作するためのツールです。BD+SD(キックとスネア)、HH(ハイハット)、PERCS(パーカッション)、BASSLINE(ベース・ライン)、SYNTH1(シンセ1)、SYNTH2(シンセ2)の6つの各パートに同梱されたサンプル・ライブラリーを選ぶだけで、サウンドが自動でマッチしてミックスできるというものです。各パートにはボリュームやパンのほかに独立したローパス/ハイパス・フィルターがあり、チューンやオクターブ・シフトもできるので、初心者はもちろん、とにかく手早くエレクトロの曲が必要な仕事人まで、満足のいくトラック作りが瞬時に行えます。ほかにもUVI Workstationに直接読み込んで使用できるサンプル、ループ、ワンショットが膨大にあり、どんな制作スタイルもフォローする万全の装備。個人的にもテクノを作る上でDrumShaperとSweepMachineが当面手放せない存在になりそうです!

サウンド&レコーディング・マガジン 2012年6月号より)
UVI
Electro Suite
オープン・プライス (市場予想価格/19,800円前後)
▪Mac/Mac OS Ⅹ 10.5以降、G5以上のCPU(INTEL Core 2 Duo以上推奨)、2GB以上のRAM ▪Windows /Windows XP SP2/Vista/7、Pentium 4 2GHz以上のCPU(INTEL CORE 2Duo以上推奨)、2GB以上のRAM ▪共通項目/iLokキー(別売)、インターネット接続環境とiLokアカウント(製品オーソライズに必要)、5GB以上のハード・ディスク空き容量、DVD-ROMドライブ