現場における操作性を高めたオールインワン・タイプのAVミキサー

ROLANDVR-3
 こんにちは! 映像ディレクターの川村ケンスケです。今回はROLANDの映像&音声ミキサーのVRシリーズの最新モデルVR-3を紹介します。2回のUSTREAM生中継の現場にて、本機をじっくりとテストすることができたので、リアルな使用感レポートを中心としたレビューをお届けしたいと思います!

音楽系の中継にマッチする
レスポンスの早い映像スイッチング


まず製品を箱から出してみると、同シリーズのVR-5よりもかなり小さいサイズという印象を受けました。VR-5はROLANDのハード・ディスク・レコーダーの名機、VS-880に近いサイズでしたが、VR-3は形状こそ違えど、同社のV-4と同じクラスの大きさ。しかしパネルのレイアウトを見る限りでは、VR-5に匹敵する機能を詰め込んでいる様子なので、より一層期待が高まります。 本機は最大4系統のビデオ入力と10chのオーディオ入力を扱えるAVミキサーです。電源を入れるとモニターにROLANDのロゴが浮き出て、あっという間に立ち上がりました。これは専用機の強みと言えるでしょう。ちなみに今回の使用レビューは、僕たちが運営する映像配信サイトkampsite(www.kampsite.jp)が行った、2回の生中継でテストしています。1回目はレコーディング・スタジオからのスタジオ・ライブ、2回目は都内のライブ・ハウスから生中継です。1回目の中継の音楽ジャンルはソリッドなロック・バンドで、音もマイクをきちんとセッティングしたレコスタらしいバランスの取れた2ミックスをもらいました。普段であればこの2ミックスをコンプレッサーとEQで処理をするところですが、今回はそのままVR-3に入れて放送しました。映像は3台分のカメラを使用し、24p映像が撮れるカメラのアナログ出力をVR-3のRCAピン入力に接続します。アナログながら映像は切れがあるクリアな印象です。電源を入れて音声をつなぎ、映像を入力して......あっという間にスタンバイOK。今回、映像と音声はVR-3のRCAピン・アウトから出力して、A/Dコンバーターを介してパソコンにつないで放送しましたが、本機のUSBアウトを直接パソコンに接続しての配信も可能です。さて、いよいよライブ中継開始! 実際に映像のスイッチングして感じたのは、先代のVR-5に比べて、圧倒的にレスポンスが良い!ということ。"音楽系のライブ"の中継が多い僕らにとって、ボタンを押してから映像が切り替わる間の"少しのタイムラグ"は、非常に気になるものなのです。その点本機は、このタイムラグが解決されていて素晴らしいですね。リズムが重要な音楽モノを扱う場合、これは本当にうれしい進化と言えます。また各映像入力に接続したカメラの映像は、本機のモニターで確認できます。INPUTを選べば4面マルチ画面で各カメラ映像を見られるほか、OUTPUTを選べば、最終の出力映像の表示も可能です。この"マルチ映像モニター"が搭載されているのも本機の特筆すべきポイントでしょう。オペレーションに関しては、映像のことが少しでも分かる人であれば、マニュアルが無くても操作できるほど、シンプルな構成になっています。MENUボタンを押すと各項目が前述したモニターに表示されるのでタッチ・パネルで選択し、各設定や数値の操作をします。これらの一連の操作はタッチ・パネルだけでなく、本体右上のVALUEノブでも操作可能です。中継現場ではやはり直感的にパラメーターをイジりたいので、タッチ・パネルでパラメーターを選択し、VALUEノブで数値を変えられるのは、手元が見にくい現場でも操作しやすく、親切な作りだと感じました。中継終了後の撤収で、ケーブルをさっと抜いてあっという間に片付けを完了できるのも、オールインワン・モデルである本機の魅力です。と言うのも、この手の現場が映像中継側のテンポで進むことは無いため、常に時間に追われる身としては、この便利さは何ものにも代え難いのです。通常は映像スイッチャー、4chの音声ミキサー、ハーフ・ラックの音声用コンプ、それに映像のエンコーダーにパソコンといった機材を、現場の狭いテーブルに組み上げて作業しますが、それがVR-3とパソコンだけで済むのですから。VR-3_L-side

▲左のサイド・パネルにはファンタム電源対応のオーディオ入力を4系統(XLR/フォーン・コンボ)を備える
VR-3_R-side
▲右のサイド・パネルにはMIDI OUT/TURU、MIDI INを搭載

中継現場で威力を発揮する
直感的なパラメーター・コントロール


次にテストした現場は都内のライブ・ハウスで、椅子を並べたら50人くらいの小さな空間です。僕たち映像機材班のスペースは、直径70cmほどの丸テーブルのみ。そこにこれまでは前述の5つの機材を積み重ねていましたが、先述のテスト同様にシンプルなセッティングにしました。3台のカメラに三脚が2台、さらに本機とパソコン、今までの半分の時間で準備を完了できました。これでもまだ本機に慣れない中での準備なので、慣れたらもっと早く用意できる......と思った次第です。 音声に関してはライブ・ハウスのPAミキサーのR E C O U TからフォーンでV R -3の側面のI NPUT 1/2に入力。ライブ・ハウスの場合、アンプやドラムの生音とPAからの出音でバランスを取るため、通常PAの2ミックス・アウトには空気感や生音感が含まれないので、バランスが悪くなります。その対処法として僕たちは、別途でアンビエンス用マイクを立て、PAアウトとミックスしてEQとコンプを通してなじませるスタイルを取っています。今回もその手法にのっとり、V R -3のI N P U T3/4にアンビエンス・マイクを入力しました。とは言え、V R -3の本体にはI N T E R N A L M I Cというステレオマイクが搭載されていて、"現場の音"を直接収音できるため、これを利用するのも一つの方法でしょう。しかし本体内の内蔵型マイクなので、本体の操作音を拾う可能性があるため、音質を重視する中継の場合は、外部マイクの使用をお勧めします。簡易的な音声配信であれば内蔵マイクでも全く問題無いでしょう。

エフェクトは各チャンネルと合わせて
最終マスター出力にも搭載


続いてリハーサルの合間に音声調整で、VR-3のAUDIOエフェクトを試してみました。本体パネルのEQやパンのほかに、ハイパス・フィルターやノイズ・ゲートといったエフェクトがMENUから選択できます。音声メインでは若干物足りない気もしますが、映像配信に絞って見れば、実用的な仕上がりだと思います。エフェクトは各チャンネルの最終段の出力にも装備され、2バンドのコンプ、3種類のプリセットを備えたリバーブを搭載し、それぞれのエフェクト量はパネルのセンターにあるノブで調整が可能です。実際に使ってみると非常にシンプルに操作できるので、これは映像配信の用途としても扱いやすい設計だと言えます。2回目の音楽ジャンルは、ギターがメインのサザン・ロック系。アンビ用のマイクと混ぜつつ、NO I S E S U P P R E S S O Rを使って迫力のある音声を作り、映像もマルチモニターでチェックしつつ満足のいく中継ができました。映像面の操作ではいわゆるオーバーラップのデュレーション設定が、ワンアクションでできないため、中継の最中にオーバーラップ時間の変更をしにくいのが少し気になりました。とは言え、カットとオーバーラップの切り替えが、映像切り替えボタンのすぐ上にあるので、使うと意外に両者の変更がサラっとできて良かった!とも感じることができました。さて、駆け足で紹介してきましたが、何しろシンプルさとコンパクトさを兼ねたモデルなので、映像配信に最適な製品という印象を受けました。僕らの運営サイトでもぜひ導入したい一台だと思います!VR-3_back▲リア・パネル。左からUSB端子、オーディオ出力L/R(RCAピン、フォーン)、映像出力×2(RCAピン)、プレビュー出力(RCAピン)、PC-RGB入力&スルー出力(D-Sub15ピン)、映像入力×4(RCAピン)、オーディオ入力×3(RCAピンL/R、ステレオ・ミニ)サウンド&レコーディング・マガジン 2012年3月号より)
ROLAND
VR-3
168,000円
●映像信号▪ フォーマット/ ビデオ:NTSCまたはPAL、PC -R G B 8 0 0 × 6 0 0(1 2 0 H z)、8 3 2×6 2 4(7 5 H z)、1,024 × 768(80H z)、1,152 × 864(75H z)、1,152 × 870(75H z)、1,280 × 768(75H z)、1,280×800(75H z)、1,280 × 1,024(75H z)、1,366×768(75Hz)※VESA DMT Ver 1.0 Revision 10準拠、上記リフレッシュ・シートは各解像度の最大値▪サンプリング・レート/4:2:2(Y:R-Y:B-Y)、8ビット、13.5MHz▪フレーム・シンクロナイザー/4系統●音声信号▪サンプリング・レート/24ビット、48kHz●その他▪映像切り替え効果/カット、ミックス、ワイプ▪映像合成効果/ルミナンス・キー、クロマ・キー、ピクチャー・イン・ピクチャー、スプリット▪オーディオ・エフェクト/入力:ハイパス、ノイズ・ゲート、EQ(ハイ/ロー)/出力:ノイズ・サプレッサー、エンハンサー、マスター(ハイ/ロー)、オーディオ・ディレイ、リバーブ、コンプレッサー▪外形寸法/303(W)×80(H)×202(D)mm▪重量/2.0kg