強烈な変調が魅力のMoogerfoogerのコーラス/フランジャー

MOOGMF-108M Cluster Flux
 APPLE iPadアプリを出したかと思ったら、ダブステップを意識したとしか思えないMinitaurなんてシンセ・ベースを発表したりと、MOOGさん、精力的です。そんな中、木枠のストンプ・エフェクトとして人気のMoogerfoogerシリーズの新作まで発表されました。MF-108M Cluster Fluxはなんとフランジャー/コーラス!! "なぜこの時代にフランジャーを?"なども含め、いろいろ気になるところです。チェックいたしましょう。

まるでシンセの一部を切り出したように
小さな筐体に多くのツマミを装備


ジャーって、本音を言うと今は何となく微妙なイメージも。逆に言えば、1960年代のビートルズのテープを用いたフランジャー効果から、ジミヘン〜ヴァン・ヘイレンに至るロック・ギター、ジョン・ボーナムのドラムからデヴィッド・ボウイ〜ドナルド・フェイゲンなどのボーカル、さらにはYMOやクラフトワークのシンセにと、本当にガンガン使われてきた歴史があります。その印象強いサウンドは、逆に使用過多なイメージもあり使われにくくなった感もありますが、一筋縄ではいかないはずなのが同社製品。まずその仕様は、従来の同シリーズと同じ筐体でツマミやパネルのデザインもほぼ同様。トップ・パネルは"DELAY""LFO"の2セクション。"RANGE"でFLANGE/CHORUSを切り替えディレイ・タイムの大枠を決め(フランジャーは0.6〜10ms、コーラスは5〜50ms)、さらに"TIME"(0〜10ms)で細かいディレイ・タイムを設定、"FEEDBACK"(−∞〜+∞)で特有の濃さを......というのがディレイ系をつかさどる左半身。もちろんMOOGだけに、BBDを使用した完全アナログ仕様のディレイ回路です。"DRI
VE""OUTPUT LEVEL""MIX"(原音とのバランス)の3つのツマミを挟み、ディレイを変調するLFO系の右半身を見れば、なんと6種類(!!)の波形選択、揺れの速度を調整する"RATE"(
0.05〜50Hz)とかかり具合を設定する"AMOUNT"(0〜10)。下には"BYPASS"のほか、LFOスピードをTAPコントロールするスイッチも搭載。またリア・パネルにはモノラル入力、ステレオ出力(ステレオ具合も内部でセレクト可)、インサート入力、エクスプレッション・ペダルで制御可能なFEEDBACK、TIME、LFO RATE、MIXの入力、さらにMIDI INまで装備。MIDIクロックを受けてLFOがシンクします。相変わらず巨大シンセの一部を切り出したかのような、充実の構成です。


ギターやベースからシンセまで
良質なアナログ感を体験できるサウンド


ダビングの日でしたので、早速ギタリスト氏に自慢。ギターに接続し速攻FLANGEモードから。"あ、本当にフランジャーですね!"と楽しみながら、TIMEやFEEDBACKをいじり出したらその効果に思わずニンマリ。FLANGEモードでもコーラスっぽくも使えるし、ムチャクチャ濃いフランジャーはもちろん、超お下劣(褒め言葉)なビブラートにまで変身し、さらには強烈な自己発振まで......訂正です。TIMEなどのツマミは微調整ではありませんでした。"エフェクターの種類がどんどん変わる"印象です。FEEDBACKを上げたフランジャーや、濃い高速ビブラートはその質感ならではのギター・リフで曲を作りたくなるほどに個性的。そして良い意味で音がいなたく太いです。


その後シンセを接続してみました。まずはエレピの音色にCHORUSモード。コーラスでFEEDB
ACKが使える点が新鮮です。ピッチの揺らぎが太く大きくて、結構エグめな設定でもMIXでバランスを良い具合にすると音色が立ちます。FEEDBACKを上げ発振ギリギリでも痛さは無く、サウンド自体にボトムがありました。ステレオ出力でパッド系を作ったところ、う〜ん、細野晴臣氏『はらいそ』のパッドの感触が見事なアナログ感で再現できます。そう、本物の良質なアナログ感が売りのひとつ。この感触はビンテージ・ハードでしか味わえなかったので、うれしい限りです。


また個人的に新鮮なのがシンセ・リードやシンセ・ベース。太く、プログッレシブ・ハウスやエレクトロにもぴったりのエッジが出てきます。さらにTIME長め、FEEDBACK多め、RATEゆっくりめ、AMOUNT多めにし、LFOをサイン波、スクエア波と切り替えると......あらあら! ダブステップ風味の濃い揺らぎまでが波形通りに生まれて最高!! こんなフランジャーの使い方もあったんですね......って言うか、もはやフランジャー/コーラスという既成概念では語れません。丁寧に贅沢に作られたアナログの逸品の逆襲です。音色作り込みでのフレーズ・メイキングの友って感じの一台。決して安価ではありませんが、揺らぎ好きのあなた! 生涯の相方として、無くなる前に(限定生産)速攻チェックをお勧めいたします。



mF-108.jpg



▲リア・パネル。上段は左からAUDIO IN(フォーン)、FEED BACK(フォーン)、TIME(フォーン)、LFO RATE(フォーン)、MIX(フォーン)、電源コネクター。下段は左からL/MONO OUT(フォーン)、R OUT(フォーン)、FB INSERT(フォーン)、LFO AMT(フォーン)、MIDI IN


サウンド&レコーディング・マガジン 2012年3月号より)



MOOG
MF-108M Cluster Flux
94,500円
●外形寸法/150(W)×65(H)×230(D)mm ●重量/1.8kg