新たな機能で一層リアルさを増したサンプリング・リバーブの最新版

AUDIO EASEAltiverb 7 XL
今となっては各社から多数リリースされているサンプリング・リバーブ。その先駆けとも言えるAltiverbが発売された当初は、その技術と音に"おお〜"と感心したのを覚えています。その最新版Altiverb 7 XLが登場、TDM/RTAS/VST/Audio Units/MASに対応したプラグイン(現時点ではMacのみに対応)です。下位モデルにAltiverb 7 Regular(オープン・プライス:市場予想価格/63,000円前後)もラインナップ。今回のバージョン・アップではさまざまな点が改善されているということで、期待しつつチェックしていきましょう。

すべての操作が視覚的に把握可能
今バージョンから64ビットにも対応


まず、インターフェースが一新された画面は黒を基調としており、好みのデザインです。主に使うであろうパラメーターは表に出ていて、変にごちゃごちゃせず今までのバージョンより分かりやすく、操作性も良くなっていると思います。これらのパラメーターは拡張することで細かく調整することも可能で、メイン画面の写真下に表示されている"I/O" "EQ"などをクリックすればメニューが出てきます。非常にシンプルな作りのため、操作が簡単です。その他の各機能は、画面上部の単語をクリックすると調整できます(画面①)。


▼画面① メイン画面の写真上に表示されている項目。任意の効果をクリックすると階層に入っていける仕組みで、その際どの項目も視覚的に把握できるのがポイント



IR(インパルス・レスポンス)の選択も新機能のブラウザー画面によって、膨大なライブラリーの閲覧性が大幅にアップし、分かりやすくなっています。プラグインが立ち上がった状態で画面の写真をクリックすると、カテゴリー別にプリセットが一覧表示されます(画面②)。その中から任意のカテゴリーを選択すると、さらに細かいIRの一覧が出てきます(画面③)。IRのイメージ画像が出てくるので、直感的に選ぶことができて使いやすいです。もちろん"Room"などと文字表示のみや検索も可能。また、今回のバージョンから、similarというボタンが搭載されました。これは、現在選択されている音響特性に近いIRを一覧で表示してくれる機能です。一度選んだIRがしっくり来ない場合など、次の候補を探すのに重宝します。さらにインターネットに接続していると、ブラウザーのnewsのところに新たに公開されたIRなどのアップデート情報が表示されます。この新たなIRはオンラインでダウンロードすることも可能です。


▼画面② メイン画面左上のIR名または空間写真をクリックし、"IRs"と表記されたアイコンを選択すると上のようなブラウザーが起動する。左側には上 からnews(IRのアップデート情報)、IRs(IRの検索)、presets(プリセットの選択)、similar(現在選択されているIRとそれに 近いIRの一覧表示)が用意されている



▼画面③ 左画面の"MUSIC"カテゴリー内にある"opera& theatreをここでは選択。各カテゴリーから好みのシチュエーションを選択すると、さらに細かい設定が用意されている



このほかにも、brightというパラメーターが新たに増えました。これは、デジタル・リバーブが持つブライトな高域の雰囲気をアルゴリズムにより付加する機能です。インパルスものはどうしても既存の空間を収録してリバーブとしているので、デジタル・リバーブに比べ高域の抜けが弱く暗い......という印象を持っている方もいるかもしれません。そういった場合に、このbrightの数値を上げることにより、実際の空間からのサンプリングだけでは得ることのできない明るさを電気的に生み出すことで、高域部分を強めることができるという機能です。これはEQで上げるのとは全く違うので、より使える範囲の広いリバーブ音が作り出せます。なお、通常のEQも備えているので使い分けができるのもうれしいですね。


また、AVID Pro Toolsで使う場合は、DSPの種類を選択できるようになっているようです。Accelチップとnon-Accelチップから選べ、チップの消費量もリバーブの長さに応じてプラグインをアサインした状態で変えることが可能。以前はプラグインの選択時に一覧で出ていたのが簡素化されています。さらに、今回のバージョンから64ビットOSに対応したのも魅力でしょう。


ゲート・リバーブの演出ができるほか
空間表現の自由度も増している


Altiverb 7 XLではオリジナルのIRデータを自分で簡単に読み込むことができるのも特徴です。さらに"ir import"という機能を逆手にとって面白い効果にすることができます。これは通常、スウィープ音を用いて収録した空間のIRデータをインポートするのに使いますが、それ以外にもとりあえずいろんなオーディオ・ファイルをインポートすることで、それをIR的に使うことができるのです。リミックスものや面白い効果を作り出したいときに特に有効でしょう。例えば普通のシンバルのサンプルをインポートして金属的な空間を演出するなど、面白い効果を作ることが可能。また、面白いところでは"gated verb"というところをクリックすると、ゲート・リバーブを簡単に作ることができます。ゲートが閉じる(余韻をカット)タイミングは、実時間で指定することも、曲の音符の長さで指定することもできます。リバーブのプリディレイも同様に、実時間かテンポに合わせるかを選択することが可能なので、よりタイトなリバーブ効果を作り出すことができます。ほかにも、"positioner"を使うことによって、音源やリバーブ音の位置を視覚的に配置することもできます(画面④)。この辺は特にポストプロダクションなどの現場では効果的でしょう。


▼画面④ 画面①の項目"positioner"を選択すると、再生する音源をスピーカーに見立て、好きな場所へ設置することが可能。操作は画面のスピーカーをマウスでドラックするだけ



ここまで機能面などを説明してきましたが、全体的にパラメーターが必要最低限に抑えられているのがうれしいところですね。パラメーターが多くても実作業で使うのは一部だけと言うのがほとんどですから、分かりやすく操作できるのが現場では一番大事です。


豊富に用意された使いやすい空間
プリセットのままで十分使える表現力


サンプリング・リバーブは"Hall"などいわゆる空間のライブラリーの数が勝負だと思います。本製品の場合、購入した時点で多数のライブラリーが付属しているのはうれしいです。正直なところ使えるか使えないかは大本のIRの質が重要になってきます。デジタル・リバーブはパラメーターで無理をすればどんなものでも使えたりするのですが、IRの場合は先述した通り実際の空間をサンプリングするため、録音を行う空間の質が重要です。しかし、Aitiverb 7 XLではその質に納得させられます。


サウンドを聴いての第一印象は、本製品ではライブラリー的に全くパラメーターをいじらない状態で、"おっ......良いな〜"と思わせる空間が多いのがうれしいところ。音的にはほかの同タイプのプラグインに比べて密度が濃い印象です。これはAltiverb 7 XLと別のリバーブのプリセットで比べてみた印象ですが前者の方がより滑らかな印象で、さらに倍音も多いように思います。これは本ソフトに収められたどのタイプのIRにも言えることですが、荒れた感じが少なく、優等生的な印象を受けました。空間はとてもよく演出されていると思います。古いデジタル・リバーブの再現性も高く、質感もうまく演出されています。


正直今まであまり本製品には触れていなかったのですが、今後は使わなきゃと思いました。今回は、ライブのミックス、レコーディング後のミックス、ゲームやムービーの音楽にサラウンド効果をプラスするMA作業などで使いましたが、ライブラリーが探しやすいので、どのシチュエーションでも的確なIRを見つけることができ、悩んだりすることもありませんでした。Altiverb 7 XLのようにプリセットが多いソフトの場合、ここは特に重要になってくるポイントです。また、動作も重くはなく、ネイティブ環境でも動作が軽くサクサク使えました。今のスペックとは比べものにならない初代APPLE Mac ProのCPUでも動作は軽快。もちろんTDM環境でも同様です。


サウンドについては先ほども触れましたが、brightのパラメーターによる効果が秀逸です。ある種のIRの欠点を補ってくれると言いますか、低域の感じも曇ることが少なく、量感もあり気に入りました。部屋の実際の響きをキャプチャーしたとはいえ、例えば実際にキック・ドラムを鳴らしたときの低域の質感と、その音をサンプリングしたIRでは後者の方は低域が誇張された感じになり曇ってしまいます。これまではEQなどで処理していましたが、本製品の場合はその部分がより自然に聴こえたのも良かったですね。IRがこれから増えてくることを期待しつつ、空間演出としては十分納得のいく出来栄えになっていると思います。デジタル・リバーブとはひと味違う密着感を演出することができるので、音数が少ない音楽には特に有効だと思います。また、5.1chサラウンドにも対応する本ソフトで、今回映像のサラウンドMAもやってみましたが、サラウンドの空間を気軽に作れるのはものすごく楽でした。


音数の多い楽曲では空間が主張する分ちょっと使いにくいIRリバーブですが、本製品ではそのいい意味での欠点も補いつつ、より操作性も含め幅広い用途で使いやすくなったと思います。音楽からポスプロまで幅広く使えるこのIRの空間を、ぜひ試してもらいたいですね。筆者もこれから使っていくのが楽しみです。



サウンド&レコーディング・マガジン 2012年4月号より)


AUDIO EASE
Altiverb 7 XL
オープン・プライス (市場予想価格/105,000円前後)
▪Mac/Mac OS 10.5以降、2GB以上のRAM、1,280×1,024ピクセル以上のディスプレイ、iLokキー(別売)、インターネット接続環境とiLokアカウント(製品オーソライズに必要)▪Windows/現時点では未対応(ただしWindows版Altiverb 6は本パッケージに同梱される。なお近日中に対応予定のAltiverb 7へのアップデートは無償)