Emulator Ⅱをほうふつさせる
柔らかく芯の太いサウンド
本製品を使用するには、まずは付属のサンプル・プレーヤーUVI Workstation 2をインストールします。このソフトはスタンドアローンはもちろんAudio Units/VST/MAS/RTAS AAXのプラグイン音源として使用できますので、ほとんどのDAWに対応するほか、MOTU Mach Five(※2017年3月現在はFalcon/UVI Workstation)の音源としても使用できます。
それではEmulation IIのモデリング部分について見ていきましょう。プリセットの数は250以上で、ドラム、ベース、ベル、クワイア・ボイス、マレット、パーカッション、シンセ、ストリングス、オーケストラ・ヒットとその種類も豊富です。UVI Workstation 2を起動させてEmulation IIを選び、さらに音色のプリセットを選択した際に出てくるインターフェースは、当時の実機のシブい色合いに限りなく近く、新製品ながらにビンテージ感が漂うルックスです。
音色エディットの操作子は、視覚にも扱いやすい配置なので直感的に作業できそうです。音はデジタルでありながらも質感はアナログ・サウンドに近い、柔らかくて芯の太い印象です。まさに当時のサウンドを忠実に再現した感じで、かなり好印象でした。漠然とですが"この音はあの曲の音に近いな"といった記憶を呼び戻すような、聴いているだけでも楽しい作業でした。プリセットの音だけでも十分使えますが、より好みの音にするために、画面上のツマミを動かしてみましょう。
Emulation ⅡのGUIは左側にAmplitude、Filter、右側にStereo、Modwheel、Effects、BitCrusherと並び、各エディット・パートはランプの点灯でオン/オフを確認できるようになっています。各ツマミは音への反応も良く、細かい調整にも十分に応えてくれます。中でも面白いと感じたのは右側一番下のBit Crusherで、POWERをオンにしてBITのツマミを左側に回すと音源のビット・レートが下がるのですが、絞り切った部分ではほぼ音が消えてしまうほどの効き具合なので、FREQUENCYやDRIVEツマミと併せればかなり思い切った音作りも楽しめそうです。とは言え、過激な方向に持っていっても聴感上での効き心地はとても音楽的で、ただのノイズで終わらない辺りに素晴らしさを感じました。
Effectsはメインの画面上ではフェイザー/ディレイ/リバーブのエフェクトのオン/オフのボタンと実音との混ぜ具合を調整するといったシンプルな表示ですが、右上の"fx"ボタンで画面を切り替えることで、さらに細かいエディットができます。加えてエフェクトのチョイスも可能ですから、プリセットから別の設定に変更するのもアリだと思います(画面①②)。
E-MUのDrumulatorをモデリング
500以上のドラム音源を収録
Drumulationは当時のサウンドには欠かせない存在であったリズム・マシン、Drumulatorをモデリングしたものです。こちらのインターフェースもまたニヤリとしてしまう仕上がり......というか、個人的にこういった配色が好きなようで、見た目だけでもかなりグッときてしまいます。Drumulationには500以上のドラムやパーカッションと多くの音色が収録されており、8パート(2パート/4グループ構成)のリズム・マシン・キットに16ステップのシーケンサーを装備しています。リズム・マシン系のソフトは各社によってそれぞれのコンセプトやキャラクターが違うので、いろいろと試してみるのは本当に楽しいのです。その中から作りたい音に合わせてソフトを選択するわけですが、ビンテージな音を選ぶのがまた難しかったりもします。そんな中で、DrumulationはEmulation IIのオマケ的なポジションに見えるかもしれませんが、そんなことは全く無く、自分にしてみればEmulation IIに匹敵する、待望のソフト音源化であります。
こちらもUVI Workstation 2のロード画面よりDrumulationを選択します。プリセットを選択して読み込むと、単発の音がアサインされている低音側の鍵盤が青く、あらかじめシーケンスが組まれたループをアサインしてある高音側の鍵盤は赤く表示されます。試しに青い部分を一音ずつ鳴らしてみると、これまた忠実にモデリングされたサウンドで、"12ビット的な匂い"の良い響きになっています。赤い鍵盤を押すとプログラムされたシーケンスが再生されるのと同時に、上下2段で表示されるボタン上のランプも走り出します。元のパターンから打ち込みたいパターンに変更する操作も非常に扱いやすく、2段の16ステップの下にある4つのボタンで、走らせているシーケンスの音色を選択します(画面③)。変更はランプ下のボタンをクリックしてオン/オフするだけでOK。入力時のベロシティは強/弱/オフの選択が可能で、強めは赤、弱めはオレンジに点灯します。このようにインターフェース上でどう打ち込まれているのか、自分がどう打ち込みたいのかを瞬時に確認できるのは、イメージしているシーケンスをすぐに再生できる点でもありがたいことだと思います。
音色の切り替えはSAMPLEのプリセット表示欄の右にある""のボタンを使って、シーケンスを再生させながら音色を選んでいけます。ボリューム、パン、チューニング、ハイ/ローパス・フィルターの調整も行えるのでループさせながら追い込んで行きましょう。またこのステップ・シーケンサーよりもさらに分解能の細かい打ち込みをしたい場合は、青の単音部分の鍵盤を各シーケンス・ソフトのMIDIトラックに入力することで音源を自由に扱えます(画面④)。長い小節のリズム・ループを作るときなどはこちらの方法を試してもよいでしょう。
さて、一通りEmulation IIを試してみましたが、個人的には使いやすさも含めて、即戦力となり得るソフトウェアだと思いました。制作する音楽のジャンルにもよりますが、ハイファイとローファイが1曲の中に混在しているような、今っぽいサウンドに使用するのならば、かなり向いていると感じます。プリセットのままでも十分使えますすが、好みのエディットでオリジナルなサウンドをどんどん作ってほしいと思います。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年4月号より)