最大24イン/24アウト、DSPミキサー完備のUSBオーディオI/O

STEINBERGUR824
2011年秋にSTEINBERGから発表された中級以上のユーザー向けオーディオ・インターフェース、UR824がついにリリースされた。24ビット/96kHz対応のUSB2.0接続機で、24イン/24アウトという豊富な入出力とこだわりの機能を装備するなど、プロ・ユーザーの使用にも十分耐え得る製品になっている。入出力が多いだけのオーディオ・インターフェースと思う人もいるかもしれないが、専用DSPも搭載した、かなりハイエンドな仕様だ。市場予想価格79,800円前後という手の届きやすい価格帯も魅力的。しかも数年前に発売された同社のフラッグシップ機MR816 CSXに肉薄する機能を備えており、そのMR816 CSXの市場予想価格が約140,000円前後だったことを考えると、本機の価格がいかにリーズナブルであるかがご理解いただけるだろう。もちろん、このUR824はCubase/Nuendoで有名なSTEINBERGブランドではあるが、ASIO/Core Audio/WDMに対応する他社製DAWのオーディオ・インターフェースとしても問題なく使用できることを最初に述べておく。

色付けの少ないマイクプリD-Pre
ADATも含めた豊富な入出力数


さて、まずは入出力から説明しよう。8つのアナログ・インプットには、ミキサ-兼オーディオ・インターフェースのYAMAHA N8/N12、そして前述のMRシリーズで評判の高かったマイクプリ"DPre"を8基搭載。このD-Preは、ディスクリート・クラスAのマイクプリで、音楽制作専用の設計がなされている。実際にNEUMANN U87 AI、AKG C414B-XLII、AUDIO-TECHNICA AT4040、SHURE SM58などを接続して試聴してみたところ、各マイクの個性を引き立てながらも、低域から高域までクセの無い印象だった。スムーズでありながら低域の量感あふれるリッチなサウンドで、色付けが少なく、どんなマイクにもマッチするだろう。音楽のジャンルやスタイルを選ばないマイクプリだ。加えてデジタル入力としてADATを2系統備えているので、アナログ入力×8と合わせると最大24インが可能となっている(96kHz時は16イン)。すなわち別途ADコンバーターなどを用意すれば、バンド・レコーディングもこれ1台で問題なくこなせるのだ。そしてこのUR824、ワード・クロックのイン/アウトも備えているのだが、インの方をアウトに切り替えることも可能。すなわちクロック・マスターとして2系統のワード・クロックを出力することができる。この辺りの機能はプロ・ユーザーにとっても十分使える仕様となっている。ちなみにUR824のデジタル入出力には、ジッター除去で知られるJetPLL技術を採用。ここでも高音質なサウンドが期待できる。一方、アウトプットもアナログ入力×8とADAT×2系統を合わせて計24アウトとなっている。サラウンドなどのマルチアウトに対応するのはもちろんのこと、複雑なモニターCUEシステムを組んだり、外部アウトボードを接続することもできるので、システム構築の幅はかなり広がる。システム環境を自分なりにカスタマイズしたいユーザーや、多チャンネル・レコーディングをしたい人にはかなりのメリットがあるだろう。

専用DSPミキサーのdspMixFx付属
DSPエフェクトのVST3版も同梱


本機の最大のポイントはDSPを搭載していること。dspMixFx(画面①)と銘打たれた付属ミキサー・ソフトを使って、入力音にDSPエフェクトをかけつつ、DAW上からのオーディオ・データと合わせて、レイテンシー・フリーのモニター・ミックスを作ることができるのだ。またdspMixFx上では、入力チャンネルとDAWからの出力チャンネルなどのモニター・ミックス設定を"MIX"として記録し、最大4つのMIXを作ることが可能。そして本機のアナログ・アウト×8を4つのステレオ・ペアとして、各MIXを別途出力することもできるのだ。

▼画面① 専用DSPミキサー・ソフトのdspMixFx。画面のようにアナログ/デジタルを含めた入力チャンネルと、DAWからの出力チャンネル、そしてモニター・ミックスを出力するマスター・チャンネルを用意。ここで各チャンネルのバランスをとって独自のモニター・ミックスを作り、"MIX"として4つまで記録することが可能


dspMixFxの各入力チャンネルには直観的に使えるコンプ&EQエフェクトのSweet Spot Morphing Channel Strip(画面②)も実装されており、プリセットも多数用意。そのプリセットも有名エンジニアによるセッティングがスタンバイしており、直感的に自分のサウンドに合うプリセットを探していくことができる。難しいパラメーター設定の必要が無いのもSweet Spot MorphingChannel Stripの魅力でもある。気になったプリセットを選び、中央に配置されているノブを感覚的に回すとパラメーターが変化していくので、欲しい音を探ればいいのだ。

▼画面② dspMixFxでかけるDSPエフェクトのSweet Spot Morphing ChannelStrip。中央にあるモーフ・ノブにはプリセットごとに5つのコンプ/EQ設定が記録されており、ノブを回していくとモーフィングするがごとくパラメーター値が変化していく


またモニター・ミックスにかけられるDSPリバーブとしてRev-X(画面③)も搭載されている。Rev-XはMRシリーズにも装備されていたが、本機では異なるGUIを使用。グラフィカルにパラメーターを把握しやすいGUIになり、目指す音作りに誰でもリーチしやすく、プリセットも豊富だ。そして注目すべきはその音質。名機YAMAHA SPXシリーズなどで定評のあったアルゴリズムをプラグイン化しており、どんなソースにもよくなじむ。ちなみにこのRev-XはYAMAHAの各種デジタル・コンソールにも採用されているくらいその信頼性は高く(多くの場合はAdd-On Effectsとして追加する)、多くのユーザーから支持されているリバーブなのだ。

▼画面③ dspMixFxのDSPエフェクト、Rev-X。YAMAHA SPXシリーズのアルゴリズムを備えており、タイプはHALL/ROOM/PLATEの3種類。リバーブ・タイムやディケイをグラフィカルに把握できる


基本的に、上記2つのDSPエフェクトはdspMixFxのモニター・ミックス上でしかかけられない。つまりDAW上のプラグインとしてこれらDSPエフェクトを自由に使用することはできないのだ。しかし、UR824ではRev-XとSweet Spot Morphing Channel StripのVST3プラグイン版も同梱。すなわち、録音モニター時にはハードウェア上のDSPでRev-XやSweet Spot MorphingChannel Stripを使い、楽曲プレイバック時にはDAWのトラック上でこれらをVST3プラグインとして使うことができるのだ。もちろんVST3プラグインとして使用する場合、処理はCPUに依存することになるが、DSP/VST3両対応というメリットは非常に大きい。今まで、このRev-XをVSTプラグインとして使いたかったユーザーも多かったはず。YAMAHAの本格リバーブを録音時のモニターでもミックスでも使うことができるようになった恩恵は大きい。なお、dspMixFx上で行ったセッティングはUR824本体に記録されるので、パソコンをつないでいない状態でも本機を単体で使用可能。ADコンバーターやミキサーとしてスタンドアローンで使えるというわけだ。

Cubaseとは高い連携性を実現
入出力の設定などがCubase上から可能


実際にCubaseを用いたレコーディングでこのUR824を使ってみたところ、いろいろと便利な機能を確認することができた。まず、UR824をオーディオ・インターフェースに選ぶと、Cubaseの立ち上げ時に表示されるプロジェクト・アシスタント・ウィンドウで、レコーディング・タブに4つのテンプレートが用意される。これらを選べば、すぐにさまざまなスタイルのレコーディングが開始でき、面倒なルーティングやアサイン作業が省けるのだ。また、UR824を接続することで、インプット・チャンネルの拡張ミキサー上で"ハードウェア"というメニューを選ぶことができるようになり、専用の入力設定画面が現れる(画面④)。ゲイン、+48Vファンタム電源、位相反転といった入力にかかわるパラメーターから、モニター・ボリュームやDSPエフェクトのRev-Xのセンド量、Sweet Spot Morphing Channel Stripのインサート・ポイントの設定も可能で、インサート場所次第でSweet Spot Morphing Channel Stripのかけ録りも可能となる。

▶画面④ STEINBERG Cubaseと併用すれば、Cubase内に専用の入力設定画面が現れ、ゲイン、+48Vファンタム電源、位相反転、Rev-Xのセンド量といった設定をdspMixFxを開くことなく設定できる。Sweet Spot Morphing Channel Stripのインサート・ポイント次第では、モニターだけでなくかけ録りも可能となる


また、Cubaseでは"Audio Hardware Setup"というメニューから、UR824本体の設定も行える。Rev-Xのパラメーターをはじめ、先述のMIXをどの出力端子に割り当てるのか、さらに2系統のヘッドフォンにどのMIXをアサインするかといった情報をここでセッティングできる。特にプレイヤーとディレクターがいる場合、2つのヘッドフォン・アウトに異なるモニター・ミックス設定をしたMIXを割り当てれば、それぞれが作業しやすいサウンドを聴きながらレコーディングすることができてありがたい。また、アナログ・インプットの各チャンネルに用意されているハイパス・フィルターの設定もここで行うことができ、40Hzから20Hz刻みで120Hzまで5段階とかなり細かく設定できる。


フロント・パネルのch1~2はHi-Z入力にも対応しており、エレキギターの接続も簡単だ。アンプ・シミュレーターが一般化した近年、エレキギターを直接接続できるメリットは大きい。宅録派であれば、このch1~2にギターやマイクを接続し、ch3以降はシンセなどライン楽器をつないでおいて本機をミキサー代わりに使うのもいいかもしれない。リハーサル・スタジオでバンド・レコーディングしたい方は、ch3以降にも当然ファンタム電源やPAD付きマイクプリが用意されているので、マイクであれラインであれ入力の心配は無いはず。制作スタイルを選ばないUR824はまさにマルチユースな一台と言えるだろう。

▼リア・パネルには左からUSB2.0、ワード・クロック入出力(BNC)、ADATオプティカル入出力×2系統(S/P DIF切り替え可)、ライン出力×8(TRSフォーン)、マイク/ライン入力×6(XLR/TRSフォーン・コンボ)を装備。フロントには2ch分のマイク/ライン/Hi-Z入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)を備える




サウンド&レコーディング・マガジン 2012年2月号より)
STEINBERG
UR824
オープン・プライス (市場予想価格/79,800円前後)
▪外形寸法/480(W)×44(H)×275(D)mm▪重量/3.1kg

▪Mac/Mac OS X 10.5.8/10.6.3(32/64ビット・カーネル)/10.7(32/64ビット・カーネル)、INTEL製プロセッサー(Core Duo以上を推奨)、1GB以上のRAM、CD-ROMドライブ、USB2.0端子、Core Audio対応DAWアプリケーション、インターネット環境(アクティベート用) ▪Windows/Windows XP(SP3)/Vista(SP2、32/64ビット)/7(32/64ビット)、INTEL Pentium/AMD Athlon製プロセッサー2GHz以上(デュアル・コア推奨)、1GB以上のRAM(Windows 7/64ビットでは2GB以上)、CD-ROMドライブ、USB2.0端子、ASIOまたはWDM対応DAWアプリケーション、インターネット環境(アクティベート用)