
自由にルーティングできる40インプット
ムービング・フェーダーも完備
箱から取り出すと、以前の01V96VCMより落ち着いたグレーのカラーリングで、高級感もあり好印象。ボタンの配置などはほとんどというか全く変わっておらず、既に01Vシリーズを使ったことがある人はマニュアル無しでも簡単に操作できるだろう。実際に操作してみて、この"変わらない部分"というのはとても重要だと感じるし、とても使いやすい。と同時に、01V96Iでの最大の変化といえば、ADAT端子や別売の拡張カードによるマルチチャンネル入出力対応、そして最大96kHzで16イン/16アウトのオーディオI/O機能を備えたことだ。USB接続でパソコンへのマルチレコーディングが可能な上(Mac/Windows、ASIO/Core Audio/WDM対応)、DAWのSTEINBERG Cubase AI6も同梱されており、買ってからすぐに録音/ミックスできる環境が整う。本機は32モノラル+4ステレオ=40インプット・チャンネルを持ち、モノラル・チャンネルはそれぞれゲート/コンプ/4バンドEQ/インプット・ディレイを標準装備。またモノラル・チャンネルには100mmムービング・フェーダーが16本用意されており、ch1〜16/ch17〜32を切り替えて使用する。入力チャンネルは、ステレオ・バス/バス1〜8/AUX1〜8などの経路を通って、各出力端子へ任意にルーティングできる(写真①②)。またリバーブ/ディレイからアンプ・シミュレーターまでデジタル・エフェクトが内蔵されており、プリセット×56(後述のAdd-On-Effects含む)、ユーザー・プログラム×72が利用可能(写真③)。最大4系統をAUXセンド/インサートで使うことができる。さらにシーン・メモリーとして、ミックス・パラメーターや内蔵エフェクトの設定を99個保存可能。外部MIDIからコントロール・チェンジ/プログラム・チェンジによるシーン切り替えやパラメーター変更も可能となっている。
▼写真① 入力端子とチャンネルのパッチング画面。40インプットに対して、AD(アナログ入力)、ADAT(ADAT入力)、SL(拡張カードの入力)、FX(内蔵エフェクトからの入力)、USB(パソコンからの入力)を選べる

▼写真② 入力チャンネルの出力ルーティング設定画面。各チャンネルの1〜8はバス番号、Dはダイレクト・アウト

▼写真③ 内蔵エフェクトは、オプションだったAdd-On-Effectsの12プログラムが加わって音作りの幅が広がった。ビンテージ系コンプ/EQ/フェイザー/テープ・シミュレーター、そしてリバーブのRev-Xを用意

▼写真④ 各チャンネルの入出力はトップ・パネルに用意されており、ch1~12はそれぞれXLRとTRSフォーンの入力(いずれかの信号のみ有効)とインサート端子を装備する

Add-On-Effectsをプリインストール
ビンテージ・モデリング系やRev-Xを用意
次に、新機能であるオーディオI/O機能について見てみよう。まずパソコンにCubase AI6と専用ドライバーをインストールしてUSB接続。オーディオI/O機能は16イン/16アウトで、DAWで録音する際は①バス出力1~8もしくは②入力チャンネルのダイレクト・アウト1~16のいずれかを選択。DAWからの出力に関しては、任意の入力チャンネルにアサインする形となる。とりあえずch1にマイクを接続してCubaseAI6に録音してみる。音質が向上したというマイクプリの検証だ。歌を録ってみると、以前より中域が整理されたというか、中域のピントが合っているような音。周波数バランスも良く、ソースを選ばずに使えるサウンドだ。高域が以前より伸びてるようだからそう聴こえるのか?......いずれにせよ良い意味で新しいマイクプリという印象。ここで操作していて楽だなと思ったのは、普通オーディオI/Oを使うと専用のミキサー・ソフトが付いてきて、DAWとミキサー・ソフトのルーティングが面倒な場合があったりするが、01V96Iはその必要が無いのでセッティングが速いし、ゲイン・ノブとフェーダーがパネル上に実際にあるので作業がスムーズで音楽的。また、マイクプリ付きのオーディオI/Oでコンプのインサートをしようとすると端子数の問題もあって接続が難しいこともあるが、01V96Iにかかれば各チャンネルのインサート端子にY字ケーブルを挿し込めばすぐにインサートできて楽だ。インサートといえば、今回からAdd-On-Effectsのエフェクトがプリインストールされているのもトピック。アナログ機器の回路を素子レベルからモデリングする"VCM(Virtual Circuitry Modeling)"テクノロジーを使ったビンテージ系コンプやEQ、テープ・シミュレーター、フェイザー、そして高密度な残響とスムーズな減衰特性が得られるリバーブのRev-Xも収録されている。エフェクト・ライブラリーを見てみると、プリセット45番以降はAdd-On-Effectsが並んでおり、実際にテープ・シミュレーターのOpendeckを選んでインサートして録音してみると、フラットでクリアなプリアンプにアナログ的な倍音成分が自然に加わる。音作りのバリエーションが広がるだろう。また、4系統の内蔵エフェクトは必要であればどんどんインサートして質感をコントロールできる。もちろんレコーディングのみならず、ライブPAやミックスで違ったカラーや質感を導きを出すのにも役立つだろう。リバーブのRev-Xを使用した印象は、今までの01V系の内蔵リバーブより密度が濃い。特にボーカルにリバーブをかけながら自然と中域の厚みを付け加えたいときに有効だなと思った。またリバーブの粒も細かく、減衰する際も点が見えるような感じではなく、ごく自然。今まで僕はAdd-On-Effectsを使ったことが無かったので、これらの標準装備によって、多機能で優秀なミキサーだった従来の01Vに個性的な面が加わったという印象だ。
オーディオI/O機能は、USBケーブル1本でセッティングが済んでしまうため、ライブ/モバイル・レコーディングでも使いやすいのではないかと感じた。カフェやバーなどでのライブや、小規模のライブ・ハウスならば本機でPAからマルチ録音まで事足りてしまうし、最近はライブの動画配信の需要も高くなっているので、本機でマルチ録音しておき、より高品質な状態で動画配信をするなど使い方はいろいろと考えられる。01V96Iの登場は、2012年という時代に大きな意味を持つと思う。ハンディ・レコーダーでライブを録音する時代から、今まで高額だと思われていたマルチ収録が手軽にできるようになったのだ。一般のライブ・ハウスでマルチレコーディングが当たり前になる時代もそう遠くはないと思う。その一端を担うのが01V96Iなのだろう。
▼リア・パネルの端子群は、左からモニター・アウトL/R、オムニ・アウト×4(以上TRSフォーン)、ステレオ・アウト(XLR)、ワード・クロック入出力(BNC)、ADAT入出力、S/P DIFコアキシャル入出力、MIDI THRU/OUT/IN、USB2.0

(サウンド&レコーディング・マガジン 2012年2月号より)
撮影/川村容一(写真①〜④)