
直感的に操作できるコントロール
ライブにも向いた軽いパフォーマンス
まず目に止まるのは、かわいいインターフェースです。その構成は非常にシンプルで操作子は全部で8つ。上部にはリダクション・レート(8/11/22/44kHz)やフレーム・レートの設定、テンポのシンク・スイッチ、MIDI入力のON/OFFスイッチ。その下にはピッチ、トラッキング、デチューンやノイズをコントロールするノブがあります。細かい設定画面などは無いので、親切かつ直感的な設計だという印象を受けました。さらにはグラフィカルに音質を把握できるため、音の周波数やダイナミック・レンジの範囲を確認しながらの作業ができます。リアルタイム入力/出力(モノラル)の動作も非常に軽いため、ライブでの活躍も望めそうです。
コスト・パフォーマンスやこのルックスから、悪い意味での"安っぽい"音を想像していたのですが、実際に声にエフェクトを通してみたところ、予想以上にユニークなサウンドに驚きました。いわゆるボコーダー・プラグインやピッチ変換プラグインは最近のDAWにバンドルされていることも多いので、必要無いと感じる方が多いかもしれません。しかし、それらのプラグインでは獲得できない本格的な"ローファイ"サウンドを、本機では簡単に作ることが可能です。
アナログ的な雰囲気のサウンド特性
サンプルにも使えるユニークなエフェクト
Bitspeekに採用されたシステムは、携帯電話でも使われている音声圧縮機能、リニア・プレディクション・コーディング。低ビット・レートでも比較的良好な音声品質を得ることを目的に作られた音声符号方式で、これを利用することで音声合成をより滑らかにしています。そのため微妙にローファイなニュアンスを加えられたり、逆に8ビットまでレートを落としてオモチャのようなバキバキ音にしたりと、それらを直感的にスイッチをいじるだけで手に入れることができます。またピッチを思いっきり下げ、レートのリダクションを多めにかますと、細いノコギリ波のシンセ・リードのような音にもなり、いわゆるボコーダー・サウンドとは違った硬い音も楽しめます。肝心なサウンドもアナログ的な雰囲気があり、ミッドの印象を少し強く残しつつ、ハイエンドもしっかりと出ます。言うならば、テープの質感に近いかもしれません。
ボコーダー系プラグインとは言ったものの、特に別のシンセ音を合成するわけでもなく、すべてこの画面ひとつでサウンド・メイキング/ピッチ・コントロールをします。コントロール方法はプラグインのMIDIスイッチをONにして外部MIDIアウトに認識させるだけ。各種DAWで設定に違いがあると思いますが、比較的スムーズに行えます。肝心のピッチ・コントロールの印象は正直なところ、あまりメロディアスなアプローチには向かないかもしれません。しかし、キーを合わせて音階を無くしたり、マイクロ・サンプルに強烈な印象を持たせて、ミックスしたりするときには大活躍することでしょう。個人的にはトラッキングで音階をつぶして、ピッチ・コントロールでキーを合わせ、ノイズやリダクションでサウンド・メイクする手法が最も好みでした。出てくる音も非常にユニークですが、決して極端にこもったりしないところが本機のスゴいところだと思います。ローファイながらもバランスの取れた音色は、きっとあらゆるミックスに合うでしょう。
このようにいろいろと試しているうちにボコーダー・プラグイン以外としての使い道も見えてきます。"ボーカル"に被せるだけでなく、それ以外のサンプルをユニークに演出したいときにも役に立ってくれるはずです。
これまでに数々のボコーダー系プラグインが発売されていますが、個人的には本機が一番印象に残りました。細かい設定画面を省いたのも、コンセプトが"手軽に楽しめるトイ・サウンド"だからなのでしょう。コスト・パフォーマンス性と明快なインターフェースで、幅広いクリエイターに個性的なサウンドを届けてくれるはずです。僕自身もナチュラルなリダクション具合が気に入ったので、ぜひ導入したいと考えています。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年12月号より)