3系統のモニター・コントローラー搭載の卓上型USBオーディオI/O

STEINBERGUR28M
数年前からちらほら見かけるようになったモニター・コントローラー一体型のUSBオーディオI/Oが、ついにSTEINBERGからもリリースされました。個人的にモニター・コントローラー一体型は大好きで、過去に他社製品をレビューをさせてもらったときもあまりの便利さにクラクラしました。しかも今回レビューするUR28Mは従来製品より進化していて、めまいがするほどクラクラしています。それでは早速ご紹介します。

3系統のモニター・アウトを装備
DIM/MONOなどモニター機能も充実


プロ・スタジオのコンソールには必ずモニター・セクションというものがあります。知らない人も居ると思うので少しご説明しましょう。まず、モニター・セクションにはデンと構える大きめのノブがあり、このノブを回してスピーカー音量を操作します。そしてその脇に通常"DIM"と表される"ディマー"と呼ばれるボタンがあり、これを押すと大音量で聴いていても一発で会話が可能な音量に出音を下げてくれます。さらにMONOボタンがあり、これはステレオをモノラルに変換してラジオなどのモノラル環境でどんなふうに聴こえるかをチェック可能。さらに重要な機能としてスピーカー切り替えスイッチがあり、ラージ・モニター、小型のニアフィールド・モニター、ラジカセなど3種類ほどのスピーカーを切り替えながら試聴ができるようになっています。これらは我々プロ・エンジニアには無くてはならない機能なのですが、今までのオーディオI/Oではあまり見かけることはありませんでした。しかし、UR28Mはこれらを余すところ無く搭載しているのです。パチパチと大喝采を送りたいです。UR28Mは最高24ビット/96kHz、ASIO/WDM/Core Audio対応のDAWで使用可能なオーディオI/Oです。マイク/ライン/Hi-Z入力×2と、ライン入力×2の計4アナログ入力、そして通常は3系統のステレオ・モニターを接続する6アナログ出力を備えています。そのほかデジタル端子としてS/P DIFのデジタル入出力を1系統、2系統のヘッドフォン出力、そしてAPPLE iPodなどの携帯音楽プレーヤーが接続できる2TR INを装備しています。さらに内部にはDSPを搭載しており、CPUを使わずにエフェクト処理ができるほか、レイテンシーの無いダイレクト・モニター環境を実現します。2つのマイク/ライン/Hi-Z入力はXLR/TRSフォーン・コンボ端子となっており、上位機種でも採用されているD-Preという高品位マイク・プリアンプをそれぞれ搭載。フロントのHi-Zスイッチを入れることにより、ギターなどのハイインピーダンス入力もできます。また、ステレオ3系統のアナログ出力にはスピーカーだけでなく、通常の6アウトとして外部機器をつなぐこともできます。例えば、スピーカーを2セットしか持っていない場合は、残りの2アウトをクリック送りや外部エフェクターの接続用に使えるというわけです。外観も見ていきましょう。形は卓上型で、すべてのノブ類は上向きに配置されています。中央右には大きなモニター・ボリューム・ノブがあり、手に自然になじむスムーズな回転でとても扱いやすいと感じました。このノブの周りには先ほど紹介したプロ・スタジオ必須の3系統のスピーカー切り替えスイッチA/B/Cと、DIMボタン、MONO MIXボタン、MUTEボタンが使いやすく配置されています。もうこれだけでコンソールのモニター・セクションっぽくて、ほくそ笑んでしまいますね。パネル左側にある2TR INノブは、先ほど紹介した2TR IN端子の携帯音楽プレーヤーなどのボリューム調整が可能。この入力にはオーディオI/O機能は働かないため、DAWに取り込むことはできないのですが、音源のちょっとした確認など日ごろの作業で大いに役立つでしょう。その隣にはマイク/ライン/Hi-Z入力のゲイン・ノブが2個ずつあります。この2つの入力それぞれにHi-ZボタンとPADボタンが付いており、さらに+48Vファンタム電源も用意。音作りに関しても後述するDSPでばっちり行えるので何の問題もないでしょう。その下にはヘッドフォン・ボリューム1/2があります。これがまた優れもので、ヘッドフォン2の出力は付属アプリケーションのDSP Mix FXUR28Mでミックス・セット(後述)を変更できるため、ヘッドフォン2は演奏者用にしてクリック大きめのバランスで聴いてもらうといったアサインが可能なのです。最後に、中央にSOURCE SELECTスイッチがありますが、これに関してはDSP Mix FX UR28Mと付属のDAWソフト=Cubase 6 AIを立ち上げて説明しましょう。

付属アプリでDSPエフェクトの設定や
任意のミックス・セット作成が可能


DSP Mix FX UR28M(画面①)は、DAWとUR28Mの間に入る専用アプリケーションです。MIX1〜3の3系統のモニター・ミックス・セットを持ち、DSPエフェクトとしてリバーブのRev-X(画面②)が1系統と、コンプ/EQを備えるChannel Strip(画面③)が4ch分かけられるようになっています。例えばMIX1はマイク入力の音量を上げてRev-Xリバーブをかけたモニター・ミックスを、MIX2ではマイク入力の音量を下げたミックスといった具合に、3系統のモニター・ミックス・セットを切り替えて使うことができます。

▼画面① UR28MとDAWソフトの間に入る専用ソフト、DSP Mix FX UR28M。各入力やDAWからの出力を任意のバランスにした3つのミックス設定が作れるほか、DSPエフェクトとして1系統のRev-Xと入力4ch分のChannel Stripがかけられる。とりわけモニター・ミックス作りに効果を発揮



▼画面② Rev-Xはホール/ルーム/プレートの3タイプを用意したリバーブ。YAMAHAが開発したアルゴリズムを使用している



▼画面③ Channel StripはコンプとEQ設定ができるチャンネル・ストリップ。プロのエンジニアによる設定も用意され、中央のノブでセレクトすることができる


ここで先ほどのSOURCE SELECTスイッチの登場。このボタンでMIX1〜3のどのミックス・セットを聴くかを選択できるのです。ボーカル録音中はダイレクト・モニタリング用のバランスにしたMIX1で作業をして、録音後のプレイバックではマイク入力を無効にしたMIX2にしてしっかり曲をチェックするという使い方ができるのです。ちなみにCubase 6シリーズを使用すると、DSP Mix FX UR28Mの機能は自動的にCubase内に組み込まれ、DSP Mix FX UR28M自体はOFFになります。そしてCubaseのミキサー画面やチャンネルの設定画面に"入力ハードウェア"モジュールが表示されるようになるので、ここでダイレクト・モニターやChannel Stripを使った音作り、Rev-Xへの送りなどを設定できます。

有機的で筋肉質な再生サウンド
マイクプリもまとまり感のある音質


音質の評価に移りましょう。同じ音楽ソースをUR28MとAVID 192 I/Oで取り込み、44.1kHzと96kHzで比較します。まずUR28Mの再生音質ですが、聴いてすぐに感じたのは以前レビューさせていただいたSTEINBERG CIシリーズと同傾向だということ。真空管とトランジスターの中間というか、微妙なアナログ感の色付けがあり、良いまとまり感を持っています。あえて192 I/Oをとんがった冷たい音とするならば、UR28Mは有機的でいわば筋肉質な音と評したいです。続いて録音の音質評価ですが、UR28Mのマイクプリはつやがあってヌケがあり、アタックをつぶさずしっかりとらえる素晴らしいものでした。ギターのHi-Z時においてもとても優秀です。ライン入力をあるがままに録音する192 I/Oに比べると、ある意味マイクプリ段階でエンジニアがひと手間加えた感じの音......つまりまとまり感があってミックスで使いやすく、アマチュアの録音をちょっとお手伝いしてくれるような印象を受けました。96kHzにしてみると録音/再生がさらに良い感じになります。外付けの電源がしっかりしているためか、96kHzの名に恥じない低域の張りや高域の伸びを体験することができました。DSPエフェクトの音質も触れておきましょう。Rev-Xリバーブの音質は、とてもこのクラスの付属プラグインとは思えない素晴らしい出来でした。密度があって、伸びも良く、このまま本番のミックスで使えると思います。Channel Stripに関しては、コンプは設定が細かくできる本格的なものですし、3バンドのEQも素直な効きが特長。さらにすごいのは画面中央にSweet Spot Morphingという大きなノブがあり、エフェクトの知識が無くてもこのノブを回すことでプロ・エンジニアによる設定を再現してくれ、自分好みのサウンドに持っていけること。これらのエフェクトはかけ録りも可能なので、録音時は常にONにして薄くかけておくのもいいでしょう。また、この両エフェクトはネイティブ版も同梱されており、VST3対応DAW上でプラグインとして使用することが可能となっています。


スピーカーを切り替えながらミックスするのはエンジニアの基本中の基本。それを実現したUR28MはオーディオI/Oの正しい進化ではないかと思います。Cubaseで使用したときの便利さは格別ですが、ABLETON Liveなどで試したときも何の問題無かったことを追記しておきます。さらに今回は実験できませんでしたが、UR28Mの6つのアウトを利用して、5.1chのサラウンド・ミックスも可能になるでしょう。

▼リア・パネルの接続端子は左から2tr入力(ステレオ・ミニ)、USB2.0、S/P DIF入出力(コアキシャル)、ヘッドフォン×2(ステレオ・フォーン)、ライン出力×6(TRSフォーン)、ライン入力×2(TRSフォーン)、マイク/ライン入力×2(XLR&TRSフォーン・コンボ)が並ぶ




サウンド&レコーディング・マガジン 2011年12月号より)
STEINBERG
UR28M
オープン・プライス (市場予想価格/34,800円前後)
▪外形寸法/291(W)×59(H)×164(D)mm▪重量/1.4kg

▪Mac/Mac OS X 10.5.8/10.6.3(32/64ビット・カーネル)/10.7(32/64ビット・カーネル)、INTEL製プロセッサー(Core Duo以上を推奨)、1GB以上のRAM、CD-ROMドライブ、USB2.0端子、Core Audio対応DAWアプリケーション、インターネット環境(アクティベート用)▪Windows/Windows XP(SP3)/Vista(SP2、32/64ビット)/7(32/64ビット)、INTEL Pentium/AMD Athlon製プロセッサー2GHz以上(デュアル・コア推奨)、1GB以上のRAM(Windows 7/64ビットでは2GB以上)、CD-ROMドライブ、USB2.0端子、ASIOまたはWDM対応DAWアプリケーション、インターネット環境(アクティベート用)