ハイパワーかつ安全な保護回路を備えたPA用パワード・スピーカー

YAMAHASR112
YAMAHAから軽量/高出力/低消費電力のPA用パワード・スピーカー、DSRシリーズが発売された。ラインナップは12インチのシングル・ウーファーを搭載したバイアンプ設計の2ウェイ・モデルDSR112、同様の設計で15インチ・ウーファーのDSR115(152,250円/1本)、15インチのダブル・ウーファー搭載のDSR215(173,250円/1本)、そして18インチのサブウーファーDSR118W(126,000円/1本)と手堅い構成。今回はシリーズ中、最小のDSR112をチェックしよう。

1,300Wを誇る大出力アンプを装備
安定動作を保証するPFC搭載のスイッチ


まずDSRシリーズの特徴を簡潔に説明すると、各製品に適したプロセッシングを行うDSPの搭載。人間の聴感特性に合わせ、小音量になればなるほど低域から高域までを増強し、バランスを保つD-CONTOURの装備。過大入力時にアンプやドライバーなどすべてのセクションを保護するリミッター機能。スピーカーに直接マイクも接続できる入力端子。そして何よりDSR112のサイズ。この重量のキャビネットにどのようにして大出力のアンプを組み込めたのだろうと思いスペックを見ると"1,300W(LF:850W/HF:40W)クラスDの軽量ハイパワー・アンプを搭載"とある。そして電源部は電源供給の厳しいところでも安定した動作を保証するPFC搭載のスイッチング・タイプを採用している。


このパワー・アンプ回路の等級(クラス)は音質を示すものではなく、回路設計上の電源の利用効率などの違いで分けられている。例えばクラスDの場合、ピーク・パワーに対して連続して取り出せる出力は、一般的なABクラスのアンプに対して小さくなる。ABクラスが連続400W/瞬間800W、D級連続100W/瞬間800Wのようなことになる(測定条件により数値は変動する)。


本機の電源効率は確かに良く、スペック通り実測112〜114dBの連続最大音圧時でさえ、ほぼ1A、すなわち100Wしか消費しない! 一般家庭のコンセントで14〜15台フルで鳴らせる計算だ。ストリート・ライブなどでよく見る小型コージェネレーション(500W/10kgぐらいの小型発電気)で、4台ひずみ無しで鳴らせる。これは実測してみて少々驚いた。


スピーカー部分は、オーソドックスなコーン型ウーファー+バスレフ・ボックス+ホーン・ツィーター。しかし滑らかな低域部と高域部のつながり、90°×60°の扱いやすい指向性を備えている。特につながりの良さは、アンプ部に仕込まれた高域振動板とウーファーの位相差を合わせるディレイ(ウーファーを遅らせてツィーターの振動板と発音部の距離を合わせる)、専用化したEQ回路と相まって、低域は60Hzくらいまではフラットに出るし、中高域は誇張したような音も無くレコーディング用のモニターとしても使えるだろう。また、クロスオーバー周波数が3モデルとも1.7kHzと共通なのでシステム的な運用も楽になる。なおかつ本機は、重心安定が非常に良いのでウェッジ・モニターとしても活用できそうだ。


リミッターがスピーカーの破損を防ぐ
システム・アップしやすい利点が豊富


今回、米国設計の同タイプの製品と比較したのだが、本機の方がより日本語で歌った曲に適したサウンドだと感じた。広く一般的に扱いやすい音色を持ったシステムに仕上げられている。先述の1.7kHzのクロスオーバー周波数は、低域と高域がブーストされリズム音が強く出てくる。


リミッターは音量を制御するというより、スピーカー破損の危険があると判断されたとき、一時的に音量を下げてくれる。これは本機に装備されたDSPによる保護回路によるものだ。下げ具合が3dBを超えると、フロントの白いLEDが点灯し、オペレーター側に知らせてくれる。カタログでは134dB@1m(ピーク)とあるが、リミッター機能が動作するため、連続して出せる音圧は112〜114dB@1mほど。ただこれは1kHzはおろか、40〜100Hzという低域を連続で入れても、リミッターが効き始めるまでは出力される。スペックでの最大音圧134dBは、打楽器などのピークはリミッターに引っ掛からず出せる音量ということだろう。


マイク入力にライン・レベルを入れて、わざとひずませてテストしてみたが、電源は100Wしか消費されなかった。112dBに達するまでは、音もそれほど荒れない様子。また、アンプのプロテクターは積算電力を管理しているという高度なもので、万が一の際はアンプ部をシャット・ダウンすることもあるようだ。本機の場合、よほど貧弱な電源でない限り安心だと思う。


ただし、1,300W出力のスピーカーさえ組めば十分だと思う人は、システム・プランに注意が必要だ。MARSHALLのアンプひとつで120dBを超えるのだから。本機は増設が容易なので、バンドもののPAをやる場合はDSR115/215を複数台使用することをお勧めしたい。消費電力も従来の半分で賄え、システム・アップも無理なく行える柔軟な拡張性も魅力のシリーズだ。


▼リア・パネル。左側上からINPUT端子(XLR&TRSフォーン)、THRU端子(XLR)、中央上からPEAKインジケーター、LEVELコントロール、MIC/LINEスイッチ、右側上からLIMIT、PROTECTION、POWERの各インジケーター、FRONT LEDDISABLEスイッチ、HPFスイッチ、D-CONTOURスイッチ




サウンド&レコーディング・マガジン 2011年10月号より)


撮影/川村容一


YAMAHA
SR112
141,750円(1本)
▪周波数特性/55Hz〜20kHz(ー10dB)▪最大音圧/134dB SPL▪クロスオーバー周波数/1.7kHz▪外形寸法/370(W)×638(H)×368(D)mm▪重量/21.2kg(1本)