優れたコスト・パフォーマンスと汎用性を兼ね備えたダイナミック・マイク

ICOND1/D2
最近、マイクの新製品はダイナミックよりも、コンデンサー・タイプを目にすることの方が多いように感じます。ワイド・レンジ録音が当たり前になった現在、初めからコンデンサー・マイクを導入するのが普通なのかもしれません。しかし、ダイナミック・マイクはその良さを知るほどに使いやすくなるという魅力があります。ということで、今回はダイナミック・マイクのレビューです。最近モニター・スピーカーでも話題のICONから、2種類のマイクが発売されました。お手ごろな価格帯のモデルですが、その実力はいかがなものか、チェックしてみましょう。

低価格ながらにタフな作り
D1は多用途向けでD2はボーカル向け


まずは2機種の共通点から。どちらのマイクもネオジム磁性体を採用し、高出力とダイナミック・レンジの広さを確保しています。同じダイナミック・マイクのSHURE SM58と比べても出力は大きいので、ノイズ面も含めてマイクプリに優しい特性ですね。外面の作りもしっかりとしていて、少々のことでは壊れなさそうです。指向性はいずれもハイパー・カーディオイドですが、比べてみると若干D2の方が指向が広い気がします。これは多分、D2がよりボーカル向けを意識したモデルであることも影響しているでしょう。ライブではハウリングを抑えつつも、指向性が少し広いマイクは扱いやすいものです。またどちらにも近年にしては珍しくON/OFFスイッチが本体に付いているので、重宝する人もいるでしょう。スイッチには重みがあり、触れただけでON/OFFが動くというトラブルもなさそうです。


各マイクの特徴ですが、D1はグリル部分に凸凹があり、テーブルに置いても転がりにくい形状になっています。いずれも軽量ダイキャスト外装ですが、D2は表面が加工されていて、手触りが良くなっています。重量もD2の方が若干軽く、ハンドリング・ノイズもサスペンション・システムを内蔵するD2の方が抑えられています。ただし、スタンドに付けるマイク・ホルダーは付属しないので注意してください。


低域〜中低域がふくよかで
中域〜高域はナチュラルな特性


肝心の音に関してですが、ざっと声で試したところ、両者に共通して音がふくよかで太いという印象でした。以前同社のスピーカーを聴いたときにも似た印象を受けたので、ある種のメーカー・キャラクターなのかもしれません。変に"ギスギス"した部分がない感じです。太いと言っても重低音が出過ぎるわけではなく、ボンボンした低域をうまく抑えつつ、ふくよかさを感じると言った具合です。両者に多少の違いはあるものの、大まかな印象は同じです。


次に各マイクの特性について。まずD1の方ですが、声でチェックした感じはやはり低域~中低域がとてもふくよかで、中域~高域はナチュラルな印象です。SHURE SM58やSM57と比べても太く、加えて中高域に全く癖がないので、言い換えると少しこもって聴こえる印象です。楽器で試してみると、ディストーション・ギターだともう一癖欲しいところでしたが、クリーン・トーンでは痛いところが抑えられ、加えてふくよかさがあるので、変にペキペキした音にならない使い方ができました。ドラムで使うとこのふくよかさが影響してか、鳴りを拾い過ぎる感じがありましたが、これはマイキングの距離を離したり、低域をEQすることで問題を解消できそうです。


D2は低域がふくよかな特性をふまえて、女性ボーカルで試してみると、存在感のある声になりました。とは言え、D1よりもD2の方が中低域のふくよかさが若干抑えられている分、中高域に張り出しがあるので、男女を問わず一歩前に出る感じにくっきりと聴こえます。この辺りには声をより良く拾おうとするメーカーの意図を感じることができました。スピーチなどで声が細くなってしまい、聴き取りづらいということもなさそうです。高域に関してはナチュラルな印象で、SM58と比較しても中域の癖はこちらの方が少ないので、その辺が気になる方には良いかもしれません。試しにアコースティック・ギターにコンデンサー・マイクと2本を立てて混ぜてみたのですが、D2の低域をカットして混ぜると、癖のないダイナミック・マイクの良い部分を混ぜることができました。使い方次第ではいろんな用途にもマッチしそうですね。これらの点を踏まえると、D2はSM58の代わりとして使っても違和感のない音作りができると思います。なおかつ高域の抜けと、ふくよかさを出した感じがある、というのが、D2の特性を伝えるには分かりやすいかと思います。とは言え、両者共どちらかと言えば声に特化した特性なので、用途的にはそれを踏まえて考えると良いでしょう。


 


いずれも低価格帯のマイクなので、導入を考えている方も多いと思います。両者とも中低域のふくよかさがあるので、その辺をうまくコントロールすれば、より本機の特性を生かすことができるでしょう。高域を中心とした音作りのマイクが多い現在、太さで勝負する本機は、新たなキャラクターになるかもしれません。



サウンド&レコーディング・マガジン 2011年10月号より)


撮影/川村容一


ICON
D1/D2
D1/5,040円 D2/7,140円
●D1▪形式/ダイナミック型▪指向性/ハイパー・カーディオイド▪周波数特性/50Hz〜14kHz▪入力感度/−70dB(±3dB)▪外形寸法/51(φ)×190mm▪重量/323g●D2▪形式/ダイナミック型▪指向性/ハイパー・カーディオイド▪周波数特性/50Hz〜14kHz▪入力感度/−69dB(±3dB)▪外形寸法/50(φ)×199.5mm▪重量/305g