
MS/XYマイクの組み合わせにより
豊富な録音シーンに対応した設計
外観はH2のイメージそのままに、ぱっと見るとコンデンサー・マイクのような感じだが、H2の本体がシルバーだったのに対し、H2 Nextはブラックなのでより高級感がある。ディスプレイが下側になっているのが、H2よりマイクっぽいイメージだと感じさせる。このH2 Nextの主な特徴としては、ステレオ幅を自在にコントロールできるMSマイク、立体的なステレオ感が得られるXYマイク、360°サラウンド・レコーディングに対応、最高24ビット/96kHzのリニアPCMレコーディング、パソコンに直接録音できるUSBマイク機能、波形編集&マスタリング・ソフトSTEINBERG WaveLab LE 7の付属などが挙げられる。
また、H2 Nextの最大のポイントは多彩な録音モードを備えていること。4つのマイクを搭載し、モードを切り替えることによってサラウンドを含むさまざまな音場を録音することができる。本機を真上から見ると、録音モードを切り替えるダイアル式のロータリー・スイッチが見える(写真①)。ここを回して4つの録音モードを切り替えられるのだが、ディスプレイ上のメニューで切り替えるのではないため直感的で操作がしやすい。録音モードはそれぞれMSとXYをミックスする2trモードとMSとXYを個別のステレオ・ファイルとして記録する4trモードを用意している。では、それぞれの録音モードを見ていこう。
▼写真① 本体上部には録音モードを切り替えるためのダイアル式スイッチ。4つの録音モードから選択できる
●MSモード/このモードは、リア・パネル側にマイクがセットされている。MSマイク・モードは、前方の音を拾う単一指向性のMidマイクと、左右の音を拾う双指向性のSideマイクを組み合わせたもので、Midマイクにより、定位のくっきりした録音が可能だ。Sideマイクは、ステレオ幅をコントロールすることもでき、30°か150°の角度調整が可能。実際はSideマイクのレベルを調節しているようだが、ライブ会場の録音などには最適のモードだ。またサイド・マイクを切ることによって、モノラル・マイクにすることもできる。さらにSideマイクをMS-RAWモードで録音することもでき、このモードを選択すると後からSideマイクのレベルを調節することも可能だ。あまり録音の試行錯誤などができないシチュエーションなどでは重宝するだろう。
●XYモード/いわゆるステレオ録音。90°に固定されたXYマイクにより、立体感のある録音が可能。H2 Nextではディスプレイ側にマイクがセットしてある。オールマイティに使えるモードだ。マイクの置き場所に困るリハーサル・スタジオなどに最適だろう。
●サラウンド・モード(2tr&4tr)/このモードには2種類あり、どちらもMSマイク、XYマイクを両方とも使用する。2trはすべてのマイクをミックスして2trにしたもの。4trはMSとXYが独立して記録でき、後からミックス・バランスを変えることが可能だ。
この4つのモード時にどのマイクが使われているか、ということは本体上部のLEDを見ればすぐに確認できるので非常に分かりやすい。シチュエーションによって、この4つの録音モードを簡単に切り替えて使うことができるのが本機のアドバンテージだ。
操作性に優れたインターフェース
録音作業に役立つ機能が満載
本機を触ってみて、まず感じるのがその優れたインターフェース。特に録音に関しては、作業する際のストレスをなるべく感じさせず、素早く操作できるように録音ボタンだけが別に大きくセットされている。実際リハーサル・スタジオでは、ともかく録音だけは間違いなくやりたいというシチュエーションが多いので好感が持てる。またサイド・パネル(右)に装備されたマイクの入力レベルを操作するダイアルも大きくて扱いやすい。その上のジョグレバーは、エディットや再生時など、本機を片手に持って作業する際に、かなり素早く作業することが可能だ。サイド・パネル左側には、外部入力端子(ステレオ・ミニ)なども備えている(写真②③)。
▼写真② 右側のサイド・パネル。上からMENUキー、ジョグレバー、MIC GAINボリューム、電源スイッチ。操作性にこだわったレイアウトになっている
▼写真③ 左側のサイド・パネル。上から外部入力端子(ステレオ・ミニ)、ボリューム・キー、リモート端子、ヘッドフォン端子(ステレオ・ミニ)、USB端子
録音フォーマットは、WAV(44.1/48/96kHz@16/24ビット)とMP3(44.1kHz@48~320kbps)に対応。記録メディアはSDカードだ。そのほか、2秒前にさかのぼって録音をスタートできるプリレコード機能、音声入力をトリガーにして録音を開始するオート・レコードやローカット機能なども搭載する。さらにコンプ系もかなり充実している。音楽用の機材ならではだが、コンプは一般的なプリセットのほかに、ボーカル、ドラムといったものまで用意されている。リミッターも同様にコンサート、スタジオなどが装備されており、分かりやすい。コンプ/リミッターとは別に入力ゲインを自動調節するオート・ゲインという機能も用意されており、入力レベルがかなり流動的な音楽関係の録音環境に注力していると分かる。
編集は基本的にはパソコンに取り込んでの作業になるが、H2 Nextでは本体だけでもノーマライズ、録音データを分割するディバイドなどの作業が可能。またWAVファイルをMP3にエンコードすることもできる。再生速度は、50%(スロー)〜150%(早送り)可変。楽器のフレーズを本機に取り込み、再生スピードを落として耳コピするのにも便利だろうし、チューナーやメトロノーム機能も搭載しているので、楽器の練習にも重宝しそうだ。また音量に限界はあるがスピーカーも内蔵している。ちょっとした確認に便利だろう。
本機はH2同様、USBオーディオ・インターフェース機能も搭載するため、H2 NextをUSBでパソコンにつなぐことにより、そのままUSBマイクとして機能する(写真④)。Macなら本機をUSBケーブルで接続するだけでオーディオ・デバイスとして認識する。Windowsの場合はASIOドライバーが必要となるが、ZOOMのWebサイトからダウンロードすることができる。
▼写真④ USBオーディオ・インターフェース機能を搭載しているため、コンピューターに直接音声を入力するUSBマイクとしても利用することが可能だ
また、ユニークだったのが外部入力2chと内蔵マイクの信号を同時に録音できる機能で、ファイルも別々に保存される。例えばスタジオなどでミキサーを使用し、オケをまとめてH2 Nextに入力して、そのままボーカルの声を録音することもできる。また逆にライブなどでは、ミキサーからの信号をH2 Nextに入力して、会場のアンビエンスも同時にレコーダーとして録音するなど、アイディア次第でいろいろな使い方ができるだろう。
MSマイクで中央を狙い録音すると威力大
それぞれの定位が実にくっきりと聴こえる
実機を手にしてすぐに、スタジオでのセッション・ライブの機会があったので、早速持ち込んでいろいろ設定を変えて録音してみた。場所はもともとレコーディング・スタジオだったところを少し改造してお客さんも入れるようにしたちょっと変わった場所で、通常のライブ・ハウスなどより音はすごくデッドで個人的にはとても演奏しやすいところ。まずマイクをMSモードにして、客席(といっても演奏者からかなり近い)に置いて録音。コンプやリミッターなどは一切使わずに録音してみたが、かなりいい感じに録れていた。ただディスプレイに表示された録音レベルのイメージより少し過大入力気味だったので、若干レベルを下げたところ聴きやすくなった。
また、Midマイクの狙う位置の楽器が大きく録れてしまう傾向があるので、マイク設定をXYに変えてみると実に臨場感のある音、なおかつバランスも良い感じで録音できた。やはりライブといっても小さいところや、比較的デッドな場所ではXYマイクの方が良いかも、という印象だ。
その後、今度は逆にかなりライブな場所で、なおかつ爆音系のライブがあったのでそこでも録音してみた。客席中央のPAブース付近から録ってみたのだが結論から言うと、そこではMSマイクモードとリミッターがかなり威力を発揮してくれた。PAを通した音を録るならMSマイクにして、きちんと中央を狙えば圧倒的に良い感じで録音できる。それぞれの定位が実にくっきりと聴こえた。そして今度は客席のかなり後ろの方へ行き、サラウンド・モード(4tr)にして録音したのだが、これがまた効果絶大。時間が無くてその後パソコンでの処理はしていないが、こういったライブは本機が一番では?というほどの印象だ。
本機には録音後の編集作業に活躍するSTEINBERG WaveLab LE 7が付属する。これはオーディオ・エディット/マスタリング・ソフトで、VSTプラグインに対応し、2trのオーディオ・ファイルのさまざまな編集が可能になる。
やはり録音モードを試行錯誤して楽しむのが最も楽しい。アイディア次第でいろいろなことができそうだ。そしてレコーダーとしての基本である音や臨場感は素晴らしいので、この辺りに重点を置いたユーザーには特にお薦めしたい。またルックスもかなりかっこいいので、どこに置いても目立つだろう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年10月号より)