ライブ録音に最適なREAC対応の48trハード・ディスク・レコーダー

ROLANDR-1000
世間ではアナログ放送が終了し、デジタル放送へ完全移行になった昨今、"デジタルの素晴らしさ" を痛感している人も多いのではないでしょうか? かくいう著者も最近テレビをデジタル放送に対応したものにしたわけで、画面の奇麗さにショックを受けています(笑)。しかし録音や再生などの"メディア"に関しては、皆さんかなり早いタイミングでデジタル化していませんでしたか? CD、DVDをはじめ、MD、MP3プレーヤー、ハード・ディスク・レコーダーなど挙げればキリがありません。今回紹介するROLAND R-1000は、さらに現場において革新的になるであろう"録音機"。早速チェックしてみましょう。

REAC機器とのセットアップも簡単
映像系インターフェースも充実


PAの現場で、マルチ録音(2ミックスではなく、各チャンネルをそれぞれ録音)することを考えてください。ライブCDにする、映像を編集してDVD化するなど、その素材を活用することは最近のパソコンを使えば簡単なことです。では現場での録音も簡単なのか? いえ、実際はパソコンと多チャンネルのオーディオ・インターフェースを持ち込み、マイクのラインを細かく頭分けしてレベルを取って......と、幾ら昔に比べ楽になったとはいえ、手間はかかってしまいます。しかも全チャンネル分となるとかなりの数のインターフェースが必要になり、セットアップも大変です。


しかし、そこに登場したのがROLANDのV-Mixingシステム。これは同社のデジタルPAシステムで、一例を挙げるとステージのI/OユニットS-1608とデジタル・コンソールのM-480を独自開発したデジタル伝送規格REACでつなぐだけ。接続もLANケーブル1本で済みますし、同社のCAKEWALK Sonarなどの対応DAWソフトがインストールされたパソコンにさらにLANケーブル1本つなぐだけで、40trマルチ録音も可能になる優れもの。今まで著者もこのシステムで幾多のライブ録音をしてきましたが、トラブルどころかクオリティの高い仕事をしてくれました。ただしある程度ハイスペックなパソコンを用意したり、録音の設定をしたりと、慣れるまで若干の手間はかかっていました。そんな煩わしさを無くし"つなげてポンっ"を可能にしたのが、このR-1000というリムーバブル・ハード・ディスクを採用したレコーダーなのです。


R-1000の仕様をあらためて説明すると、3Uのラック型でサイズは482(W)×133(H)×384(D)mm、重量は7.3kgとなっています。本機のフロント中央には320×240ドットのTFTカラー・タッチ・ディスプレイを搭載。パネル左側は主に全トラックを常に監視可能なLEDと、検聴用に用意されたヘッドフォン・アウトがあります。一方、右側には現場での細かい操作を可能にする大型のジョグ・ダイアル、またメニューやプレイなどの操作系ボタンが配置されています。リア・パネルにはREAC用のポートが4系統に、BNCタイプのワード・クロック入出力や映像などの同期に使うSMPTE入力、MIDI入出力、スイッチャー系のGPI端子、さらにはXLRタイプ(バランス)のアナログ・モニター出力(モノラル2系統)を装備。無償配布予定の専用コントロール・ソフト(Windows/Mac版)が用意されるため、フロント・パネルのUSB端子を経由して、パソコンからのコントロールも可能です。また、映像系にも強いROLANDですから、上記とは別に外部ビデオ用の信号からもシンク可能なVIDEO SYNCも標準装備とインターフェース群も充実しています。


USB接続可能なハード・ディスク
パソコンに直で接続できるスムーズさ


さてR-1000のスペックですが、最大録音トラック数は3つのサンプリング周波数によって異なり、24ビット/44.1、48kHz時が48tr、24ビット/96kHz時は24trとなっています。データ・フォーマットはBWF(WAV)です。ハード・ディスクの容量が500GBの場合、48t(r 44.1、48kHz時)で約20時間もの録音を実現。ハード・ディスク・ドライブ・ユニットのHDD-500G(52,500円)はオプションとなります。そのハード・ディスク・ドライブ・ユニットの接続端子にはUSBを採用しているため、抜き出してパソコンにダイレクト接続することで、直ちに編集作業が開始できるのも特筆すべき点です(写真①)。従来の録音機からのコピー作業の手間と時間が不要となり、大幅な作業時間の改善が実現されます。またフロント・パネルにも外部のデータのやり取りやパソコンから本機の設定が行えるようUSB端子を装備しています。さらにリア・パネルにある4系統のREACポートによりヘッド・アンプ搭載のDigital Snakeと組み合わせれば、多地点からの分散入力にも対応できる上、ステージ側で頭分けした音声をそのままダイレクトに収録可能。


▼写真① 写真下に見えるのが本体から抜き出したリムーバブル・ハード・ディスク(HDD-500G)。本体内部との接続部分はUSB端子になっている



そして最近注目されているMADI信号によるデジタル伝送もMADI信号をREAC信号に変換するROLAND S-MADIを使用すれば簡単に行えるため、他社のシステムとの親和性が高いのも本機の特徴になっています。ですからS-MADIを介して、MADIを装備したコンソールと本機をフル・デジタルで接続。さらにS-MADIを2台使用すれば、最大48trの収録にも対応します。Digital Snake、V-Mixingシステムを採用していない現場でも、本機は皆さんの強い味方になるでしょう。これほどまでにステージ現場、そしてレコーディングに特化したレコーダーがあったでしょうか?


48trマルチトラック・プレーヤーにもなる
プリミシキングやサウンド・チェックに重宝


では続いて現場での使用感を確認してみたいと思います。今回は筆者が担当しているニコニコ動画系アーティスト、赤飯の全国11カ所で行われたワンマン・ツアーのうちの一本、新宿BLAZEの現場にステージ・ボックスのROLAND S-4000S-3208とデジタル・ミキサーのROLAND M-480、そして本機を持ち込みチェックしました。接続はS-4000S-3208からのREAC信号をスプリット(R-1000を信号がスルーしている)させたものをレコーディングする状態が一番使いやすいと思われ、V-Mixerに入力されるみずみずしい音声がリアルな状態で最大48trにレコーディングができます。なぜこの方法が使いやすいのか?実はR-1000のすごいところは、本機をREACの48trのマルチトラック・プレーヤーとしても認識できるので、本機のオーディオ・アウトをそのままミキサーで扱うことができるのです! ということは、今回のシステムの場合ですと、録った音をそのままデジタル・ミキサーのM-480に戻し、次の日の公演前のプリミキシングやサウンド・チェック、後日そのままミックス・ダウンなどにも使用するといったことが可能になります(図①)。


▼図① R-1000をマルチトラック・プレーヤーとして使用する際の接続例。REACの双方向での音声通信を生かし、左側のステージ・ユニットとデジタル・ミキサーをつなぐ2系統のREAC回線間にR-1000を接続。これにより最大48trのサウンド・チェックや本番前のプリミキシングを行うことが可能になる



さて、ステージの用意も終わりミキサーのセッティングも整ったので、早速本機を触ってみます。まずパネル右上にあるメニュー・ボタンを押すと幾つかの項目が出てきます。その中のプロジェクトを選択しニュー・ファイルを押すとキーボード画面になり、名前を付けて次にサンプリング周波数を48kHzにして決定を押す。これだけで24ビット/48kHzのクオリティでライブ録音ができちゃうなんて今でも信じられません。画面操作もタッチ・パネルなので感覚的な操作ができて非常に楽です。細かい操作や設定も行えますが、デフォルトの設定でかなりのレベルまで追い込んだ状態になっているので、全くと言って良いほど、現場での作業がありません。録音レベルに関してもDigitalSnakeのヘッド・アンプを使用しているので、たとえ知らないうちにレベル・オーバーしていても事故はほとんどないでしょう。万が一、各チャンネルにクリップの危険がある場合には、Digital Snake側にパッドが搭載されていますし、ミキサーを通さずオーディエンス用にコンデンサー・マイクを使用する場合にもファンタム電源なども装備しているので安心です。


現場ではR-1000を録音スタンバイにした状態にし、ほったらかし(笑)でサウンド・チェック、リハーサルが始まるとかなり激しめなライブ・サウンドだったので、クリップするかなぁと何気なく本機のレベル・メーターを見たら余裕があり、かなり良い感じでメーターが振っていました。レベルも確認できたので、録音しつつオペレートに専念することができます。何も設定していないのに素晴らしいです。


高音質で収録できるデータ・フォーマット
スタンドアローンでも機能する利便性


当日のライブ会場はフロアを埋め尽くすお客さんで大盛り上がり! 実は今回レビューのため会場常設のPAブースではなく、ブース前に仮設で組ませてほしいと打診していました。しかし場所が確保できないとのことで、常設ミキサーの手前に今回のセットを組んだのですが、実にコンパクト。しかも軽量! これで従来以上のクオリティで、ノイズなどのトラブルに悩まされることも無く、簡単セットアップなら間違いなくこのシステムでしょう(写真②)。


▼写真② ライブでの使用風景。写真手前がM-480で左上に見えるのがR-1000、コンパクトかつシンプルな配線のためセッティングも容易だ



本番でも録音はもちろん無事に終了し、早速R-1000をサウンド・チェック用にし、パッチをし直しM-480でプレイバックしてみると、まるでステージ上にミュージシャンが居るかのようなリアルなサウンドに驚かされます! その理由は録音されるデータが、Broadcast WAVフォーマット(BWF)という放送用のWAVファイルで収録されるためクオリティが揺らぎません。またデータはリムーバブル・ハード・ディスクに保存されるため専用機ならではの安定動作。瞬間の音を確実にハイクオリティで収録します。


また本機はフル・システムでなくても、単体で最大48trの同時再生もでき、トラックごとに再生のオン/オフを切り替えられるので、マルチトラック・プレーヤーとしても使用できます。


 


R-1000は、何でもコンピューターで済んでしまう時代の専用機。しかも専用機なのに本機1台で他システムのMADI出力を持つデジタル・ミキサーや、CAKEWALK Sonarはもちろん、AVID Pro Tools|HDとの連携も容易に行えるうえ、収録フォーマットがWAVファイルなのでさまざまなDAWソフトで編集が可能なのも魅力的です。使用方法が多岐にわたって広がりそうな本機は、これからの録音現場の中心的立ち位置になりますね。


▼リア・パネル。パネル上左からアナログ・モニター出力(XLR)×2、GPI、RS-232C(D-Sub9ピン)、MIDI IN/OUT。パネル下左からVIDEO SYNCイン/スルー(BNC)、ワード・クロック・イン/スルー(BNC)、SMPTEイン(BNC)、REAC端子×4




サウンド&レコーディング・マガジン 2011年10月号より)


撮影/川村容一(写真①)


ROLAND
R-1000
399,000円
▪トラック数/最大48(44.1/48kHz時)、最大24(96kHz時)▪サンプリング周波数/24ビット/44.1/48/96kHz▪記録メディア/リムーバブル・ハード・ディスク、リムーバブルSSD▪録音時間/約20時間@48tr、44.1/48kHz時(オプションの500GBハード・ディスク使用時)▪外形寸法/482(W)×133(H)×384(D)mm▪重量/7.3kg