2種類のマイクと最大6trの録音に対応するポータブル・レコーダー

ROLANDR-26
近年、ハンディ・レコーダーは熟成期を迎えていると言っても過言ではありません。年々、前機種をはるかに超えるスペック/小型化/コスト・パフォーマンス......その開発スピードには本当に驚かされます。例えばチューナーやメトロノーム内蔵、ダビング機能、各種エフェクトやミックス機能、サラウンド録音、動画との連動......といった具合に用途に応じた製品も多く、ユーザーの使い方の可能性を広げています。またパソコンに接続し、データの編集や整理などのDAW環境との互換性など録音後の使い方も比較的簡単にできるのも大きな利点です。そんな中、ROLANDからポータブル・レコーダーのR-26が発表されました。ROLANDと言えば、これまでR-09やR-05といったハンディ・レコーダーをリリースしてきました。それらの機種とのコンセプトや考え方の違いも今回のR-26にはあるそうなので、その辺りも踏まえて見ていきましょう。

単一指向と無指向2種類のマイクを内蔵
最適な入力値を表示するAUTO-SENS


まずはルックスから。外形寸法が82(W)×41(H)×180(D)mmとなっており、前述のR-09やR-05と比べるとかなり大きめです。ただし、手に取った感じは想像よりも軽い(電池無しで370g)ので、持ち運びやすそうです。内蔵マイクは、角張った金属製のフレームに守られて、黒いメッシュでハウジングされています。カラーリングは落ち着いたつや消しの黒で、フロント・パネルの半分近くを占める大きなタッチ・パネル・ディスプレイが印象的。その下には大型の2つのインプット・ボリューム、下部には、録音/再生などの各操作子が配置されていて、非常に分かりやすい作りになっています。サイド・パネル左側には電源スイッチ、外部電源端子、SDカード・スロットとUSB端子を用意。右側にはヘッドフォン出力(ステレオ・ミニ)とそのボリューム、外部マイク入力(ステレオ・ミニ)、プレビュー・モニターなどが使いやすく配置されています(写真①②)。また、リア・パネルにはねじ穴(1/4インチ)があるので、カメラなどの三脚やスタンドに取り付けることができます。


▼写真① サイド・パネル(左)。左よりSDカード・スロット、USB端子、電源/HOLDスイッチ、DC IN端子を備える



▼写真② サイド・パネル(右)。左よりボリューム、ヘッドフォン端子(ステレオ・ミニ)、プレビュー・モニター、プラグイン・マイク端子(ステレオ・ミニ)



それでは、R-26の特徴と機能について説明していきましょう。まず大きな特徴としては、単一指向性(XY)と無指向性(OMNI)のマイクがそれぞれステレオで2つ、合計4つのマイクが内蔵されていることです(写真③)。そして、それぞれのマイクのミックス・バランスをソロ、コンサート、フィールドの3種類の録音シーンから選ぶことができます。また無指向/単一指向だけのモードとマニュアルで2つの指向性の音量バランスを独自にコントロールできるモードがあるので、録音シーンに合わせて6種類の中から選択することができるのです。また、外部マイクの接続に対応するXLR(TRSフォーンも可)端子と、コンデンサー・マイク用にファンタム電源も装備しています(写真④)。このインプットでは、通常の録音以外にMS方式の録音にも対応します。このため単一指向性と双指向性2本の組み合わせでのステレオ録音においても、それぞれのバランスのコントロールや左右の広がり方を本機のみで操作することができます。またXLR端子とは別に、先述したステレオ・ミニの入力端子へプラグイン・パワー方式のマイク接続も可能。各インプットはモノラル/ステレオから選んで最高6tr(3ステレオ)の同時録音が可能です。さらに内蔵マイク+外部マイク(XLR)+外部マイク(ステレオ・ミニ)と組み合わせることで多彩な録音方法を実現。これらはそれぞれ別のトラックに録音することが可能です。


▼写真③ 内蔵マイク部分。両サイドが無指向性マイク(OMNI)で、中央の上下が単一指向性マイク(XY)。堅固な金属製フレームとメッシュでハウジングされている



▼写真④ 本体ボトム部分。ファンタム電源対応の外部アナログ入力端子(XLR/フォーン・コンボ)×2



録音フォーマットは、MP3(44.1/48kHz@128/160/320kbps)、WAV(44.1/48/88.2/96kHz@16/24ビット)となります。また、MP3(128kbps)とWAV(16ビット)の同時録音も行えます。なお、MP3の再生に関しては、32~320kbpsとVBRに対応しています。


各インプットには、リミッター/ローカット(100/200/400Hz)のオン/オフ設定が可能。リハーサル時などに自動で適切な音量を解析し表示してくれるAUTO-SENSや、録音開始2秒前にさかのぼって録音できるプリレコーディング機能を搭載。さらに設定音量により録音が始まる自動録音開始機能も装備しています。こうして録音されたデータは、エディットやリネーム、コピー、別フォルダーに移動することが可能です。またMP3の各フォーマットに変換するなど、デジタルならではのうれしい機能も用意されています。


全方向から自然に収音する無指向
ステレオ感が明りょうに出る単一指向


ここからは、スタジオに持ち込んでのテスト録音。操作もマニュアル無しでほとんどのセッティングや調整ができました。アコースティック・ギターや管楽器などでのオンマイク・セッティング、ドラムやストリングス・アンサンブルでのセッティング時も思ったほど本機のサイズは気にならず、操作音なども無いので非常にスムーズです。音も低域から高域までバランス良く明るめのサウンド。2種類のマイクのキャラクターの違いは、無指向性(OMNI)は全方向からナチュラルな収音と、実際の2本のマイクの距離が短いため自然な広がり方です。逆に単一指向性(XY)は前方に対しての収音に適していて、ステレオ感は明りょうに出ます。4本のマイクは距離も近いので位相差もほとんど感じることはなく、いろいろな組み合わせが積極的にできるでしょう。


録音データの記録メディアは、大容量化と低価格化で扱いやすいSDカードに対応しています。動作に関しては外部ACアダプター(付属)のほか汎用の外部バッテリー、電池(単三×4)の3つの方式をサポート。電池駆動で10時間前後(16ビット/44.1kHz、2tr、内蔵マイク使用時)の録音が可能。外部マイクの電源供給(ファンタム、プラグイン・パワー・マイク)や録音フォーマット、トラック数などで、実際の録音時間はさらに短くなることが予想されます。ライブやコンサートで使用する場合は2〜3時間程度。リハーサルで入力レベルなどを決めるとどうしても6時間程度の駆動時間が必要になるので、4本の電池スペースが必要だったと予想されます。32GBのSDカードを使用し、フルスペック録音の24ビット/96kHz、収録トラック数6trの場合だと5時間程度の録音が行えます。これがMP3(128kbps)では何と539時間(笑)。SDカードの大容量化、低価格化は今後ますます進むと予想されるため、これからは今まで以上に録音時間とスペックの戦いになるでしょう。


本機のサイズについては、XLR入力を備えたこともこのサイズになった要因の一つだと思いますが、マイクの種類やセッティングの距離、角度などの自由度が広がったので、サイズ以上のメリットを感じます。またファンタム電源が供給できるので、ダイナミック・マイクだけではなくコンデンサー・マイクも選択肢に入れられることは大きいですね。極オンマイクのセッティングや小さな音の収録も積極的にできますから。また、このサイズになったおかげで液晶ディスプレイが大型になり、ある程度の情報が一度に見えるので操作性も良いです。


内蔵マイクと外部マイクの組み合わせで
かなり本格的なライブ録音が行える


実際の録音での使い方を考えると、本体だけでの使い方としては、24ビット/48kHz~96kHzにして、本体のマイクで無指向と単一指向の両方をバラバラに収録し、後で2つのバランスをパソコンに取り込みスピーカーでモニターしながら調節というのが現実的で使いやすいと思います。さすがに録音現場では、ヘッドフォンで2つの指向性のバランスをブレンドするのは限界があるでしょう。その場では実際に"生の音"もするので現実には大変かもしれません。何度か録音してみて好みのブレンド具合を見つける必要があります。筆者はXLRの入力を左右広めにして、オフセッティングを一緒に別トラックに録音することや、それぞれの楽器のオンマイクに、本体のマイクでワンポイント収録すると良い効果が得られそうだと感じました。


そのほか考えられるのは、オンマイクとワンポイント、それからプラグイン・パワー・マイクでオーディエンスを録音する方法。例えばデュオ(ギター2本や管楽器とピアノなど)の録音や弾き語りライブ(ボーカルとギターやピアノなど)ではかなり本格的なライブ録音ができそうですね。欲を言うとXLR端子がプラス2〜4個増えるとストリングス、管楽器のアンサンブルやドラム、バンドなどの録音と使い方がより広がるなと思いました。そしてここまでできるのだったらパソコンなどで一度ですべてのセッティングが手元で見られたりコントロールできれば......と、ついポータブル・レコーダーにあるまじき欲求が(笑)。


 


本機は、デジタルならではの高音質録音をライブやコンサート、リハーサル・スタジオ、生楽器の録音、それから音楽以外のさまざまなフィールド(自然、動物、乗り物、街など)での録音を想定して開発されているようです。R-05などと比較すると、録音時間や豊富なインプット、そしてより快適な操作性を手に入れることができました。自宅での使用はもとより、前述したように場所を選ばず積極的な使い方ができるでしょう。拡張性を含めてアイディア次第でより可能性が広がる製品だと感じました。さて、あなたならどんな使い方を?



サウンド&レコーディング・マガジン 2011年10月号より)


ROLAND
R-26
オープン・プライス (市場予想価格/44,800円前後)
▪トラック数/6(3ステレオ)▪録音フォーマット/MP3(44.1/48kHz@128/160/320kbps)、WAV(44.1/48/88.2/96kHz@16/24ビット)▪録音時間/48.9時間@16ビット/44.1kHz(32GBのメモリー・カード使用時)▪記録メディア/SDカード(SDHC規格対応)▪周波数特性/20Hz〜40kHz▪外形寸法/82(W)×41(H)×180(D)mm▪重量/370g(電池を除く)