
3オシレーター&4フィルターを搭載した
強力なバーチャル・アナログ・シンセ
Halion 4の最大のトピックは、本格的なバーチャル・アナログ・シンセを内蔵している点だろう(画面①)。メインになる3基のオシレーターは、ノコギリ波や矩形波なども滑らかで倍音がしっかりと詰まっている。またそれとは別に、サブオシレーター、ノイズ・ジェネレーター、リング・モジュレーション機能を装備し、自由にミックスして使用できる。加えてアナログ・シンセに不可欠なクロス・モジュレーションやシンク・モジュレーションも可能。本機では、これらを1オシレーターだけで行えるようになっているのがユニークで、オクターブ設定による分厚いシンク・リードや、3オシレーター・デチューンによる広がりのあるメタル・パッドも作成できる。
▼画面① 本機のバーチャル・アナログ・シンセサイザーの画面。上より3基のメイン・オシレーター、フィルター、アンプ、エンベロープのコントロール画面となる
フィルター部分も非常に強力で、フィルター・タイプを8種類装備するほか、ビンテージ・アナログ風のClassicタイプや粗いビット数によるデジタルひずみの加わるBitReductionタイプ、ファットなレゾナンスを持つWaldolfタイプなど、効き味やひずみ感の異なるフィルターの選択が可能。さらに、各タイプごとにLPFやHPFなどの種別に加えて、24dB/octや12dB/octといったスロープの違いをフィルター・シェイプとして最大24種類持ち、HPF+LPFのように2種類のフィルター・シェイプを組み合わせられるだけでなく、4種類のフィルター・シェイプ間をモーフィングすることもできる。
このようにフィルター1つをとっても、これでもかというほどの充実ぶりだが、そのほかにも、4エンベロープ、2LFOに併せて32ステップのステップ・シーケンサーも装備するため、バーチャル・アナログ・シンセとして考えても、十分に価値のある音源になっている。
多様な音声形式に対応するサンプラー
使える音源ぞろいの充実のライブラリー
もちろんサンプラー機能も充実している。その場合でも、先のバーチャル・アナログ・シンセのオシレーター部分がマルチサンプルになるだけで、強力なフィルターやエンベロープを使用できる。エディットではキー・スプリットやベロシティ・スプリットをグラフィカルかつ簡単に行えて、細かいパラメーターを設定しなくてもQuickControlで簡単に音色やエフェクトの調節が行える。
オーディオ・サンプルはWAVやAIFFなどのほか、REXファイルも扱える。また、TASCAM Giga SamplerフォーマットやAKAI Sシリーズ・フォーマット・ファイルのインポートも可能。Cubaseで使用する場合は、プロジェクト上のオーディオ・データのドラッグ&ドロップもできる。ハード・ディスク・ストリーミングにより長尺サンプルを扱えるのはもちろんだが、本機は64ビット対応プログラムなので、大容量メモリーにサンプルを展開することも可能。トラック数の多いプロジェクト中での使用でも、ハード・ディスクに負担をかけずに大容量のサンプルを扱える。
もちろん、ユーザー・サンプリングを行わなくても、豊富なプリセットが利用できる。付属ライブラリーは別売のマルチ音源Halion Sonicの12GB/1,400音色を含めた計15GB/1,600音色。サンプルはどれも芯のある音色で、ベースなど低音楽器の音圧も十分、マルチサンプルの質も良く、"使える" 音色が多いので容量以上のお得感がある。さらにバーチャル・アナログ・シンセが搭載されたことで、シンセの音色や、シンセとサンプルをレイヤーした音色も充実。サンプルやシンセを多重にレイヤーし、44種類装備する内蔵エフェクトやコンボリューション・リバーブでまとめた音色は、それだけで楽曲の世界観を決定するほどの説得力を持つ。単なるサンプラーというよりも、PCMシンセやデジタル・シンセの高級機のように、アコースティック楽器のシミュレーションから抽象的なシンセ・サウンドまでを、1台でカバーできてしまう強力なプリセットだ。
高度な演奏表現を可能にするMegaTrig
快適操作のマルチウィンドウ画面
本機はシンセやサンプラーといった音作りの機能に合わせて、それらを演奏に結び付けるための表現機能も盛りだくさんだ。
新搭載のMegaTrigは、ピアノのようにダンパー・ペダルのオン/オフでサンプルを切り替えたり、ゆったりしたストリングスで素早く弾いたときにはアタックの早いサンプルを呼び出したり、といった切り替えが簡単かつ自由に行える(画面②)。従来だと、この手の設定は非常に面倒で、なかなか一般ユーザーの手に負えるものではなかったが、MegaTrigでは、andやorで条件を並べるだけ。つまりはファイル検索のような操作で簡単に設定できてしまう。
▼画面② 演奏時のアーティキュレーションを制御するMegaTrigの画面。Note-OnやSustain、Legato、Playing Speedなどを選択していくことで、楽器音のさまざまなセッティングが行える
打ち込みのサポート機能としては、Note Expressionを搭載する。これはVST3.5規格より可能となった機能で、和音中の音に1音ずつバラバラにエクスプレッション変化が付けられたり、楽譜上のフォルテやピアノ、クレッシェンドなどの記号をそのままMIDIデータに反映できる。今のところCubase 6でしかこの機能は使用できないが、ストリングスやブラスなど、オーケストラ系の楽器の打ち込みでは絶大な威力を発揮する。ちなみに本機はスタンドアローン/VST/AudioUnitsプラグインとして使用可能だ。
一方、リアルタイム表現では、FlexPhaserを装備。これは超高機能アルペジエイター/自動フレーズ生成器とも言うべきモジュールで、押さえた鍵盤に合わせて、アルペジオやコード・カッティング、ベース・ランニング、さらにはドラム・パターンなどを自動生成してくれる。とにかくフレーズ・プリセットが豊富で、しかもサンプルと違って、コードやテンポが自由なのもいい。
ここまで触れてきた部分からも分かるように本機はとにかく高機能。サンプル編集に関しても、専用ソフト並みの波形編集機能を装備する(画面③)。スクラブしながらループ・ポイントを探り、クロスフェード・ループするといった処理も簡単に行えてしまう。
▼画面③ Sample Editorの画面。全体と拡大部分の2種類の波形表示を見ながらの操作が可能なため、クロスフェードの設定や、サンプルのスタート・ポイントの編集を容易に行うことができる
マルチティンバー数は何と64パートもあり、DAWライクなミキサーを使用してステレオやサラウンドにミックスしたり、パラアウトもできる。パンやレベルの調節はもちろんのこと、エフェクトもイコライザー、リバーブ、コンプ、ディレイ、アンプ・シミュレーターなど豊富に装備している。
こうした組み合わせや、個々の音色の読み込みや保存は、専用のブラウザーを用いて行う。音色のムードや音楽ジャンルなどのカテゴリー分類やお気に入りにマークを付ける機能で、膨大なプリセットや自作音色も能率よく管理できる。
これだけの多機能&高性能となると、パラメーターも多くなるが、本機では一新されたGUIによるスマートな操作性を実現している。さまざまなエディターやブラウザーは、ワンウィンドウ中に分割して表示できるほか、マルチウィンドウとしても展開可能。例えば波形エディターを独立したウィンドウとして開いて、ディスプレイ全体を使った緻密な作業が行えるわけだ。一方、ワンウィンドウ中に開く場合は、タブを使って表示を切り替えることも可能。例えば音色のエディットでは、マルチサンプルのキー・スプリット、シンセシスのパラメーター、MIDIコントロールなどを、タブで切り替えながら快適にエディットできる。
このようにシンセサイザーを統合することで、本機は最も現代的で強力なサンプラーへと進化した。良質のプリセットと豊富なパラメーターは、これ1台で音楽に必要なほとんどの音をカバーできてしまう。また、演奏表現に関する革新的な機能の数々も、トラック制作の強い味方になるだろう。操作性もスマートで分かりやすく、初心者でもとっつきやすい。サンプラーとしてだけでなく、音楽制作のベースになる音源として、あらゆるシチュエーションでファースト・チョイスになり得る存在だ。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年10月号より)