打ち込みからミックス・ダウンまでも行える高機能なソフト・サンプラー

FXPANSIONGeist
年々暑さが厳しくなっているような気がしております。夏はやはりコンピューターの冷却に細心の注意を払いつつも、暑さで自分がやられないように、節電も考慮しつつ作業しています。 さて、今回紹介する製品は、生ドラム音源ソフトのBFD/BFD2でもおなじみのFXPANSIONのソフトウェア・サンプラーGeistです。ちなみに読み方は"ガイスト"で、ドイツ語で"魂、精神"という意味。同社のグルーブ生成および波形エディットの名ソフト、Guruの進化版で、サンプリングから最終的にミックス・ダウンまで行えるトラック制作ツールです。筆者自身、音源制作時には同社のBFD2を愛用しているので、今回は単体でどのぐらい使えるものか、試していきたいと思っています。

ハード・サンプラーの使い勝手を踏襲した
直感で使える優れたインターフェース


主な仕様についてですが、とにかく1台で作曲のすべてを完結できるくらいの機能が盛りだくさんなため、主立った点をピックアップして紹介しましょう。


まずは入力音のサンプリング、出力音のリサンプリングが可能で、既存のオーディオ・ファイルの読み込みや再生/編集ができます。波形編集が容易にできるエディット画面がGUIの半分を占めるので、細かいスタート/エンド・ポイントの調整作業にも対応します。画面は使用状況によりシーケンスのプログラム画面や、ミックス時のエフェクト表示画面にも切り替えられます。オーディオ・ループをスライスした後にスマート・スライス&オート・マッピング機能を使うと、画面下の16個のパッドに自動的に割り当てられます。


各パッドに多くの機能を盛り込めるパッド・エディターのほか、ステップ・シーケンサーではノート情報、ベロシティ、パンニングをはじめピッチ・フィルター、カットオフ、レゾナンス、さらに多数のエフェクトのプログラミングも可能。24種類のパターンを記録でき、各パターンはMIDI鍵盤でトリガーすることもできます。パターンを8つまで重ね、時間軸上に並べるSongモードに加えて、ディレイ、コンプレッサー、ディストーション、リング・モジュレーション、ビット・クラッシャー、フィルターなどBFD2に搭載されるDCAMモデリング・エフェクトを30種類も収録。さらにAudio Units/RTAS/VSTプラグインとして、各種DAWソフトで使用できるほか、スタンドアローンとしても起動可能です。


こうして書き連ねるとクラクラするほどに多機能ですが、全体のイメージはハード・サンプラーの使い勝手を、コンピューター画面上でより進化させたと考えるのが一番しっくりとくるでしょう。GUIを一見した瞬間に、どれがどの機能なのか、何となくでも分かってしまうところが、このソフトの良いところです。レコーディング用のソフトを立ち上げなくても、まずはコレだけでベーシックな部分をサクッと作れる感じは、ふと何かを思い付いたとき、トラックを立ち上げてプラグインとして読み込む煩わしさを解消してくれそうです。以上を踏まえた上で、あえてスタンドアローンで立ち上げてみて、いろいろと遊んでいこうと思います。


16パッドと往年のリズム・マシンを
ほうふつさせる使いやすいシーケンサー


まずは起動すると、画面左側4分の1ぐらいをブラウザー・ウィンドウが占めており、ここから読み込みたいファイルなどを探します。先の階層に進むのはもちろん、戻ることもでき、音色を選ぶ際のストレスは少ないですね。メイン画面は縦半分以上をステップ入力やサンプルの編集、パターンを並べたり、アサインされたパッドの音源をエディットの確認用に割り当てられます。画面上部のバーにはそれぞれPattern、Scene、Song、Pad/Layers、Layer Mixer、Pad Mixer、Engine Mixer、Global Mixer、Samplerの画面を切り替える表示があり、クリックするだけで瞬時に各モードにアクセスできます。その並び順には若干の疑問がありますが、使いこなすうちに理解できると思います。とは言え、まずは1画面上でここまで各モードにアクセスしやすいことに感激すると同時に、操作性に対する同社のこだわりも感られました。


その下に、先にも書いた16個のパッドとビンテージのリズム・マシンを彷彿させるシーケンサー部分が並んでいます。その上にはパターンを記録できる8つのバンクがあり、こちらをON/OFFすることでシーケンスを単独で再生したり、レイヤーしたりすることができます。説明書を読まずに使ってみましたが、GUIに関しては何となくでも目視しただけで、どこが何の役目を果たしているのかという基本的な部分が直感的に理解できます。ハードのサンプラーやリズム・マシンを使っている人にとっては、本機のGUIはなじみやすい面構えをしていると感じるでしょう。加えてこれは個人的な意見ですが、BFD2のGUIのようにもう少し画面に色味があると愛着が湧くというか、より親しみやすくなるんじゃないかなとも思いました。


追い込んだ音色作りが可能な
自由度の高いベロシティ設定


それでは次に各モードの説明をしていきましょう。まずSamplerモード(画面①)はざっくりした印象ですが、録音用の設定の細かさに注目してほしいです。通常のサンプリングはもちろん、リサンプリングする際に極力ミスを少なくするためにトリガー・モードが種類が4つ用意されるほか、レコード・モードも3種類を搭載しています。サンプリング、リサンプリングするソースの入力系統も、外部入力をはじめリサンプル・マスター・アウトからサブアウトまでを含めると17と豊富です。大抵の方は所有していると思いますが、外部入力を使用する際には、やはりオーディオ・インターフェースを経由して取り込むのが良いでしょう。ファイル・ベースでのサンプリングやリサンプリングを重ねていくより、生音や肉声などを駆使することで、より独自の音源を編集していった方が、本ソフトのポテンシャルをより楽しめると思います。


▼画面① Samplerモードの画面。左上部に4種類のトリガー・モード、3種類のレコード・モードを用意。録音用の細かい設定をコントロールできる



次は画面上部のバーを横にスライドしてPad/Layersモード(画面②)に飛んでみました。こちらの画面の構成がまたイイ感じですね。本製品の仕様を見る限りだと、この機能をプッシュしているようにも思います。それもあってか、この画面だけでもかなり音を追い込むことができ、面白いサウンド・メイクができると思います。パッド1つにサンプルが8つまで重ねられるほか、発音の方法も幾つか選ぶことができます。ベロシティの強弱で鳴り方を変えたり、一定のベロシティで打ち込んだ後で発音を変えてみたりと、その自由度は限りなく高いです。その時々の自分の感覚で気ままに設定を変えることで、新しいサウンドを発見できるので、クリエイティブな楽曲制作をサポートしてくれるでしょう。


▼画面② Pad/Layerモードの画面。1つのパッドに計8つのサンプルが重ねられる。またベロシティの強弱をはじめとした発音方法の選択も可能



パッドでのサンプルのアサインが済んだら、次はシーケンスに打ち込むためのPatternモード(画面③)を見てみましょう。こちらも一見シンプルですが、細かい調整もできるようにツマミが隠れていたりもします。さらにパッド右脇にあるスウィング調整のツマミも注目で、40~50%辺りでイイ感じの揺れを感じさせてくれます。ステップの長さも見た限りではかなり伸ばすことができるようなので、ここでバンクを1つ使ってリズムを丸々1曲分打ち込んで、残りのバンクを上モノに使うといったやり方もできそうです。


▼画面③ シーケンスを打ち込んでいくPatternモードの画面。シンプルで整然とした画面だが、ノート情報以外に、ピッチやフィルター・カットオフなどのプログラミングもできる



パターンが出来上がったら、Songモードで構成を組んでみましょう。作ったパターンが、どの部分に配置されているかを視認できるので、耳だけでなく、目でも音作りが楽しめると思います。最終的なミックスする際に、Global Mixer(画面④)で表示されるコンプのVUメーターにはちょっとアガりました。ソフトを作っている制作者側も楽しんでるということが伝わってくるのは、なんだかうれしいものです。


▼画面④ Global MIxerの画面にはコンプレッサー、パラメトリックEQ、ディレイが立ち上げられている。各エフェクトのセンド具合も調節でき、細かいサウンド・メイクに一役買ってくれる



本ソフトはとにかく多機能なので、ここではそのすべてを試しきれていませんですが、ソフト・サンプラーとしての充実感はかなり高いです。細かいことは後から調べるとして、まずは起動してガシガシと遊んでみることをオススメします。そうすれば意外と簡単に、自分に合った曲の作り方を見つけることができると思います。



サウンド&レコーディング・マガジン 2011年10月号より)


FXPANSION
Geist
24,990円
▪Windows/Windows XP SP2(32ビット)/Windows 7(32ビット/64ビット)、INTEL Core 2 Duo1.86GHz以上のCPU(INTEL Core 2 Duo 2.53GHz以上を推奨)、2GB以上のRAM、VST/RTAS/スタンドアローンに対応▪Mac/Mac OS Ⅹ 10.5.8/10.6.2以降、INTELCore 2 Duo 1.86GHz以上のCPU(INTEL Core2 Duo 2.53GHz以上を推奨、 PowerPC非対応)、2GB以上のRAM、Audio Units/VST/RTAS/スタンドアローンに対応