ポップなルックスとマニアな機能が同居したユニークなシンセサイザー

TEENAGE ENGINEERINGOP-1
スウェーデンのTEENAGE ENGINEERINGが発売したOP-1というシンセが世界中で話題沸騰中です。一見、欧米でよく見られる子供向けの教育用おもちゃのようですが、シンセにサンプラー、エフェクトやシーケンサーまではともかく、MTRに3次元モーション・センサー、さらにはFMラジオも搭載するという、かなりマニアックな機材のようで興味津々です。早速レポートしていきましょう。

解像度の高い8種類のシンセ・エンジン
アイディア満載のエフェクト/LFO


サイズは13インチ型ノート・パソコンと同じ程度の横幅に13.5mmの厚さと、かなり小さいです。重量感のあるアルミの削り出しボディには、スピーカーとマイクを内蔵。入出力端子は入力と出力用をステレオ・ミニで1つずつ用意する以外にはミニUSBポートのみ。電源は内蔵リチウム電池で、連続16時間稼働するほか、USB充電が可能というエコ設計。やはり秀逸なのは一目惚れしてしまうルックスでしょう。ボディはグレーを基調にしたキーボードのようですが、パネルの有機ELディスプレイが効いていて、黒地に4色で光るグラフィックの奇麗なことと言ったら! 画面に表示されるさまざまな絵や図形、数字のほとんどは同じ4色で表示されます。これはディスプレイ横の4つのツマミ(360°カリカリと回せるローターリー・エンコーダー)と対になっています。例えば画面に青、緑、白、橙の4つの数字が表示されるときは、数字とツマミの色がリンクするというわけです(写真①)。素晴らしいアイディアですね。

▼写真① テープ・レコーダーのミキサー画面。4つの数字が、4つの色分けツマミに対応し、コントロールが可能。ちなみに一番上がレベル・メーターで、その下がパン、数字がボリュームだ。パンはシフトキーを押すと選択できる


それではシンセ部から見ていきましょう。本機には8種類のシンセ・エンジンが用意されています。内訳は昔のテレビ・ゲームで使われた8ビット・シンセを再現する"DR.WAVE"、4オペレーターのFMシンセ、矩形波で変調させる"PULSE"、弦楽器系をフィジカル・モデリングする"STRINGS"、ウェーブ・シェイパーで荒れた音が得意の"DIGITAL"、位相差で音を作るひずみ感が心地よい"PHASE"、6オシレーターを同期させる"CLUSTER"、そしてサンプラーと充実しています。どの方式にもプリセット音色があり、その中から使いたい音を探しても良いですね。音色をパネル上の8つのボタンにアサインしておくことで瞬時に呼び出すことも可能です。特にDJプレイのときなどに便利でしょう。気になる音質ですが、思った以上に解像度が良いクセのない音に感じました。なかでも筆者がノックアウトされたのは、ワイドレンジなFM音源、CLUSTERの生波形っぽいベースあたりでしょうか。搭載されているオーディオ入出力部は、24ビット/96kHz対応のAD/DAとなっています。シンセ音源は音を鳴らすだけでなく、編集や保存も可能です。編集関連は音の全体像を決定するページに加えて、ADSR、FX(過激エフェクト)、LFOの計4つで構成されます。どれもアイディア満載で面白いのですが、ここではFXとLFOについて紹介します。まずFXページでディレイなどに混じって"PHONE(盗聴電話)"や"SPRING(スプリング・リバーブ)"なんていうものもあります。中でも"PUNCH"は画面にボクサーが現れて、文字通りどの程度音にパンチ力を与えるかを示すというユニークなものです(写真②)。LFOページも一筋縄にいかないもので、まず外部入力をLFOソースとして使えます。声でもいいですし、内蔵FMラジオも使えます。さらにラジオのナレーション、音楽や局間ノイズなどにも変調をかけられます。また冒頭で述べた3次元モーション・センサーを用いて、本体をソロバンに見立てて故トニー谷氏のように振れば、振動をセンサーが検知し、LFOソースとして使えるという、かなり愉快な構造も楽しめます。

▼写真② FXページにある"PUNCH" の画面。設定できるのはFREQ、PUNCH、ROUND、 POWERだ。アルゴリズム的にはフィルターを基本にしたものだが、ROUNDS(1から24)が増えると、パンチ力も衰える(笑)


本機にはもうひとつのドラム音源があります。キックやスネアがアサインされた鍵盤をたたいてリズム・パターンを鳴らすものですが、リアルタイムでたたいても、後述するシーケンサーやMTRに記録してもOK。FXやLFOなどのシンセと同様の編集が可能なので、過激な音にもできます。この音源はサンプラー(シンセ・エンジンとは別物)なので、ドラム音源にこだわる必要はありません。サンプリングするもよし、パソコンで用意したネタをUSBで流し込んで使うもよしです。

多彩なアナログ・テープ・モジュレーション
ユニークな簡易シーケンサー機能


次に本機の記録方法ですが、テープ、シーケンサー、アルバムの3つがあります。テープは昔懐かしの4tr・レコーダーをデジタルで模した機能(写真③)で、使い方を紹介すると、ドラムをトラック1に、シンセ・ベースを2、パッドを3、ボーカルが4という感じに録音できます。この説明だと4つしか録音できないと思うかもしれませんが、オーバーダビングが可能なので、何十回でも音を重ねられます。

▼写真③ テープ・レコーダーの画面。リールはもちろん回転し、タイム・カウンターも時を刻む。鍵盤横のロケーターともしっかりリンクしていて、瞬時に巻き戻したり、テープを こすりながらのキューイングもお手のものだ


また本機の内蔵マイクを使えば声や手拍子の録音もできます。テープは見事にシミュレーションできていて、中でも面白いのはキューイングです。早送りや巻き戻しをする際にテープをヘッドに軽く当てるとキュルキュルと音が出ますが、これも再現してくれるので、作業中の気分を楽しくしてくれます。テープ・スピードの変更もでき、半速で録音してノーマルで再生とか、倍速で録音してノーマル再生など、さらには1/12単位での変更もOK。この機能はかなり出番が多いはずです。任意のポイント間をループさせたり、1小節だけ入力したものをコピペして並べる機能、瞬時のリバース再生という、アナログ・テープにはできない機能を網羅しているのもうれしいです。もちろん音を再生しながらの編集ができるので、DJプレイでも大活躍間違いなしでしょう。もうひとつの記録方式は簡易シーケンサーで、これは3つのタイプがあります。"PATTERN"というグリッド上に配置するのはお馴染みなので、説明は割愛します。2つ目は"ENDLESS"と呼ぶステップ・シーケンサー的なもので、例えば鍵盤で16回適当に弾いてプレイさせると、その順番で均等に16個の音が鳴りますが、この鳴らし方を変更できるのがポイントです。適宜に間引いたり、逆にしたり、ランダムにしたり、スウィングさせたりと、テンポに対して鳴らす音符単位を変化させられます。3つ目のタイプは"TOMBORA"で、これは画面上にある図形内に音を投げつけて、壁にぶつかったときに発音させるというもの(写真④)。説明しづらいのですが、偶発性の高いパターン・シーケンサーです。しかし、先述の美しい有機EL画面上の壁に、音が反射するたびに音が出るという一連の動作を眺めているだけでも、全然飽きません。

▼写真④ 不思議系シーケンサー"TOMBORA"。ここでは六角形の中にある音(玉)が、壁に当たるたびに音が出る。青で壁の回転速度、形は白、緑で重力、橙で跳ね返り具合を設定することができる



4トラックMTRはDAWでの編集も可能
OSアップデートによる仕様の拡張も魅力


ここで作ったパターンは、先ほどのテープ・レコーダーに同期録音することも可能です。テープにリアルタイムで弾いても構いませんが、カチっとしたドラムや、きっちりしたピコピコ・フレーズを録音したいときはこのシーケンサーを併用します。もちろんシーケンサーを単独のフレーズ・ループ・マシンとして使ってもいいですし、レコーダーに録音するためのネタとしての使い方もできます。ちなみにパソコンと接続すると、MTRに記録した4つのトラックはそのままオーディオ・ファイルとして見えるので、パソコン側のDAWで直接取り込んで編集することも可能です。3番目の記録方式はアルバムという名のレコーダーで、ここでの画面はレコード・プレーヤーです。これは大きく2つの使い方があって、ひとつはシンプルにシンセやドラムを演奏してそれを録音する方法。他方はマルチレコーダーの出力を録音するというもので、昔で言うところのダイレクト・カッティングみたいなものですね。画面はプレイ・ボタンを押すとターンテーブルが回り、トーンアームが針を落とすという芸の細かさも素晴らしいです。また本機は常時鍵盤情報を出力するので、USB接続したパソコン内のソフト・シンセを鳴らすことができます。Macユーザー限定ですが、Core MIDI対応のため、Mac内のDAWから本機の制御も可能です。またOSのアップデートで仕様を拡張でき、既にシンセ・エンジンなどの追加が告知されています。ユニークなだけでなく考え抜かれたシンセである本機は、新世代と呼ぶにふさわしい出来映えだと思います。今後の展開も含めて楽しみなモデルですね。

▼サイド・パネル。左からパワー・スイッチ、USB端子、オーディオ・イン(ステレオ・ミニ)、オーディオ・アウト/ヘッドフォン・アウト(ステレオ・ミニ)




サウンド&レコーディング・マガジン 2011年10月号より)

撮影/川村容一

TEENAGE ENGINEERING
OP-1
98,700円
▪構成/シンセサイザー、サンプラー、エンベロープ、エフェクト、テープ・シミュレーター、シーケンサー、モーション・センサー、FMラジオ▪MIDI対応/Mac OS Ⅹ、iOS(Core MIDIデバイス)▪外形寸法/282(W)×13.5(H)×102(D)mm▪重量/572g