マスター・アウト以外にヘッドフォンや
モニター出力の音質も大幅に向上
まず特筆すべきは"USBオーディオ・インターフェースの搭載"です。同社のフラッグシップ・モデルDJM-2000より採用されたUSBポートは、CDJ-2000と同様に接続しやすい天面部分に設置されています。また、4系統のステレオ音声信号を同時に入出力できるUSBオーディオ・インターフェース機能を採用したおかげで、パソコンとのダイレクト・リンクができる点も大きなポイントですね。オーディオ入出力回路がDJM-2000と同様なのに加えて、 32ビットのAD/DAコンバーター搭載も手伝ってか、マスター出力以外にヘッドフォンやモニター出力の音質も大幅に向上しています。特にヘッドフォンの音は素晴らしく、耳に痛い帯域がマイルドなので、長時間ヘッドフォン内でミックスしても疲れを感じません。また低ノイズへのこだわりも随所に見られ、32ビット・デジタル・シグナル・プロセッサーでデジタル・ノイズを抑制するほか、アナログ回路も高音質バランスド・ハイブリッド・オペアンプや完全バランス出力回路を用いることで徹底的なノイズ低減を実現しています。さすがは現場を知り尽くす同社らしい、音質へのこだわりを強く感じます。僕が現場のメイン・ミキサーとして使っているのはDJM-2000ですが、その理由はやはり圧倒的な音の良さに尽きます。DJM-900 NexusはコンパクトながらにDJM-2000に迫るスペックを備える点でも、DJM-800の後継機にふさわしいモデルと言えるでしょう。それだけでなくDJM-2000よりも価格も手ごろなため、常設するクラブも増えるはずです。加えてミキサーのパーツで最も壊れやすいフェーダーやノブも改良が加えられ、特にフェーダーは2本の金属シャフトを用いたスライド構造により、ぐらつきのないスムーズな操作性と、DJM-800に比べて約3倍の耐久性を実現しているとのことです(写真①)。音の良さ以外に、タフガイなところも本機の大きな魅力なのです。
より進化したPRO DJ LINK
TraktorにもUSBケーブルで直結可
先述しましたが、本機は天面にUSBポートを装備することで、デジタルのDJには欠かせないPRO DJ LINK機能がより扱いやすくなっています。従来ならパソコンから楽曲ファイルをハード・ディスクやUSBメモリーに仕込んで、それをCDJ-2000のUSBポートに読み込ませていましたが、本機はダイレクトにパソコンをつなぐことができます。パソコン内の音源を本機からLANケーブルとスイッチング・ハブを介して各チャンネルのCDJプレーヤーなどに割り振って、そこから精度の高いBPM情報と拍位置情報が取得できるようになったのです。これはビートに対してずれることなくエフェクトをかける点でも非常に役立つでしょう。併せて新機能のクオンタイズ・モードが、BEAT EFFECTを操作するタイミングがずれても、自動的に修正をしてくれます。このようにハード面はもちろんですが、PIONEERの推奨するソフトRekordboxが、楽曲管理ソフトからDJソフトへと進化している点も実感できると思います。それ以外に本機はNATIVE INSTRUMENTS Traktorユーザーにも優しく、本機とパソコンを1本のUSBケーブルで接続するだけで、Traktor内の4つのデッキの同時入力ができるので、Traktorをフル活用したプレイも可能になりました。外部のインターフェースいらずのこの機能のおかげで、パソコンを使うDJが交代するときのセッティングの煩わしさから解放される......これは本当に素晴らしいことです。
現場向きのエフェクトを3種追加
X-PADはより直感的なアレンジが可能
次にエフェクト機能の変更点ですが、SOUND COLOR FXは、定番であるFILTER、CRUSH、NOISEに加えて、さらに現場向きな3種類のエフェクト、SPACE、DUB ECHO、GATE/COMPを追加しています(写真②)。
この新たな"三種の神器"はどれも素晴らしい出来で、SPACEとDUB ECHOは、BEAT EFECTのECHOやDELAYとは異なる残響・反響効果を得られるほか、ツマミひとつでコントロールできる操作性も重宝するでしょう。GATE/COMPもFILTERとは違う質感で、左に回すとゲート効果で音がタイトになり、右に回すと、コンプレッサー効果で音が太くなります。これもプレイ時の良いアクセントになるでしょう。BEAT EFFECTには、ディレイ・タイムを変化させると同時に音程も変わるという、カオティックなSPIRALというエフェクトと、ON/OFFボタンを押した時点の入力音を記録し、記録した音を入力音のレベルに合わせて出力するMELODICという新たなエフェクトを追加しています(写真③)。
さらに新機能として搭載されたX-PADなるエフェクト・コントロールは、すごく新しい感覚で、すべてを指先でコントロールできます(写真④)。APPLE iPhoneやiPadのような直感的なタッチ操作ができ、クセになりそうです。エフェクトの"LEVEL/ DEPTH"のコントロール然り、感覚的なアレンジが瞬時にできることでしょう。
DJM-800に限りなく近い操作性
新たなインパクトを持つエフェクト群
さて、本機のおおよその特徴を網羅しましたが、やはり論より証拠ということで、現場でみっちり8時間、DJM-900 Nexusを使い倒してきました。先述したようにDJM-800に限りなく近い操作性のため、全く違和感なく使えたことにあらためて驚きました。加えて特筆すべきはSOUNDCOLOR FXに追加された新しいエフェクト群がどれも最高ということ。特にSPACEとDUB ECHOは相当ヤバイです。BEAT EFFECTのECHOやDELAYと使い分けたり、組み合わせたり、プレイ中の思い付きで多彩なサウンドを得ることができました。この手の反響系エフェクトはDJM-800以降、SOUND COLOR FXのFILTERや、BEAT EFECTのECHOとDELAYの組み合わせに少々慣れ過ぎたDJやオーディエンスに、フレッシュなインパクトを与えてくれるでしょう。また、エフェクトをシンクロさせながら拍の倍率を変えるという、おなじみのBEATボタンをセットの後半でほとんど使わなかったのは、新搭載のX-PADに夢中になっていたからだと思います。それくらいこのX-PADには、DJを虜にしてしまう魅力があると思います。慣れ親しんだ現場でDJM-900 Nexusを試して、身をもって感じたのは、やはりこのミキサーは出音が非常に良いということ。先述したようにヘッドフォン出力の音質向上や、ブース内のモニター・サウンドの素晴らしさもリアルに感じることができました。
現場でのプレイを終えて、自宅スタジオにて並んだDJM-800とDJM-900 Nexusを眺めていたら、僕の心に残る漫画『がんばれ!!ロボコン』のエピソードを思い出したので、最後の締めに書かせてください。ロボワルの弟、ロボガキが登場した回がありまして、ロボガキは兄貴のロボワルよりもずっと悪くて力も100馬力上なので、前回までクラス一番の悪だったロボワルがなんだか遠くに見えてキュンとしてしまう......新旧2台のDJMにそんな思いを感じてしまいました。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年8月号より)