オーディオI/O機能を備え使いやすさを追求したVeniceの最新版

MIDASVenice F-32
イギリスの高級PAコンソール・ブランド、MIDAS(ピンク・フロイド用にカスタム・コンソールを作ったことから始まったブランド、という説がある)の中でも、最小機種でいて、定評もあるVeniceシリーズ。同シリーズにFireWire経由で各種DAWともダイレクトに接続可能なアナログ・コンソール、Venice Fシリーズが発表された。PAではもちろん、スタジオ録音、ライブ録音までも高品質で行えるとのこと。しかも、価格も比較的低価格だ。ここではVenice F-32を試し、このシリーズの魅力を探っていきたい。

精密なEQは4バンド仕様
ノイズが非常に少ないクリアなサウンド


まず同シリーズは、今回レビューするVeniceF-32のほか、Venice F-16(409,500円/写真①)、Venice F-24(546,000円/写真②)という3機種のラインナップとなる。製品名の数字が大きくなるにつれて幅のみが広くなり、Venice F-16は575(W)×277(H)×649(D)mm、VeniceF-24は780(W)×277(H)×649(D)mm、Venice F-32は985(W)×277(H)×649(D)mmと3機種にわたり高さと奥行きは一緒。それぞれの構成としては、Venice F-16は8モノラル/4ステレオ、Venice F-24は16モノラル/4ステレオ、Venice F-32は24モノラル/4ステレオという入力数。そのほかにも、AUXリターン×2ステレオ、プレイバック入力×1ステレオという入力が搭載されている。

▼写真① シリーズ最小モデルのVenice F-16はモノラル8chとステレオ4ch入力。そのほかの基本スペックはVenice F-32と同じで、重量は23.5kg



▼写真② シリーズの中間モデルとなるVenice F-24。こちらはモノラル16chとステレオ4chを備えるモデル。重量は30.5kgとなる


モノラル・チャンネル(写真③)を見ていこう。同シリーズは、各チャンネルがモジュール化されておらず、チャンネルごとに抜き差ししてメインテナンスをすることはできない構造。しかし、傷めやすいボリュームなどのツマミ類は金属製で、個々をナット留めにすることで耐久性が確保されている。各チャンネルにはライン/マイク入力が併設されており、+48Vファンタム電源スイッチ、−20dBのPADスイッチ、最大+50dBのゲイン・コントロールを経て、Phaseスイッチ、80Hz固定のローカット・スイッチと続く。−20dB設定のPADスイッチは個人的に使いやすい値で好きだ。PADが−30dBに設定される卓も多いが、PADインした後、ゲインを上げ音量をアジャストさせる作業が、−20dBくらいの方がスムーズに行えるのだ。

▶写真③ モノラル・チャンネルのマイクプリ部からEQ部にかけて。最上部の赤いスイッチがファンタム電源スイッチ(+48V)、その隣がPAD スイッチ( −20dB)。それから下へ順番ゲイン・ツマミ、Phaseスイッチ、ローカット・スイッチ(80Hz)となる。その下がFireWireセクションで、 緑のスイッチがデジタル入力オン/オフを切り替え、その隣がプリ/ポストEQの切り替え。さらにEQセクションに続く。上からEQ部は2kHz〜 20kHzのHI、400Hz〜8kHzのMH、100Hz〜2kHzのLM、20Hz〜200Hzの4バンドとなる。またMHとLMには0.1〜 2octの間でQ幅を調整するツマミも搭載。一番下の赤いスイッチは、EQオン/オフ切り替えスイッチとなる


そしてMIDASサウンドの要、精密なEQ部へと続く。EQ部は2kHz〜20kHzのHI(3oct)、400Hz〜8kHzのMH(4oct)、100Hz〜2kHzのLM(4oct)、20Hz〜200Hz(3oct)の4バンドで、それぞれ±15dB。さらにMHとLMには0.1〜2octの間でQ幅が可変となり、0.1octというQの鋭さはノッチ・フィルターとしても使用できるレベル。カーブ的に細い谷間となり、音色にほとんど影響を与えずにハウリングを止めることもできるし、LQを2octに広げれば、レベルをそれほど上げなくても存在感のある音に仕上げることも可能だ。また本シリーズは、ここまで書いてきた通りQを"oct"で表示しているので、適正なポイントを想像しやすいのも良い。実際にEQを使えば、レベルを8dBくらい増減しても、位相の乱れによる"EQ臭さ"を感じることは無かった。"伝統のブリティッシュEQ"とでもいったところだろうか。ただ、小型なので仕方がないが、とにかくツマミ間の縦ピッチが狭く指がつっかえるため、ワンアクションで目的の位置まで回すには慣れも必要だろう。それからAUXセクションやグループ、パンなどを挟んで100mmのフェーダーがあり、その横にLEDメーターを装備。一番上の赤LEDは+18dBで点灯してクリップ警告を知らせる(写真④)。ちなみにライン入力の入力レベルは−10dBだが、−20dBのPADも使用できるので、扱えるレベルの守備範囲は広くて使いやすい。

▶写真④ モノラル・チャンネルのモ ニター・セクションからフェーダーにかけて。モニター・セクションには、2系統分のモニター・センド・ツマミを設置。その横にはEQをプリ/ポストで切り替えるスイッチを配置する。その下はAUXセクション。ステレオ2系統分となり、モノラル4系統で使用することも可能。そしてグループ・スイッチ、パン、 ミュート/ソロ・スイッチなどを挟んで100mmのフェーダーを実装。フェーダー横にはLEDピーク・メーターを備え、+18dBで赤が付く仕様となっている


ステレオ・チャンネルも基本的にはモノラル・チャンネルと同じ構成だが、EQ部のQは固定で12kHzのTreble、3kHzのHI Mid、300HzのLOHid、75HzのBassですべて±15dB。そしてすべてのステレオ・チャンネルに2系統のマイクプリ/ライン入力を備えている。本機でユニークなのが、ライン入力のみをマスター・アウトへ直接送り出すためのchannel/mastersスイッチだ。例えばリバーブなどをライン接続し、それをマスター・チャンネルへ送り、同じステレオ・チャンネルのマイク入力のみをフェーダーで扱うようなことができるのだ。さて、マイクで収音した音を聴くと、まずノイズが少ない。スペック表を見ても、最大ゲイン時の入力換算ノイズで−128dBuと書いてある。とにかくあまりにノイズが無く静かなので、入力がちょっとひずんでしまった場合でも強烈なひずみに聴こえるような気がしてしまうほどだ。

FireWireインターフェースを搭載し
パソコンと本機で最大32chの送受信


出力部についても見ていこう。本機の出力は、ステレオ・マスター出力とモノラル・マスター出力がそれぞれ1系統ずつ用意される。またAUXミックス・バスが6系統となり、それぞれ単独でプリ/ポストの選択が可能。ほかにもオーディオ・サブグループ×4となり、マトリクスは2系統。モニターのFoldbackセンドも、個々のチャンネルEQのプリ/ポストの切り替え可能だ。本シリーズのトピックの1つが、冒頭でも述べたFireWire端子の装備だ。本機はAD/DAコンバーターを実装し、32イン/32アウト(44.1/48kHzでの録音)のオーディオI/Oとして使用できる。資料によれば、"ほとんどすべてのDAWソフトで動作させることができると思うが、PROPELLERHEADによる動作確認を行っており、これを推奨する"という。とにかくDAWと本機をFireWireで接続すれば、本機の各チャンネルをそのままマルチ録音可能。今回はAVID Pro Toolsで試してみたが、あっけ無いほど簡単にできた。本機でPAしながらそのままDAWにマルチ録音し、後でエディットするような使い方や、プラグイン・エフェクトをアウトボードのセンド・リターンの要領でライブで使用することもできる。もちろん、パソコン側からの入力を本機に立ち上げることも可能。各チャンネルに搭載されたFireWire入力のボタンにて入力をアナログもしくはFireWireからのデジタルかを選択でき、またデジタルのダイレクト出力のEQをプリ/ポストで切り替えることも可能となっている。最後に音質について少しだけ触れたい。音質は全体的に無色透明といったところで、クリアだが、芯はしっかりとある。ライブPAやレコーディングなど広い用途で使われることを考えると、こういったサウンド・キャラクターに仕立てていったのは、正しいチョイスだと感じた。また32chのモノラル入力モデルもあればいいなあと思った。

▼リア・パネル。左からマスター・アウト L/R/モノ(それぞれフォーンとXLR)、ステレオ・リターン L/R(フォーン)×2、グループ(フォーン)×4、AUXリターン(XLR)×4、グループ・アウト(XLR)×4、モニター・アウト(XLR)×4。続くステレオ・セクションは各チャンネルごとにライン・イン L/R(フォーン)、マイク・イン L/R(XLR)を搭載し、プレイバック・イン/アウト(RCAピン)も搭載。そしてモノラル・セクションは各チャンネルにインサート(フォーン)、ダイレクト・アウト(フォーン)、ライン・イン(フォーン)、マイク・イン(XLR)となる。モノラル・セクションの下にはFireWire端子を備えている




サウンド&レコーディング・マガジン 2011年8月号より)
MIDAS
Venice F-32
682,500円
▪入力ゲイン/ライン(モノラル):−20dB〜+40dB、ライン(ステレオ):−20dB〜+20dB、ライン・レベル入力:0dB▪最大入力レベル/マイクおよびライン:+22dB、ライン(モノラル):+42dB、ライン(ステレオ):+28dB▪周波数特性/20Hz〜20kHz▪外形寸法/985(W)×277(H)×649(D)mm▪重量/37.5kg