
独自のクロック生成技術を搭載
多彩な入出力でスイッチャーとしても抜群
Zodiacシリーズは、上位機種のZodiac Gold(オープン・プライス/市場予想価格399,000円前後)と本機、さらにアナログ入力を省略したZodiac(Antelope Store価格/1,595ユーロ)の3種。本機がブラックに包まれているのに対して、Zodiac Goldはゴールド、Zodiacはシルバー・パネルだ。先に述べた同社の哲学は本シリーズにも受け継がれるようで、デジタル・ソースを原音に忠実にモニタリングするよう作られたという。それだけに、正確にかつ美しく再生させるためのさまざまな技術的なアプローチを感じ取れる。例えば"オーブン・コントロール・クロック"と呼ばれる技術。多くのクロック・ジェネレーターは水晶を振動させその振動により周波数を取り出すが、本機では、水晶を温度が一定に保たれるようにシールドされた容器に格納。また64ビット演算によるAFC(アコースティック・フォーカス・クロッキング)と呼ばれるクロック生成アルゴリズムなどにより、質の高い出力を提供するという。そんなZodiac+で特徴的なのが、多彩な入力部。デジタル入力は、S/P DIFコアキシャル&オプティカル(各2系統)とAES/EBU、そしてUSB2.0。アナログ入力はステレオ・ペアのXLR(+4dB)、RCAピン(−10dB)。スタジオやオーディオ・ルームなどで扱われるソースを満たしてモニター・コントローラーとしても使える上に、S/PDIFコアキシャルとオプティカルを2系統ずつ装備するのは、さまざまなデジタル機器がはんらんしている事情を考えるとてもうれしいことだ。出力はステレオ・ペアのXLR(+4dB)、RCAピン(−10dB)、 S/P DIFコアキシャル(2系統)、およびヘッドフォン出力(2系統)。スイッチャーとしても十分な機能を持っているのが分かるだろう。インプットの切り替えはすべての入力を順送りするソース・ボタンで行われるが、入力信号を自動検知して、入力中の端子のみを切り替えてくれるので便利だ。そのボタンの隣には同じ形状の電源スイッチが並び、間が1cm程度しか離れていないので少々気になったが、誤って電源スイッチを切ってもポップ・ノイズは出ず、安心できた。また中央のメイン・ボリューム・ノブは大きく、その隣にヘッドフォン・ボリューム・ノブが独立するのも使いやすい。メイン・ボリューム・ノブの上には入力ソースを表示するディズプレイがあり、音量を操作すると正確なレベル表示に自動的に切り替わり、一定時間が経過するとサンプリング・レート表示に切り替わる。メイン・ボリューム・ノブ下のMuteスイッチは、ワンプッシュで−40dBのディムとなり、もう一度押すとフル・ミュートになる。それらに加えMonoスイッチも備わっている。
アナログ機器のように温かな音
ヘッドフォン出力も滑らか
サウンドの印象については非常に信頼性が高いと感じた。少なくとも、私が日常的に使用しているすべての機器との比較してそん色が無いどころか、音源によっては完全に超えているとさえ感じる場面もあった......結果としてアナログ機器のようなスムーズで温かなサウンドが得られたのだ。特にUSB入力も便利だ。MacのAPPLE iTunesからm4aファイルを再生したところ、m4aファイルは大幅圧縮の音声ファイルにもかかわらず、かなり心地良く聴けた。同じくAPPLE MacBookProのヘッドフォン兼デジタル・ライン出力と本機をオプティカル・ケーブルで接続しiTunesを再生してみたが、こちらも好印象で、コンシュマー・ユースとしては重宝するだろう。またヘッドフォン出力も滑らかな音で、シャープなサウンドながら耳当たり良く音楽を聴かせてくれる上に、音量を上げてもひずみ感が無く、逆に小音量時の解像度も高い。インピーダンスの異なるさまざまなヘッドフォンを試したが、相性の悪い機種も見当たらない。価格帯からも、GRACE DESIGN M903辺りと良いライバル、と言ったところだろう。気になった点を挙げれば、本機は筐体が立方体に近いので、置き方や置き場に工夫が必要。また個人的にはリモコンが欲しいと思ったのだが、上位機種であるZodiac Goldにはリモコンが標準で装備されているとのことだ。プロ・オーディオの世界はもちろんだが、リスニング用のオーディオ機器としてもこの音質と豊富な入力で力を発揮する、本機はそんな一台だ。
▼リア・パネル上段が左からDC電源端子、バランス・アナログ入力L/R(フォーン)、アンバランス・アナログ入力(RCAピン)、バランス・アナログ出力R/L(XLR)、アンバランス・アナログ出力(RCAピン)。下段が左からワード・クロック入力、S/P DIFコアキシャル&オプティカル入力×各2、USB端子、AES/EBU入力(XLR)、AES/EBU出力(XLR)、S/PDIFコアキシャル出力×2

(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年8月号より)