本体とカプセルの交換で上位機種へ変換可能なコンデンサー・マイク

DPA2006A/2011A/2006C/2011C
B&K 4006/4011の後継機種であるDPA 4006A/4011Aといった4000シリーズに続き、その廉価版の2000シリーズが発売された。本機はDPAマイクの設計理念を継承し4000シリーズの長所を受け継ぎ、さらに汎用性を高めたコンデンサー・マイク。今回は4000シリーズと2000シリーズの比較試聴レポートをお届けします。

音響系専門メーカーのB&Kから
派生したマイク・ブランド=DPA


DPAのマイクを評価する際は、その元となるB&Kについての豆知識が必要です。正式名称BRUEL&KJAER(ブリュエル・ケアー)のB&Kは、デンマークを本部とする音響/振動計測機器の開発製造メーカー。同社は数多くの実績とノウハウを重ね、音響/振動測定において確固たる地位を築いていきます。こうした技術力が買われB&Kは音楽用途のマイクとしても非常に高い評価を得ました。そして1992年、B&Kから独立し音楽用に特化したマイクの設計製造を開始したのが現在のDPA(Denish Pro Audio)です。


そして今回紹介する2000シリーズですが、4000シリーズ同様本体(プリアンプ部分)とカプセル部分は交換可能。無指向性のカプセルとスタンダードなプリアンプ部のセットが2006A、単一指向性のカプセルと上記同様のプリアンプ部のセットが2011A。つまり、4006の孫(子供は4006A)が2006A、4011の孫は2011Aとその血筋が分かりやすくネーミングされています。このほか、コンパクト・タイプの本体と無指向性のカプセルのセット(2006C)と単一指向性のカプセルのセット(2011C)がラインナップされています。


チェックの前にひとつ前置きを。エンジニアには自身のレコーディングに欠かせないマイクがそれぞれにあると思います。私の場合、生楽器の録音に関してはB&K 4006です。メイン・マイクにではなくアンビエンス・マイクとしての使用ですが、これは絶対です。これまでにさまざまな種類のマイクを思い付く位置にセットして試してきましたが、4006以外に私のポイントにはまるものはありませんでした。以来、"B&Kは無指向性でオフ気味にセッティングを"と呪文(じゅもん)のように唱えながらストリングス、ブラス、そして何よりもドラムのアンビエンスには欠かせない絶対のアイテムとしてきました。


こうした背景でのDPA 2000シリーズの試聴依頼、これは引き受けないわけにはいきません。そんな私のチェックですから、4006/4011とを用意して、オリジナルと2000シリーズを徹底比較してみたいと思います。


マイク本体とカプセルは自由に交換可能
上位機種の4000シリーズとも連携できる


まずは外観です。B&Kでは無指向性の4006と単一指向性の4011では形状が異なりますが、4000/2000シリーズではモジュラー式プリアンプと呼ばれる本体部分は共通で、スタンダードなMMP-A(57,750円)とコンパクトなMMP-C(36,750円)の基本2つが用意されており、好みのタイプから選択します(写真①)。ほかにもローカット/ハイブースト仕様のMMP-Bも用意(63,000円)。プリアンプの形状は共にフラットな"円柱型" で、無指向性カプセルとの組み合せの2006AでB&K 4011とほぼ同サイズです。実際に手にした感じの印象や重さなどもほぼ同様で、小さめな部類のこのサイズのマイクでは取り回しの問題などは基本的にはありません。それでも4006の先端に向かって若干細くなるやや円錐型に比べると扱いやすいでしょう。


▼写真① モジュラー式プリアンプMMP-C。ほかにもスタンダード・タイプのMMPA、ローカット/ハイブースト仕様のMMP-Bがラインナップされている。別売りのカプセルと本体部分を自由に組み合わせられるフレキシブルさも魅力



私が思うこのシリーズの最大の魅力は、前述した通り本体と"モジュラー式カプセル"とネーミングされたダイアフラム部分を自由に組み合せられることです。B&Kでは無指向性と単一指向性でマイクを2種類用意しなければいけませんでしたが、このシリーズでは本体は一つでも別売りのカプセルである無指向性のMMC2006や単一指向性のMMC2011(各57,750円)を交換すればいいのです(写真②)。また、4000/2000シリーズのカプセルが共用できるため、まずコスト・パフォーマンスの良い2000からスタートしてDPAの概要をつかみ、後でより細部の音作りに向けての4000へのアップグレードとステップを踏めるのもうれしい限りです。カプセル長のある単一指向性と組み合せた2011Aだと全長は多少長めになりますが、使用に際しては全く問題ありません。


▼写真② モジュラー式カプセルと名付けられた無指向性のMMC2006。2000シリーズには、ほかにも単一指向性のMMC2011がラインナップされているが、カプセルは単品で購入可能なため上位機種の4000シリーズへのアップグレードにも対応



4006の特徴を継ぐサウンドでありながら
無指向性の2006Aは中高域が特徴的


それでは2006Aから立ち上げてみます。音を出してみて最初に驚かされるのは2006Aのゲインの高さ。4006に比べると10dB〜12dB以上も高く設定されています。これは弱音楽器、例えばストリングスのオフマイク使用時などでの使い勝手が向上して、S/Nを大きく稼ぐことができます。逆にドラムなどの大音量の楽器ではアンビエンスと言えども注意が必要で、セッティング・ポジションにもよりますがプリアンプ側本体のXLRコネクター部にある−20dBアッテネーターは必須かもしれません。


2006Aのサウンドを元祖の4006と聴き比べた第一印象は、パッと出た音のイメージが4006と非常に似ているという感想です。4006特有のローエンドから超高域までの表現力の豊さは、ほとんどそん色は無く、広帯域にわたる再現力を持ち合わせているというイメージ。特に4006ならではの空調などの超低域ノイズまでもが見えてしまう、間違えるとハウリングを起こすほどの重低域の収音力は全く見劣りません。


詳細な評価では、4006は全体が角の無い丸い音のイメージなのに対して、2006Aでは中低域が気持ちスッキリ気味で高域が若干張り出し気味という感じ。しかし、それは高域が硬くて耳障りということではなく、全体の解像度や音の立ち上がりにいい影響を与えているようにもとれます。実際にアコースティック・ピアノを鳴らしてみると、4006では全体が非常に丸く柔らかい印象なのに対して、2006Aではその印象に加えて中高域に芯のあるパワー感がプラスされ、4006には無い力強さと明るさが感じられます。さらに低音弦でのフレーズにも太さとアタック感が備わり、ルームの鳴りや空気感の表現に加えた音像そのもののキャラクターを際立たせています。角の無いフラットな音をB&Kのイメージとしてとらえている方には、このニュアンスの違いは好みが分かれる部分もあるでしょうが、このサウンド傾向であれば今やビンテージのカテゴリーに入ってしまう4006サウンドを、今時の新しいサウンドに置き換えての表現が可能かもしれません。


若干注意すべきは、セッティングの位置です。私の勝手なイメージですが、4006は"なるべく離してセッティングする"マイク。ポジションを幾つか試してみると2006Aは音源より離れていくと解像度や音像が多少ぼけ気味になる傾向を感じました。私と同様にオフ気味のレイアウトを標準としている方は、最初は通常より少し寄せ気味にセッティングすることをお勧めします。


単一指向性の2011Aはブライトな印象
ライブやPAに役立つコンパクト・モデル


続いてカプセルを単一指向性に交換して2011A。これは4011との比較です。4006と4011のゲインは異なりますが、2011Aは4011とほぼ同じゲイン設定で同系列マイクではうれしい配慮。


さて肝心の2011Aの音はというと、これは似ているというレベルではなく、明らかに同じ血筋を感じるさせる同一感を受けます。ルームの空気感を表現しつつ出音をしっかりととらえられる4011の音の輪郭をとても自然に受け継いでいます。聴き比べの切り替えを早くすると、どちらのマイクか分からなくなるレベルです。特に少し中膨らみ的な中域の豊かさを自然に表現できているのは見事。微細な音のキャラクターは、2006Aと同様に中高域に張りがあるブライトな印象ですが、単一指向性の2011Aは無指向性の2006Aと比較し、よりブライトでやはり"今"を感じさせます。"音像の明確さ"が要求される傾向の多い単一指向性では、4011に比べて2011Aのモディファイは好印象。それはピアノの音ではより顕著で、4011に比べると厚みのある太さに加えてそれぞれの各弦の響きが見える感じが魅力的に感じます。マイク・ポイントを追い込めば1本のマイク(ピアノでは実際にはステレオで使用しますが)でメインとアンビ両方の代役が可能でしょう。


単一指向の4011は普段はあまりなじみがありませんでしたが、無指向の4006と比較すると音像自体の表現力ははるかに優れ、その長所をしっかりと受け継いだ2011Aには興味を引かれました。4011に不慣れなために、最初は離し目にマイクをセットしましたが、2011AではB&Kマイクの先入観を捨ててなるべく近づけてセットするとより良さが引き出せると思います。


2011Aで残念なのはS/Nが若干悪く感じ、離し目のセッティングにはあまり有効ではない印象です。とは言え前述したように、単一指向性ということもありそれほどオフにすることはまずないでしょうからもちろん使用には問題の無いレベル。


最後にコンパクト・モデルの2006Cと2011C。スタジオでの使用ではここまでのコンパクトさは要求されませんが、ライブのPAやホール録音などではビジュアル的な部分も考慮すると小型ということ自体が重要なポイントになります。


音質面での全体的な評価は、同様に音像のニュアンスはうまく受け継いでいるという印象。サウンドの傾向はスタンダードとほぼ一緒なので詳細は省略しますが、個人的な好みでは無指向性の2006Cが音色的には面白く、2006Aと比較しても中低域が豊かで程良い音像のかたまり感にとても興味を引かれました。ただし、コンパクト性を重視するためにやむを得ないのでしょうが、2011AよりさらにS/Nが厳しい印象です。


後継機種やバリエーションには二つの方向性があると思います。ひとつはオリジナルや元機のニュアンスや癖の再現にその力をすべて注ぎ込んでいるもの。もう一方は、元の雰囲気やベースは生かしながらも時代や開発コンセプトに準じてモディファイやレベル・アップがされているものです。今回の2000シリーズは後者のバージョン・アップ系の印象を受けました(4000シリーズを試聴していないので正確ではありませんが)。


ルームの鳴りを十分に表現できる"B&Kサウンド" は非常に魅力的です。ですから2000シリーズは、部屋の条件が好ましくない場合むしろ部屋鳴りを録らないようなセッティングが必要。このことを念頭に置けば、パッと聴きで粒立ちの良い分かりやすい音が得られると思います。価格帯も含め2000シリーズは、B&K直系サウンドの入門機としては申し分ないと言えるでしょう。



サウンド&レコーディング・マガジン 2011年8月号より)


撮影/川村容一


DPA
2006A/2011A/2006C/2011C
2006A&2011A:105,000円/2006C&2011C:94,500円
●2006A&2006C▪周波数特性/50Hz〜20kHz▪指向性/無▪最大音圧レベル/114dB▪感度/-28dB re.1V/Pa(±2dB@1kHz)▪外形寸法/19(φ)×164mm(2006A)、19(φ)×58mm(2006C)▪重量/160g(2006A)、40g(2006C)●2011A&2011C▪周波数特性/50Hz〜17kHz▪指向性/単一▪最大音圧レベル/117dB▪感度/-40dB re.1V/Pa(±2dB@1kHz)▪外形寸法/19(φ)×198mm(2011A)、19(φ)×92mm(2011C)▪重量/164g(2011A)、64g(2011C)