出力レベル調節、+48V、DI入力など
オリジナルの1073に無い利便性
573の大きな特徴は、先述したようにAPI 500モジュール規格で開発されたことだ。APIから発売されている電源供給ラックの500 VPR(10モジュール収納)やLunch Box(6モジュール収納)、さらに他社からも対応フレームが販売されており、異なるメーカーのモジュールを1台のラックにスロット・インさせることができる。この規格を選んだことでユーザーの選択肢は広がり、使い勝手はこの上なく素晴らしいと言える。例えば、Lunch Boxにこの573を2台、そして好きなコンプとEQを2台ずつ搭載すれば、わずか幅312mmというサイズでコンソールで言うところの2ch分のモジュールが持ち運べるのだから。では573のパネルに目を向けていこう。まずは赤いゲイン・ツマミ。本家1073はプラスチックかセルロイドのような質感だが、573ではアルミに若干メタリックっぽい赤い塗装がなされていて高級感がある。このゲイン・ツマミはOFFを含む5dBステップ式になっていて、+20dB〜70dBまでの設定が可能。その下が+48Vのファンタム・スイッチ、続いてマイク入力のインピーダンスのハイ/ロー切り替えだ。これは古いビンテージ・マイク、特にリボン・マイクなどを使うときに非常に有効(ロー設定)。インピーダンス切り替えは本家1073にも搭載されているが、裏側のコネクター部分にスイッチがあったので操作が面倒だった。それがフロント・パネルに出ているのはありがたい配慮だと言える。その下は位相反転スイッチだ。右にあるセレクターは、マイクとラインの入力切り替えになる。さらにその下はアウトプットのボリューム・ツマミだが、録音機器へ入力する際もこのツマミで音量の微調整ができるので非常にありがたい装備だ。そして、こんなに小さいのに楽器用のDI入力端子まで装備されている。1073はもともとコンソールの一部だったので、当然ながらアウトプットの調整、DI、そして時代的にファンタム電源は装備されていなかった。利便性では573に軍配が上がるだろう。
ボーカルの倍音やアコギのアタックに
1073直系のニュアンスを感じる
実際に、今回はボーカル、アコースティック・ギター、ドラム、ベースで試してみた(ラックはLunch Boxを使用)。まず全体の印象は本家1073に非常に似ている。ボーカルに関して言えば、高域の伸びや、高域の倍音の存在感はとても好印象だった。アコギも同様で、中高域のアタック感は非常にリアリティが感じられ、元気のあるサウンドだ。ドラムに関してもシンバルの高域の伸びに若干の薄さが感じられるものの、シャープで勢いのあるサウンドを得ることができた。あえて言うならば、ベースに関しては1073に比べて少しだけ重量感に物足りなさを感じた。ただ、これには電圧が少し関係しているのかもしれない。本機は1073と同じパワー・トランジスター2N3055を使ってはいるものの、基本的なドライブ電圧は1073が24Vなのに対し、API 500モジュールのフォーマットは約半分の14V。なので、その違いが若干のエネルギー感の不足を感じさせたのかもしれない。ちなみに数年前、2chマイクプリのVINTECH AUDIO 273をレビューしたことを思い出し、その記事が掲載されたサンレコを探して自分の原稿を読んでみた。2バンドのシェルビングEQが搭載される以外は273と573は同じ仕様のようにも見えるが、実際の573の音はその273とはまた違ったカラーという印象だ。全体的に"1073の回路を再現した"といううたい文句通りの結果となった。状態の良い1073を必死に探すよりも、コスト・パフォーマンスと利便性を考えたら、573の方が現実的かもしれない。