3系統の映像入力を完備
スイッチングも多彩なエフェクトを用意
早速、箱を開けて本機を取り出してみます。予想よりずっしりした印象。パネルも堅牢で持ち運びや環境の厳しい現場での使用にも十分耐えられそうで、まず好印象。ざっとパネルを見渡してみると、映像機器に少しでも触れたことのある人なら、恐らくどんな風に操作するかは感覚で分かりそうな作り。ひとまずいきなりパワーON。2つあるモニター・ディスプレイにROLANDとVR-5のロゴが現れ、ほどなく作動状態になります。アナログ系のスイッチャーに比べると立ち上がりに時間がかかりますが、ハードウェア製品の長所である"フリーズしにくい" 点を考えれば、この時間はさほど問題にならないと思われます。本来はカメラやコンピューターなどの機器をつないでから電源ON!でしょうが、今回はリアルな使用状況を考えて、電源ONの状態からいろいろつないでみます。背面には映像/音声入力が3系統。映像側はBNCとS-ビデオ端子、音声側はステレオのRCAピンがそれぞれ用意されています。それに加えてマイク入力も2系統装備。ちょっと変わったところでPC INPUTとしてD-Sub 15ピン端子もあり、コンピューターのRGB出力が入力できます。その脇には、コンピューターからのヘッドフォン/ライン出力を直接つなげられるステレオ・ミニ入力もあります。映像の具合を見るために、2台のカメラを映像入力のBNCとS-ビデオ端子にそれぞれ接続。各カメラの音声も入力します。映像/音声入力が1系統余っているので、そこにはAPPLE iPodから音声だけを入力してみました。カメラの電源を入れると、左側のモニター・ディスプレイ=SETUP/PREVIEW MONITORの4分割画面に入力したカメラの映像が映ります(右側のOUTPUTMONITORはメイン出力映像のモニター用)。次に、幾つかある映像出力端子の中から、HDMI出力をプラズマ・ディスプレイにつないでモニター・チェック。カメラ入力はパネル左下の"VIDEO SELECT"ボタンでスイッチングできるので、つないだ2台のカメラを切り替えながらチェックしてみます。切り替えの感触は良好。ボタンのフィールも良く、同社のV-4よりも素早くスイッチングに付いてくる感じです。ここでSETUP/PREVIEW MONITORディスプレイの下にある"TOUCH☝SELECT"の文字に引かれ、4つに分割された画面に直接触れてみると、そこでも映像のスイッチングができました! このタッチ・スクリーンによる切り替えの反応も良好で、感覚的に映像を選べる感じ(写真①)。音声も映像の切り替えに追随させたい場合は、パネル中央のAUDIO FOLLOWボタンを押せば、スイッチングしたカメラの音声が出力されます。逆に、例えばライブ・ハウスで演奏風景を撮影している場合などは、このAUDIO FOLLOWを外すことで音声は変わらずに映像だけ切り替えることが可能です。
そのAUDIO FOLLOWボタンがあるパネル中央の"VIDEO EFFECT"のセクションでは、"CUT"による映像の素早い切り替えだけでなく、次の映像がオーバーラップする"MIX"、次の映像が端から入ってくる感じの"WIPE"、そして画面の中にもう一つ画面を入れる"P in P"、画面を縦方向や横方向に分割して2ソースを同時に入れ込む"SPLIT"といった切り替え方が選べます。さらに、あまり見慣れない"PLAYER"ボタンも。これは、本体前面にあるスロットへ差し込んだSDカードから、動画や画像を読み込んで、他の映像と切り替えて出力できるというもの。SDカードの内容の読み出しや再生は本体右手の"FILE SELECT"セクションですべて行います。いったん読み込んでしまえば、通常の映像入力の素材と同様に、映像の切り替えが行えます。次は、本体中央にある"PC INPUT" のセクションをチェック。ここでは、背面にあるPC INPUTのRGB入力から入ってきた映像をコントロールします。その映像を選ぶには、PC SELECTボタンを押すだけ。これで映像を5ソース入力したことになります。しかも、このPC INPUTの映像は、"VIDEO SELECT"セクションで選んだ映像といわゆるキー合成ができます。コンピューター上で前もって作っておいたグリーンバックなどの映像を、"VIDEO SELECT"で選んだカメラ入力の映像の上に乗せたり、あるいはカメラ側で撮った映像の背景として、PC INPUTのグリーンバックを使うとか......。ちなみに裏技ですが、PCINPUTは何もつないでいないと"黒" の状態なので、この映像とカメラの映像を"ルミナンス(明るさの差で合成するモード)"で合成して調整すると、ちょっと1980年代のビデオ・アート風な映像ができます。お試しを!
メイン出力をSDカードに録画可能
音質もROLANDクオリティ
出力映像に関してはいわゆるスタンダード・ディフィニションなので、ハイビジョンに慣れた目からはさすがに解像度が物足りないように見えます。が、それは本製品の"主な用途"から考えると納得が行くものです。ここまでお話ししてきたさまざまな機能による映像の"中継/収録"を、VR-5なら"たった一人"で行うことが可能なのですから! 今までのように"ビデオのスイッチャーがあって、音声のミキサーがあって、コンピューターから文字や編集済みの映像を出して合成して、あー、他人から預かった素材が別のメディアにあったからそれも読み込んで、外付けのテレビ・モニターをつないで......"と、機材量と手間を考えるだけでうんざりするような局面(しかも大抵の場合、映像の中継/収録セクションに与えられる物理的なスペースはとても狭い)でも、本機1台でそれらの作業がほぼできるとなればかなりやる気が出ます! しかも皆さん既にお気付きのように、僕が今お話ししたことはUstreamやStickamなどWebの映像中継で頻繁に起こっていることなのです! それらのメディアでは、もちろんHDでの配信も可能ですが主軸はスタンダード・ディフィニション。そのレベルのクオリティと操作性に特化したこのVR-5は、最小限のスタッフで、あらゆる素材を扱ってWeb上で中継(あるいは挿入したSDカードに録画できます!)する上で、かなり使える機材だと言えます。しかも、パネル右上にある"VIDEO STREAM"セクションのUSB端子からコンピューター(Windows/Mac)につなげば一発で配信状態に! この簡便さは魅力いっぱいです。肝心の"音声"の方もROLANDならではのこだわりがうかがえます。SETUP/PREVIEW MONITORからメイン・メニューに入ってオーディオの設定をしていると、そこにはEQやら基本のエフェクト以外にNOISE SUPPRESSORなるエフェクトが。iPodからの入力音にこのエフェクトをかけてみると、これはコンプ的な感じで、音のすき間(無音部)のレベルを抑えていくという印象です。ROLANDの方に聞いてみると"出力にもマスタリング・エフェクトを搭載しています"というお返事。さすが音楽機材専門メーカー、音の方もクオリティが保証されています。ちなみに各入力バランスは、パネル左下のフェーダーでオーディオ・ミキサーさながらの直感的な調整が可能となっています。かなり好印象なVR-5ですが、幾つか要望を。映像の切り替えがフェーダーでできるともっと表現の幅が広がるかなと思いました。そしてカメラの入力端子も5系統あったらいいですね。僕が所有している同社のV-4が4系統入力で"もう1台入力できれば"と思うケースが多かったので、ぜひ提案させていただきたいところです! が、そんな限定的な用途でなく、よりパーソナルに、より簡単にWebの映像中継を楽しみたい方にVR-5はぜひお薦めという感じでした!
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年2月号より)