"LEXICONの音"を再現し音に存在感を与えるプラグイン・リバーブ

LEXICON PROLXP Native Reverb Bundle
価格も手ごろなミックス時必携リバーブ・ツール

LEXICON PRO LXP Native Reverb Bundle 84,000円本稿でレビューするのはLEXICON PROから新発売されたプラグイン・リバーブ、LXP NativeReverb Bundleです(RTAS、VST、Audio Units対応)。先に発売されたPCM Native Reverb Bundleが同社製ハードウェア・リバーブの高級機、PCM96のプラグイン版だということは想定できますが、本製品において気になるのはその製品名に冠された"LXP"という言葉。現行ハードウェアのシリーズ名である"MX"ではなく、なぜ今、1990年代に販売されていた低価格帯シリーズを表す言葉を製品名に取り入れたのか? その理由を実際に使用しつつ探っていきます。

音楽に必要な残響音を追求直感的に扱いやすい親切な設計


LEXICONのリバーブについて今さら深く語る必要は無いかと思いますが、ここではあえてその沿革に触れておきたいと思います。同社製ハードウェアはModel 200やその上位機種である224、コントローラーのLARCを付属した224X、224XLなどから、デジタル入出力を備えたM300、そして現在もスタジオの定番機器として息の長い480Lや、サラウンドに対応した960Lなどに至るまで、絶えず進化してきました。こういった同社製品のリバーブは、実際に聴ける残響を再現するという方向性ではなく、"音楽に必要な残響音を追求する"という観点から開発されてきたようです。ちなみに、かつてDIGIDESIGN Pro Tools用のTDMプラグイン・リバーブとしてLexiverbという製品があり、多くのエンジニアから愛用されていました。しかし、Pro Tools|HDが運用され始めたころ、Lexiverbはその姿を消してしまいます。それから8年間ほどの時を経た今年3月、同社は満を持しての新製品、PCM Native Reverb Bundleを発売。これに続き、より価格を抑えた本製品がこのたびリリースされるに至りました。それでは早速、触っていきましょう。LXP Native Reverb BundleはLXPシリーズを使っていた人なら懐かしく思うであろう青色と黒色を中心に構成されたインターフェースを持ち、直感的に操作しやすいようデザインされています。メイン・エディット画面の"Soft Row"には、"PREDELAY"や"REVERB TIME"など、基本的なパラメーターを調整する6個のツマミが備えられています(画面①)。lexicon_1▲画面① メイン・エディット画面の"Soft Row"。初期状態では中央に見える6個のツマミに、リバーブの基本的なパラメーターがアサインされている。これらのツマミには、さらに微細な設定が可能なパラメーターを割り当てることができるまた、細かい設定を行う際に表示させる画面と"Soft Row"を切り替えるための7個のボタンを各画面に配置(画面②)。用意されているパラメーターは画面によって異なりますが、"Soft Row"の各ツマミには任意のパラメーターを割り当てることが可能です。極力、メイン画面だけでエディットしきれるような設計は実に親切ですね。各画面の右方に見えるグラフィックは"リアルタイム・ディスプレイ"という、リバーブ処理後の信号を表示する機能となります。lexicon_2▲画面② 細かいエディットを必要とする場合に表示させる画面は全部で6種類ある。こちらはそのうちのひとつとなる"Master"。"Soft Row" 含め、合計7つの画面を切り替えられるボタンが最下方に配置されている

上位機種より豊富なプリセット音に存在感を与える力強い響き


さて肝心の音色については、聴いた瞬間に思わず納得するほど、"LEXICONの音"をしています。ただ、PCM Native Reverb Bundleほどハイファイな響きではなく、Pro Tools 5時代のLexiverbと似た印象。4種類のアルゴリズム、Room/Plate/Chamber/Hallを見ていきましょう。最初に紹介するのは"Room"です。リバーブのカテゴリーを選択できるセクション、"CATEGORY"には、"Small Spaces" "Medium Spaces" "Large Spaces"の3種類が用意されています。各カテゴリーには11~20種類のプログラムがプリセットされており、どれも素晴らしい出来栄えです。音色については、明るくきめ細かい3桁系の高級機(480Lや960Lなど)とは異なり、LXPシリーズのハードウェア同様に、少し暗くて左右への広がりが狭い感じの音がします。ただ、ほかのプラグイン・リバーブとは違った特徴的な響きなので、オケの中で存在感を放つでしょう。次に、"Chamber"をチェックします。これにも同じく"Small Chambers" "Medium Chambers" "Large Chambers"という3種類のカテゴリーが用意され、それぞれに19~26種類のプログラムをプリセット。これもまたよくできたものがそろっており、チェンバー系のリバーブとしては最高クラスの仕上がりと言えそうです。音色は高級機の繊細な響きとは異なり、ガレージで鳴らしているような力強いサウンドが印象的です。一方、"Hall"はどのような音を聴かせてくれるのでしょうか? このアルゴリズムは5種類のカテゴリー、"Small Spaces" "Small Halls" "Medium Halls" "Large Halls" "Huge Halls"に分かれ、それぞれが8~18種類のプリセット・プログラムを持ちます。例えば"Small Spaces"などは、ボーカル・ブースほどの小部屋から大聖堂のような大きな空間での響きを演出でき、幅広い表現が可能。そして、こちらもややダークな音色を得意とし、音に深みを加えてくれます。そして最後に、LEXICONを象徴するアルゴリズム、"Plate"をご紹介。"Short Plates" "Midium Plates" "Large Plates"の3種類をカテゴリーに持ち、それぞれに12~22種類のプリセット・プログラムが用意されています。どれも使える音色に仕上げられていますが、LEXICONのプレート・リバーブとして考えると少し暗く、もう少し明るくきらびやかな音であればなという印象です。ちなみに、各プリセット・プログラムはPCM Native Reverb Bundleのものより断然バラエティ豊かで、その数は合計220にものぼります。一通り試した後、本製品が"LXP"を名乗っているのは、LXPシリーズで特徴的だった暗めの響きを生み出すための、ある特定のアルゴリズムを採用しているからではないのか、と考えるに至りました。同シリーズについては、安価なAD/DAコンバーターとDSPを搭載しているがためにダークな音色になっているものとばかり思っていましたが、どうやらそういったサウンドを生成するために決められたアルゴリズムが存在するようです。

上自作プログラムのロードがスムーズ往年の名機480Lに通じる音色


LXP Native Reverb BundleとPCM Native Reverb Bundleのいずれにも共通することですが、オーディオ・トラックに直接インサートして使用した場合とAUXバス経由でセンド・エフェクトした場合では結果が大きく違います。個人的な好みとしては、前者の方が原音との混ざりもよく、きめ細やかな残響感が得られました。ただ、本製品の動作がいくらPCM Native Reverb Bundleより軽いとはいえ、複数のオーディオ・トラックにインサートする場合はCPUの処理能力を考慮しなければなりません。前者と後者、2種類の処理方法を使い分けるなど、納得できる響きを得るための最良の方法を研究していこうと思います。さて、いろいろ触って好みの響きを作ってきたわけですが、エディットを加えたプログラムのロードがスムーズな点も本製品の特徴です。自分で設定/保存したプログラムは"CATEGORY"に登録され、プリセット・プログラムと同様の操作で呼び出しが可能。"エディット/セーブしたけれど、ロードしにくい"といったことが無い分、オリジナルのプログラムをどんどん保存できるでしょう。さて、この製品のプレート・リバーブには、私が長年愛用してきた480Lと通じる部分があります。もちろん単体で480Lの音を完全再現できるというわけではありませんが、PCM Native ReverbBundleの"Vintage Plate"というアルゴリズムと組み合わせて使用すると、限りなく理想に近いボーカル用のプレート・リバーブを作ることができました。また、個人的には"Room"と"Chambar"で作る、狭い空間で鳴らしたような響きも好みで、ギターなどに多用する予感。本製品ならほかのプラグインには無い特徴的な音色を作れるため、特定の音を際立たせたいときにオーバーにかけるなど、特殊な使い方にも向くでしょう。自然な残響感を演出したい場合から派手な効果を狙うときまで、ミックス時必携のツールになるだろうと思います。また、価格も手ごろなので、購入しても損は無い久々のヒット作と言えそうです。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年11月号より)
LEXICON PRO
LXP Native Reverb Bundle
84,000円
▪Windows/Windows XP/Vista/7、1.6GHz以上のIntelもしくはAMDのCPU、1GB以上のRAM、100MB以上のハード・ディスクの空き容量、CDまたはDVD-ROMドライブ、1,280×800以上のディスプレイ、VST2.4以降、Pro Tools 7.3以降 ▪Mac/Mac OS X 10.4.10以降、Power PC G51.8GHz以上のCPUもしくはIntel Mac、1GB以上のRAM、250MB以上のハード・ディスクの空き容量、コンボ・ドライブもしくはスーパー・ドライブ、1,280×800以上のディスプレイ、Audio Units、VST 2.4以降、Pro Tools 7.3以降