小技が効いた新機能と安定性の向上を見せる"DP"の最新バージョン

MOTUDigital Performer 7.2
ライブラリーの拡張や新機能追加で進化したDAW

MOTU Digital Performer 7.2 オープン・プライス(市場予想価格/57,800円前後、アップグレード版:19,800円前後)残暑も落ち着いて涼しくなったこの季節、皆さまいかがお過ごしでしょうか? さて、今年発売されたDigital Performer 7は順調にアップデートを重ね、このたび早くもバージョン7.2まで達しました。今回は機能面に劇的な変化がもたらされたというわけではありませんが、より小技の効いた仕上がりになっています。インターフェースの模様替え機能やライブサーチといった検索機能、右クリック・メニューなど、便利な機能が追加されたほか、APPLE iPhone/iPad/iPod Touchにインストールして使う遠隔操作アプリなど、面白いツールも実装。本稿ではその辺りを掘り下げてレビューします。

MIDI編集機能が充実右クリック・メニューで操作性がアップ


DAWが数多く存在する中、Digital Performer(以下、DP)についてご存じでない方のためにも、まずはこのソフトの特徴を簡単に説明しておきましょう。DPは元々、MIDIシーケンスのみに対応していたPerformerというソフトに、オーディオ録音機能を搭載したところから始まっています。拡張性や利便性の高さを除けば、DPはレコーディング・スタジオの業務などで標準的に使われているDIGIDESIGN Pro Toolsと、できることが似ています。どちらのDAWも、シーケンス・データの作成/録音機能には大差がありません。一方、DPの個性と言えば、あっさりとしたインターフェースによる見た目の分かりやすさと、MIDIエディットの簡単さ、そしてこれぞDPの特色とも言える機能、"チャンク"が挙げられます。とりわけ、チャンクは便利で、これが無いと困るユーザーも多いはず。ほかのDAWにも独自の仕様や機能があり、最初にどれを選ぶかで後々の作業も随分異なってくると思います。そんな中、作曲後、アレンジをしながらMIDIで楽器を鳴らし、それらを録音/編集して楽曲を作るというタイプの人には、MIDI関連機能が充実したDPが向いているでしょう。さて早速、新機能について見ていきましょう。"見た目も大事でしょ!?"ということで搭載されたのでしょうか、ついにテーマ機能が実装。例えばWebブラウザーのMOZILLA FirefoxではPersonasというプラグインを使用し、あっという間にデザインを変更できますが、これと同様、即座に外観を変えられる機能です。デフォルトで用意されたテーマから気に入ったものを選び、適用ボタンでインターフェース全体のデザインを変更できるのです(画面①)。ボタンのデザインを変えることもできるので、いかにもDPといった趣向とは異なる雰囲気を楽しめます。dp_1▲画面① テーマの変更は実に簡単。デフォルトで用意されたメニューから好みのものを選び適用ボタンを押すだけで実行できる。適用ボタン下方のパラメーターでは、メーターの色などを自分の見やすいものに細かくカスタマイズ可能次は、"今までなぜ搭載されていなかった?ランキング" 第1位に選ばれそうな機能、右クリック・メニューをご紹介。皆さんが普段コンピューターを使うとき、右クリックなどで対象項目に関連するメニューを呼び出すことがあると思います。本機能はそれと同様のものです。右クリック・メニューはウィンドウによって現れる項目が異なります。例えば、各トラックが時系列で並ぶトラックリスト上でエディット対象を選び右クリックすると、カットやコピーなどの基本操作からトランスポーズ、ベロシティの変更など、MIDIに関する項目がメニューに出現(画面②)。また、ミキサー画面上の右クリック・メニューでは、MIDIコントローラーの割り当てが設定可能です。dp_2▲画面② トラックリスト上で選択したデータを右クリックすると、コピーやペーストなどの基本的な操作から、ヒューマナイズ、ベロシティやデュレーションの変更といった、MIDI関連の操作メニューまでが出現

遠隔操作アプリで一人録音もスムーズさらにピッチ補正の自由度が向上


さらに便利な新機能としてもうひとつ、ライブサーチを見ていきます。本機能は、オーディオ・ファイルの読み込み/管理を行えるサウンドバイトウインドウと、各種コマンドを一覧表示可能なコマンドウインドウにおいて、文字入力による検索が行えるというものです。コマンドのショートカットを探すときなどに重宝しそうですね(画面③)。dp_3▲画面③ 便利なショート・カット・コマンドをリスト・アップするコマンドウィンドウでは、実行したい操作を文字入力すると、それに当てはまるコマンドが検索できるまた、本アップデートに合わせてリリースされたDP Controlという無料アプリを使うと、iPhoneやiPad、iPod TouchからDP 7.2をリモート・コントロールできます(画面④)。お持ちのキーボードにテンキーが装備されていない場合、DP Controlを使用することで、ロケート時に便利なマーカー指定が随分楽にできるようになります。また、スタジオにこもって一人で録音作業を行うとき、Wi-Fi環境があればブースからでもDP 7.2の遠隔操作が可能。今までそれができなかったことを思えば、かなり便利になったと思いませんか?dp_4▲画面④ DP Controlは再生/録音/頭出しなどの遠隔操作にとどまらず、ミキシングのリモート・コントロールまでカバーするiPhone/iPad/iPod Touchアプリさらに、原稿執筆時にマイナー・バージョン・アップの7.2.1がリリースされました。DPの環境設定表示セクションにピッチ・オートメーション・リファレンスという項目が追加され、DP内の基準となるフリケンシー・リファレンスを440Hz固定から自由に設定できるようになりました。DP 7.2には、"あったらいいな" 的機能がどっさりと盛り込まれた印象です。そのほかのアップデート内容としては、Core Audioのオーディオ・ファイルやタイム・スタンプが付属するBWFファイルの扱いが若干変更された点や古いバージョンで作成したプロジェクトを開いた際のルート・フォルダーの扱い方がDP 6以前の方式に戻った点などが挙げられます。 さて、新機能については以上ですが、今回のアップデートにはWebサイトなどに書かれていない細やかな最適化が感じられました。例えば、他社製ソフト・シンセとの相性が良くなった点などにそれがうかがえます。以前のDPでは、各種プラグインをアサインするV-Rack上のトラックからソフト・サンプラーにプログラムを読み込ませた後、そのトラックを無効にしたりすると、しばしばクラッシュを起こしていました。今回、こういったことが見受けられなくなったのです。さらに、描画やレスポンスが軽くなったと感じることがあったり、ソフトが落ちることもほぼ無くなりました。

ビンテージ機材を再現したEQとコンプライブラリー拡張が容易なリバーブ


最後に、トピックを1つ。DPユーザーの間ではその軽い動作と効きの良さで定評があるプラグイン・エフェクト群、MasterWorks Collectionが単体製品として発売される予定があります(国内販売時期は未定)。これからはMASだけではなくRTAS、AU、VSTなどでも、これらのエフェクトが使えるようになります。僕も個人的に愛用しており、ミックスなどで活躍してくれます。全部で3種類あるエフェクトについて、簡単に紹介しておきましょう。まず、MasterWorks EQはイギリス製アナログ・コンソールのEQを模したもので、モードによってはNEVEやSSLの製品に似た動作をします。MasterWorks LevelerはTELETRONIX LA-2Aをシミュレートしたオプティカル・コンプです。ドラム・マスターやミックス時のトータル・コンプに向いています。最後に、ProVerbは動作の軽さが特徴のコンボリューション・リバーブ。ある空間の残響構造をデータ化した"IRファイル"をドラッグ&ドロップするだけで、ライブラリーをどんどん拡張していけます(画面⑤)。DP 7.2にはこれらが無償で付属しているのですから、超リーズナブルですよね!dp_5▲画面⑤ 動作の軽いProVerbは、IRファイルをドラッグ&ドロップするだけでライブラリーを増やしていける拡張性の高さが魅力さて、駆け足でDP 7.2を紹介してきましたが、まだ幾つか他社製品との相性の問題が見られることも確かです。例えば、Pro ToolsなどからSMPTE信号を受けサンプル・アキュレートで同期させる場合、ノートのイベント・チェイスが利かなくなっています。こういった不具合には早急に対処していただき、より完成度の高いDPのリリースを切に願います。とは言え、本アップデートではいろいろなところが改善/最適化されており、個人的にはほとんどストレス・フリーになりつつあります。もはや以前のバージョンには戻れないと感じる今日このごろです。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年11月号より)
MOTU
Digital Performer 7.2
オープン・プライス(市場予想価格/57,800円前後、アップグレード版:19,800円前後)
▪Mac/Mac OS X 10.5.8以降(Mac OS X 10.6対応)、Power PC G4/G5 1GHz以上のCPU(IntelMac推奨)、1GB以上のRAM(2GB以上を推奨)、1GB以上のハード・ディスク・ドライブの空き容量、DVDドライブ(製品インストールに必要)