直感的に操作できる収録パターン数1,500以上の大容量ソフト音源

STEINBERGHalion Sonic
ありとあらゆるプログラムが用意されたソフトウェア音源

STEINBERG Halion Sonic 30,000円(通常版)20,000円(アカデミック版)STEINBERG Halion Sonicは、同社のHyperSonic 2を受け継いだマルチティンバーのソフトウェア音源です。簡単に言ってしまえば、ワークステーションのハードウェアのシンセサイザーがそのままソフトウェアの中にすべて入ってしまったというのが分かりやすいでしょう。STEINBERGとYAMAHAのMotifのサウンド・デザイナー・チームによって手掛けられた12GB以上のサンプル・ライブラリーは、楽器ごとに最大20種類のさまざまな奏法が収録された生楽器から、アナログ・シンセ、ハイブリット・シンセ、FX、リアルなドラム・キットやブレイクビーツのループまでありとあらゆるプログラムが網羅されています。ワークステーションというだけあって、作曲、アレンジ、プロデュース、サウンド・メイキング、ライブまでありとあらゆる場面で活躍しそうです。それでは、実際に使っていきたいと思います。

音の粒立ちが非常によくオケの中でも埋もれない


Halion Sonicを立ち上げてみると、非常に分かりやすい配置で、マニュアルを読まなくても、適当なプログラムをロードして触っているうちに、初めてでもシンセサイザーとしての構造や多彩な機能を簡単に把握することができました。これは第一印象としてはすごく重要なことで、これだけさまざまな機能があると、難しいという印象が先攻してしまいがちですが、最初の印象が簡単というのであれば、ここからいろいろいじっていこうという気になれます。Media Bayと呼ばれるSTEINBERG製品共通のライブラリー検索機能(画面①)により、カテゴリー(主に楽器名)、サブカテゴリー(楽器の種類)、スタイル、キャラクターと細かく分けられておりすぐに欲しい音色にたどり着くことが可能です。halion_1▲画面① Media Bayによってカテゴリー(主に楽器名)、サブカテゴリー(楽器の種類)、スタイル、キャラクターと細かく分けられていて好みの音色にすぐにアクセスできる驚かされたのは、この手の音源ではアコースティック・ピアノやストリングスなどの大きなプログラムの場合、音源をロードするのに時間がかかることが多々あるのですが、Halion Sonicはロードが非常に速くストレスなく音色選びができます。もちろん環境によっても多少変わると思いますが、約120MBのアコースティック・ピアノをロードするのもあっという間でした。さらに、プログラム変更時に音が途切れないというのも大きなポイントです。そして、肝心なライブラリーのサウンド・クオリティですが、どのプログラムも本当によくできていて、音の粒立ちが非常に良く、オケの中で埋もれないので即戦力となること間違いないでしょう。そのサウンド・ライブラリーを構成しているのが、4つの音源形式を持つ次世代Halion 4と同様のサウンド・エンジンで、サンプル・プレイバック・モード(画面②)、バーチャル・アナログ・シンセ・モード、ブレイクビーツやフレーズなどのループに使われているスライス・モード、ドラム・キットに使われているドラム・モードがあります。一つのプログラムは最大4つのレイヤーで構成され、レイヤーごとに、ポリ数、ピッチ、チューニング、フィルター、アンプ、エンベロープなどのパラメーターを用意しています。halion_2▲画面② サンプル・プレイバック・モードで、アーティキュレーションを含むOrchestral Stringsのプログラムをロードしたところサンプル・プレイバック・モードは、主に生楽器をはじめとするサンプル・ベースのライブラリーで使用され、大容量プレイバック音源で必須のディスク・ストリーミングにも対応しています。またプログラムのロード時にレガート、スタッカート、ハーモニクスなどのアーティキュレーション(奏法のバリエーション)のサンプルを一回でロードし、その変更を複雑なプログラム・チェンジに設定することもなく、指定されたMIDIノートを弾くことによってできてしまいます。例えば、ストリングス・アンサンブルのプログラムをロードすると、通常奏法のサンプルとともにピチカート、トレモロなどのサンプルも一緒にロードされ、指定されたMIDIノートを弾くとその奏法の音色に瞬時に切り替わります。バーチャル・アナログ・シンセ・モードは、3基のオシレーターに加えて、サブオシレーター、リング・モジュレーター、ノイズ・ジェネレーターが搭載されており、オシレーターはサイン波、三角波、ノコギリ波、矩形波の基本4つに加えPWM(Pulse Width Modulation)、Sync(Synchronization)、CM(Cross Modulation)、XOR(Exclusive or)と呼ばれる4つのアルゴリズムを組み合わせることが可能で、より複雑でバーチャル・アナログならではのユニークな音色を作り出すことが可能でしょう。ドラム・モードは、ドラム・キット専用のモードで、それぞれのパーツにピッチ、パン、エンベロープ、フィルターなど設定可能。サンプル・スライスモードでは、スライスされたループをホスト・アプリケーションのテンポに同期させることもできます。これらのサウンド・エンジンで作られた音は24種類のフィルター・タイプを持つフィルター・セクションに送られます。音に温かみや倍音を加えるディストーション・パラメーターなども用意されていたり、フィルターを最大4つ並行/直列接続して、それを自由にモーフィングすることも可能で、柔軟かつ複雑なフィルター設定ができます。

直感的な操作で音色作りができるクイック・コントロールとトリガー・パッド


いろいろなプログラムを試してみてすごく便利だったのが、8つのクイック・コントロール・ノブ(画面③)です。ハードウェアのワークステーション・シンセサイザーにもよく付いているコントロール・ノブと同じだと思えば分かりやすいでしょう。例えばグランド・ピアノのプログラムを選ぶと、ピアノの音色のカラー、リリース設定、リバーブ量やEQなどが割り当てられます。同様にシンセ・ベースのパッチを選ぶと、フィルターのカットオフ、レゾナンス、フィルター・エンベロープ、アンプ・エンベロープ、エフェクトのセンド量などが割り当てられ、ドラム・キットを選択すると、各ドラムのレベルや全体のEQ、リバーブのセンド量が割り当てられるといった具合です。このようにプログラムごとに、変更頻度が高いと思われるパラメーターがあらかじめ考慮されて配置されているので、直感的にパラメーターをいじって音色作りが行えます。halion_3▲画面③ プログラムごとに変更頻度が高いと思われるパラメーターがあらかじめ考慮されて配置されている8つのクイック・コントロール・ノブとトリガー・パッド。これにより直感的にエディットしていけるまたHalion Sonic上にあるすべてのパラメーターを自分でセッティングすることも可能。割り当てたいパラメーターのノブ上で右クリック(Macではcontrol+クリック)で、すぐにアサインできるのですごく直感的です。ノブの名前もその部分をクリックするだけですぐに変更することができました。そしてその左にあるのがトリガー・パッドで、任意のノートを当てはめて、ドラム・キットを作ったり、コードを割り当てるなんてことも可能です。操作は同様に右クリックで行います。 膨大なプログラムやパラメーターをいじっているうちに前の方が良かったなんてことがたまにあったりしますが、 ソフトウェアの中にアンドゥ/リドゥ機能が付いているので、前後10操作まで行き来することが簡単にできます。この機能のおかげで、納得いくまでパラメーターをいじることができそうです。

ミキサー部分はCubase 5と同等の16種類のエフェクターを内蔵


Halion Sonicの目玉機能の一つとも言えるFlex Phraseは、11種類の楽器別カテゴリー+各スタイル、ジャンルなどに分けられたアルペジオやフレーズ、ビート・パターン、打ち込みでの再現が難しいギターのカッティングやスライドなどの奏法などを約1,200以上、指一本で本格的なフレーズが演奏可能となるコンストラクション・セットを300以上、合計1,500以上を誇るパターン・ライブラリーです(画面④)。実際に使ってみると、ピアノやキーボードのプログラムでは、鍵盤が得意でなくてもバッキング・フレーズやリフなどがすごく簡単に作成でき、ここから曲のアイディアを得たり、偶然的なフレーズを狙うというような使い方などいろいろなことができそうです。個人的にすごくうれしかったのは、いつもハープやストリングスのグリッサンド奏法をシミュレートしようとすると、打ち込みがすごく大変だったのですが、そのパターンもフレーズとして入っているので鍵盤でルート音を指定するだけでリアルに、しかも一瞬で再現できてしまいました。halion_4▲画面④ プルダウン表示されているのが豊富な内蔵パターンの一例。Flex Phraseには1,500以上のアルペジオやフレーズなどのパターンが搭載されているHalion Sonicは16chのマルチ音源なので、1台で16種類のプログラムを一度に扱うことができます。それをミックスするのがミキサー部で、レベル、パン、エフェクト・センド、出力チャンネルの設定などが行え、エフェクター部にはCubase5と同等の16種類が内蔵されており、EQからコンプ、リバーブ、アンプ・シミュレーターまで、音源付属のものとは思えないクオリティでこのミキサー内で相当なところまで音色を詰められるだろうと思います。Halion Sonicは多彩で強力な機能がたくさんあるソフトウェア音源の中でも、直感的で非常に分りやすく、あたかもハードウェアのシンセを触っているかのような錯覚を感じるほど素晴らしい操作性だと感じました。ハードウェアのような制約が無い分、複雑になりがちなソウトウェア・シンセ全盛の時代には珍しいのではないでしょうか。また、クイック・コントローラーやアーティキュレーションの切り替え、ロードの速さ、ロード時に音が途切れないなどの素晴らしい特徴を生かしてライブでの使用にも十分耐えられる仕様になっている印象を受けました。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年11月号より)
STEINBERG
Halion Sonic
30,000円(通常版)20,000円(アカデミック版)
▪Windows/Windows Vista/Windows 7、Pentium/Athlon Dual Core 2.0GHz以上、2GB以上のRAM、Direct X/ASIO対応デバイス ▪Mac/Mac OS Ⅹ 10.5.5以降/10.6(Intel Core Duo 2.0GHz以上)、2GB以上のRAM、Core Audio対応デバイス