さまざまなソースをハイファイで温かく収音する超小型リボン・マイク

SE ELECTRONICSVoodoo VR1
オールマイティに使えるリボン・マイク

SE ELECTRONICS Voodoo VR1 オープン・プライス(市場予想価格73,500円前後)お久しぶりです。エンジニアの渡邊修一です。レビューを書かせていただくのは久々ですね。以前本誌で「Mic Rec Tutorial」というコーナーを担当していたときにはstudio TERRAに所属していたのですが、スタジオの閉鎖などがあり今はフリーでエンジニアをやらせていただいています。studio TERRAにはさまざまなマイクがそろっていたこともあり、あまりマイクで悩むことがなかったのですが、フリーになると、限られた種類の中で録音をしなければならないことも多いので、"本当にマイクって重要だなあ"とあらためて感じているところです。そんな中SE ELECTRONICSのリボン・マイク、Voodoo VR1を試す機会をいただきました。

アルペジオはノイズが少なくフラットコンデンサー・マイクと同等の出力レベル


個人的に興味があるので目に止まりやすいのかもしれませんが、最近各社からリボン・マイクの新製品のリリースが多いように感じます。リボン・マイクと言えば、値段は高い、取り扱いは難しい、保管も大変で大音量や吹かれに弱いというのが昔の印象ですが、最近では値段も安くなり取り扱いも難しくなく気軽に使えるようになってきていると思います。それでは本機はどうでしょうか?まず本機を木箱から取り出してみると、思っていたより小さめ。Webサイトで写真は見ていたのですが、想像より二回りほど小さいです。実際に計ってみると高さ13cm、幅3cm弱、奥行き2cm弱で、正直こんな小さいマイク、あまり見たことがありません。その割にずっしりと重さもあって、本体にはスイッチ類なども無くシンプルでしっかりとした頑丈そうな作りになっています。見た目は長方形でカクカクした感じ。つや消しブラックのデザインはシックな印象で好きなのですが、問題の音を試してみなければ......と言うことで、今回はアコギと弾き語りを録ってみました。 まずはアコギですが、今回は普段よく使うAKGC451と比較です。Voodoo VR1と並べて立てようとしたら、マイク同士が磁力でくっついてしまいました。ものすごく磁力が強いようです。とは言え、これほど小さいとセッティングがとても楽。ショック・マウントのサスペンションも付属し、それもしっかりとした作りで好感が持てます。最初にアルペジオを録音した感じでは、両方の出音の印象はあまり変わらず、とても似ていると思いました。もちろん細かい所で音色に違いはあるのですが、パッと聴いた印象ではほとんど区別が付かないほど似ています。低域もきちんとあって軽い感じも無く、クセがなくフラット。そこで分かるのは、Voodoo VR1は、ノイズも少なくレベル的にもほぼコンデンサー・マイクと同じように扱えるということ。リボン・マイクと考えると、非常に楽ですね。続いてコード・ストロークを録ってみると、違いが出てきました。本機の方がピーク成分やアタック、高域が抑えられているようです。これは一般的なリボン・マイクの特徴で、一聴した印象だと丸めの音に感じるかもしれませんが、EQで上げればきちんと高域も出てきます。低域が膨らんだり、モサッとしたところやモタついている感じも無く、温かい良い音色です。

コンプ無しでも抑えられた高域温かく自然にレコーディング可能


続いて、アコギとボーカルの弾き語りを録ってみましょう。ここでは、周波数特性的にあまり違いの無いAUDIO-TECHNICA AT4040と比べてみました。しかし、録り音を聴くと随分違った印象になりました。本機と比べると、AT4040は高域の派手さが目立ちます。AT4040で録った音は、派手なオケの中だとちょうどよく出てきて良いのですが、今回試したアコギの弾き語りに関しては、Voodoo VR1の方が良い印象です。ストローク録音時と同じでピーク成分や高域が抑えられ、コンプを使わず録っても良い感じでなじんでいるようです。抜けも良いですね。AT4040は単一指向、Voodoo VR1は双指向と、指向性の違いもありますが、弾き語りのギターのかぶりが本機の方が少なめで、ミックス時など録った後で扱いやすいと思います。ただ指向性が狭いのでしょうか、録音されるサウンドがマイキングによって左右される傾向も感じます。本機は、リボン・マイクにしてはハイファイなサウンドが印象的。リボン・マイク特有の温かい質感もしっかりありながら、奇麗めかつワイドでナチュラルに録ることができると思います。決して個性が強いわけではありませんが、その分オールマイティに使えるのが良いですね。実際にレコーディングの現場で使うことを考えても、変に色付けされて限られたソースにしか使えないマイクより、マイクプリやコンプなどとの組み合わせで色付けして録音しておける本機のようなサウンドの方が、ミックス時も楽だと思います。音圧レベルも130dBとリボン・マイクにしては高いので、個人的にエレキギターのアンプやドラムなどの髙音圧ソース、さらにピアノのステレオ録音などでも使ってみたいと思いました。今回のチェックで初めてSE ELECTRONICSの製品を使ってみて、個人的にコンデンサー・マイクなど同社のほかの製品にも興味を持ちました。同社は今年10周年とのことで、今後も魅力的な製品を作っていってもらいたいですね。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年11月号より)撮影/高岡弘
SE ELECTRONICS
Voodoo VR1
オープン・プライス(市場予想価格/73.500円前後)
▪周波数特性/20Hz〜18kHz ▪指向性/双指向▪感度/1.6mV/Pa −56±1.5dB ▪最大音圧レベル/135dB ▪外形寸法/33(W)×20(D)×126(H)mm ▪重量/226g ▪付属品/オリジナル木製ケース、ショック・マウント、マイク・ホルダー