マイルドな音質はそのままにペダル型で復刻したアウトボードの名機

ROGER MAYERRM 58 Limiter
宅録を行うギタリスト/ベーシストに向けられた音色のリミッター

ROGER MAYER RM 58 Limiter 102,900円デジタル録音が一般的な現在では、マイクプリやコンプレッサーなどのアナログ系アウトボードがサウンドの肝になっているが、レコーディング初心者や我々ミュージシャン・レベルの知識ではどんなコンプ/リミッターが自分に合った音色なのかイマイチ探しにくいというのが現状だ。今回紹介するROGER MAYER RM 58 Limiterは、宅録を行うギタリスト/ベーシストに向けられた音色のリミッターと言っていいだろう。

ラック型リミッターの名機がペダル・タイプになって復刻


外観を見るとペダル・エフェクターのようで、その形からも使い方の自由度の高さを感じさせる。ROGER MAYERといえば今ではギター/ベースのペダル・エフェクターとして有名だが、1960年代に活躍したエンジニアの名前であり、エフェクターや電子機器の設計の達人で、ジミ・ヘンドリックスのアドバイザーとしても有名だ。そして今回レビューするRM 58 Limiterも1970年代に彼が制作した機材で当時はラック・タイプであったが、今回の復刻版ではペダル・タイプになる。主な仕様はプログラム式6段階のアタック/リリース/スレッショルド/アウト・レベルと非常にシンプル。正確に動作するバックライト付きのゲイン・リダクション・メーターも装備し視覚的にも分かりやすい。入出力端子は+4dBと−10dB(ともにフォーン)用のものがそれぞれ個別に装備されている。また電源ユニットも、外部のアダプターを使用することでハム・ノイズの原因となるトランスを本体から隔離し、本体内にもノイズ対策としてレギュレーターとフィルターを搭載するなど徹底した構造になっている。外観から“録音以外にもいろいろ使ってくれ!”という設計思想がうかがえるので、ギター/ベース・アンプでのチェックを重点的に行うことにしよう。今回は関西で大槻ケンヂのツアーがあったので、その際に自分のシステムに組み込んでみた。あまりギタリストに使われることの無いコンプ/リミッターだが、私の場合クリーン・トーンのフレーズやアルペジオ、カッティングなどで弦の粒立ちを良くして音が減衰するまでの音色を安定させるなど、ひずみ系よりはクリーン・トーンにサステインを生み出すための道具として使用することが多く、常にONの状態にしている。いつもは浅めの値に設定するが、それでも入れていない場合とは全く違うサウンドになる。しかし私が普段から使っているコンプは特に個性があるものではない。今回のツアーでは、そのコンプを本機と入れ替えてみた。

中域の抜けがよく元気なサウンド録音時には自然なリミッティングが可能


まずはアウトプットのノブを2時にセット。そしてスレッショルドは絞りきった無音の状態から徐々に上げて行くと、1時くらいの場所でほぼ原音と同じくらいのレベルにそろった。続いてアタックを4、リリースを3に設定して思い切りジャーンと弾き降ろしてみると、正直シビれた。“アンプの種類が変わったのか?”と思わせるくらいコシとヌケが良く、特に中高域の音のヌケが非常に良い。かと言って低域が無くなって聴こえるわけではなく、低域も中高域に引っ張られて伸びている感じだ。一般的にリミッターはスレッショルドを上げ過ぎると少々ひずんだ感じになるが、リダクション・メーターを見ながらコンプが引っかかるか引っかからない程度に調整するとアタック感のある自然な音色になる。言い方が難しいが、いい意味でのオールド感が生まれるのだ。またヘッドルームも非常に広く、アウト・レベルを上げると驚くほどブーストする。ただし、ギター・エフェクターのコンプとはキャラや意味合いが違うので、ギターでは音に元気を出させるバッファー・アンプのような使い方が良いだろう。ベースもアンプで鳴らしてみたが、こちらはリミッターとしてかなり有効。レンジが広がり、アンプにもよるが、低域はかなり締まった感じになる。またベース用のコンプも数多く世に出回っているが、元の音色が変わる製品が多い。しかし本機は原音に忠実にリミッティングされる上、元気のあるサウンドになる。スラップや力強いピック弾きのベーシストには特にお薦めだ。楽器寄りなイメージが強いので、“録音機器としてはどうなの?”と思われるかも知れないが、音質とリミッターの効きも好印象。机に置いても邪魔になる大きさではなく、むしろ手元で操作できるのは長所だろう。モニター・スピーカーとギター/ベース・アンプから鳴らすのとは音色の印象は変わるが、やはり中域のヌケは良くソリッドで、若干UREI 1176のキャラクターに似ている感じもする。リミッティングも楽器で使うときよりもマイルドに感じ、設定にもよるがリダクション時のアタックとリリースのスピード感が自然だ。ペダル・エフェクターととらえると値段は少々高めだが、自ら録音を行うギタリスト/ベーシストには一生モノになるのでは?と思う。rm58_rear

▲リア・パネルの接続部。−10dBV用アナログ入力(フォーン)、−10dBV用アナログ出力(フォーン)、+4dBV用アナログ入力(フォーン)、+4dBV用アナログ出力(フォーン)


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年11月号より)撮影/高岡弘
ROGER MAYER
RM 58 Limiter
102,900円
▪付属品/DCアダプター ▪外形寸法/220(W)×145(D)×58(H)mm ▪重量/1.42kg