走行中のシーケンスを直感的に操作できる小型アナログ・シーケンサー

MFBUrzwerg
ソフト・シンセと組み合わせハード機器ならではのアイディアが生かせる逸品

MFB Urzwerg オープン・プライス(市場予想価格/72,000円前後)決してデジタル系機材を否定しているわけではないんだけれども、年々自分は“アナログ化”している傾向にある。どうやら自分だけでなく世の中でもいろんな人がアナログの魅力に気が付かされているらしい。今回紹介するMFB Urzwerg(ウルツベルグ)はそんな我々を熱くさせてくれる、アナログ・シーケンサーだ。ある意味ではとっくに忘れ去られ不遇の時代を長らく過ごしてきたが、なんとMIDIまで搭載し、また我々の元に戻ってきてくれたのだった!

小型ボディで32ステップのシーケンスCV/Gate端子も実装


機能を見ていこう。本機はアナログ・シンセをコントロールするためのCV/Gate出力に加え、MIDIの入出力も備えた32ステップのアナログ・ステップ・シーケンサー。ボディは実際に見るとかなりコンパクトで軽く、ACアダプターで動く。各つまみから出される電圧は連続可変のため、ビンテージ・シンセのCV規格とは関係無く使える。Gateも電圧/極性の切り替えが可能だ。テストでつないだアナログ・シンセKORG MS-20ではGateの極性を逆にセットする必要があった。32のつまみは4トラック×8ステップ、または2トラック×16ステップに分けて使う。4トラック時も各トラックに独立したCV/Gate端子があり、かなり小さいが右下のDIPスイッチでトラックごとに違うMIDIチャンネルも設定できる。ステップの走行方法はトラックごとに前進/後進/往復が選べ、往復モードにした場合のパターンの折り返し方を決定するDirectionスイッチもある。かいつまんで言うと、8ステップを往復すると16。ただし折り返しの頭とケツを1音だけで折り返せば往復で14ステップ。これを切り替えられるのだ。このほか横一列の8ステップを何ステップで繰り返すかを調整するLengthつまみ、CV/Gateで使った際に各ステップを12音階にクオンタイズするRangeつまみ、ゲートの長さを調整するGateTimeつまみ、ステップごとにそのステップを休符状態にするSkipスイッチ、シーケンス走行中に即座にフレーズをステップの頭に戻させるResetスイッチ、ステップを跳ねさせる2つのShuffleモード、いわゆるポルタメントをかけるGlideつまみなど、小さなボディに盛りだくさんな機能を搭載している。またMIDIを使ってパターンにリアルタイムにトランスポーズをかけられ、同じことがアナログでもできるようにCV INがある。同期にはMIDIクロックとアナログのパルス・クロックが使える。CV CLOCKはここに入ってきたCVの電圧に従ってテンポを決定する端子。テンポは内蔵でも決められるが、小さなつまみの割にテンポの変化幅が広いので微調整は少々難しい。またアナログ・シーケンサーによくある“走るLEDランプ”が無いのが少々残念だ。右の方にあるランプが緑と赤に光り分けることでフレーズの頭のタイミングを知らせてくれるので問題無いが、光が走っていたほうが、気分的なノリが違う。

シーケンスを走行中に切り替えても途切れさせずに次のパターンに移行


いよいよ使ってみる。正しい使い方は無いのだが、例を挙げると、まず1段目の8ステップにメイン・フレーズを仕込み、2段目の8ステップに“おかず”を作っておいてときどき2段目のフレーズを差し込む奏法(これは4トラック/2トラックのモード切り替えで実現できる)。トラックのモードをシーケンスの走行途中に切り替えてもループする最後のポイントまで行ってからパターンが次に移っていってくれるので、フレーズがずれたり途切れないように設計されているのはさすがだ。ほかにはトラックの一部をフィルターなどのモジュレーション用に使うテクニックも有効だ。CVで音源がコントロールできるなら簡単にできる。DAWなどによってAメロ、Bメロ、サビのような展開要素をまるごとプログラミングできるようになってからというもの、その手法をいつしか“打ち込み”と呼ぶようになった。それ以前にあった“アナログ・シーケンサー”は通常8音、あるいは16音というような数の少ないステップ=音符しか持たず、それをグルグルとループさせているに過ぎない。基本的に“ソング”の概念もなく、ひたすら同じメロディを繰り返すのみ。個々の音符の長さも一定で、音程は各ステップのつまみを回すことで決定され、鍵盤で弾いたメロディを記憶させるような概念も無かった。クラフトワークのようなクラウト・ロックがシンセのループした単調なフレーズに固執したのもこういった機械的な制限が理由のひとつだろう。本機はそんな正統派のアナログ・マナーを踏襲しているシーケンサーなのだ。今回のテストで、デジタル時代だからこそアナログ・シーケンサーの復権には意味があるとあらためて実感した。実践的な機能はアナログ・シンセばかりではなく、ソフト・シンセと組み合わせてもハード機器ならではのリアルタイムなアイディアが生かせるだろう。そしてなによりCV/Gateを忘れずに取り付けてくれたMFBには脱帽。アナログ信奉者はもう足を向けて眠れない。MFB_rear

▲リア・パネル。左からMIDI IN/OUT/THRU、電源スイッチ、クロック入力


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年11月号より)撮影/八島崇
MFB
Urzwerg
オープン・プライス(市場予想価格/72,000円前後)
▪構成/4トラック×8ステップもしくは2トラック×16ステップ ▪走行方向/前進&後進14=14ステップ(折り返しステップは1回のみトリガー)、前進&後進16=16ステップ(折り返しステップは2回トリガー)、前進&後進ランダム=14と16をランダムに切り替え ▪外形寸法/317(W)×40(H)×165(D)mm ▪重量/700g