最低限のモジュールで独特の音が出せるコンパクトなアナログ・シンセ

MFBNanozwerg
デジタルでは一歩及ばないアナログならではの音

MFB Nanozwerg オープン・プライス(市場予想価格/32,800円前後)今回レビューさせていただくのは小型、軽量、低価格なシンセ、MFB Nanozwergであります。今では携帯電話の中にでさえシンセが入ってしまう時代ですからそれほど驚かないかもしれません。でもNanozwergはアナログ・シンセなのであります。アナログが、この大きさで、しかも3万円台ですって? 一体誰がそんな無謀とも言えることを? というわけで開発元のMFBについて少しご紹介しましょう。ドイツはベルリンを拠点とするMFB。代表兼開発者であるマンフレッド・フリンケ氏が創業間もない1979年にリリースした格安リズム・マシン・キットは、安いけれどなかなか良い音ということでかなり評判になったそうです。その後も各種の電子楽器をリリースしますが、どちらかと言えば並行して1980年代中期から手掛けたパソコン上で動くビデオ関連のハードやソフトなどでの活躍の方がビジネス的には利益を出したようです。ともあれ重要なことは、フリンケ氏はアナログでもデジタルでもハードでもソフトでも筋金入りのエキスパートであり、この30年ほどの間、常に熱意を持って研究開発を続けてきた人だということです。この10年だけで見ても、実に多彩なシンセ、リズム・マシン、シーケンサーが世に送り出されていますが、それらのひとつひとつがほかにないユニークな面を持っており(それゆえいささかマニアックと言われたりもしますが)、それでも結果的に確実にMFBファンの増殖に貢献してるのです。そんなMFBが発表したNanozwergを早速詳細レビューすることにしましょう。

各モジュールが無駄なく最大限の効果を引き出せるような作り


Nanozwergはモノフォニックのアナログ・シンセです。箱から出してまず目をひくのは大きさ。ちょうどCDを3枚くらい重ねた程度(つまみの出っぱりは含まず)の厚さしかないので、机の上にポンと置いてあっても全然邪魔な感じがしません。電源はアダプターのみ。理論的には電池化もできないわけじゃないのだろうけど、多分ボディのサイズをこれより大きくしたくなかったからだと思います。実際もし現状の1.5倍の大きさで電池対応版が出ても筆者はアダプターの方がいいです。それくらいこの大きさはジャスト・フィットだと思います。
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▲図1 すべての基本モジュールは1個しか無いにもかかわらず、どれも無駄なく最大限の力量が発揮できるようなルーティングになっている。一見初心者専用に思うかもしれないが、マニアックな人にも納得の仕様だ(図版作成/筆者)


では実際に音を出しながらNanozwergのレビューに入りましょう。まず内部構成がなかなかどうして全く侮れない構成になってます。ブロック図を載せておきますのでそちらを眺めながら読み進めてください(図①)。基本は1VCO/1VCF/1VCA/1LFOに1EGですので標準的入門機的というところ。ただシンセのキモは変調ルーティンにアリですから、VCOが複数あっても変調経路やソースが少なければ(そういうモデルは実に多い)大したことはできません。本機をその面からあらためて見直してみると、実に無駄なく各モジュールが最大限の効果を引き出せるよう練り上げられていることがよく分かるでしょう。まずはフィルターをオープンにして素の状態で各種VCO波形を聴いてみたところ、何ともクセの無い良い音が出てきたのでビックリ。当たり前の話なのだけど、実は正直、価格的にそんなにうまい話にはならないだろうと思っていたのですね、筆者が。完全にナメていた自分に喝です。波形はノコギリ、三角、矩形、パルス。どれも非常に素直な音で、多分波形は相当奇麗なのだと思います。特に低域における矩形波はアナログ特有の厚さと粘りがあり、一発で気に入りました。本機にはサブオシレーターがあり、オクターブ下、2オクターブ下、2オクターブ下に5度を加えたものの中から、ひとつをメインのオシレーターに任意の量で混ぜ合わせることができます。サブの波形はメインの波形が何であれ矩形波固定なので、メインとサブを合わせる際にはメインは矩形波以外を選択すると面白い波形ができます。2オクターブ下をわずかに加えるだけでも効果はてきめん。何かと使い道があるものです。ちなみに5度の波形を選択し、そのまんま短いディケイにするだけで、ほぼROLAND TR-808のカウベルの音になります。次にLFO。本機におけるLFOは非常に重要な鍵を握ってます。まず基本説明をすると、波形は三角、ノコギリ、矩形、S/H(ランダム)。簡単に書いてますが、この価格帯でこれだけそろっているのは豪華です。加えてワンショットがあります。これは鍵盤からの合図をきっかけに1周期だけ波形を再生します。打楽器系やSE系の音で重宝しますね。MFBってリズム・ボックスとか作ってますから、そちらからのノウハウでしょう。で、一番のウリは速度。これが良くできていて、最低から最速までをひとつのつまみでシームレスに変化させることが可能なのです。普通はスイッチで切り替え式にします。この方が一目盛り回したときの分割量が細かくできますから、当然音作りにも反映することができる。でもリアルタイムで音を出しながらジャムるときは断然ひとつのツマミがよろしい。Nanozwergは音色メモリーがあるわけではないので、ここは割り切り。で、重要なのはそんなLFOをどう使うかです。まずは普通の速度範囲でVCOにビブラートとして使うか、PWMというのがひとつ。もうひとつはそのままグイっとLFOスピード・ツマミをあげてやるだけで見事に高速FM変調が実現できること。つまりミョミョってビブラートからだんだん高速に向かうにつれ、臨界点を超えるとガキューンと金属系の鐘の音になるというわけ。多分お店で試奏する人はここまで試しただけで“すみません、これください”になると思います。いや、ホントすごいですよ、このガキュ~ンは。てな具合にまくし立ててきましたが、ここまで登場したのはVCOとLFOだけ。お楽しみはまだまだ続きます。

CV系を削らずにコスト・ダウンを実現しGate、VCA、VCFなど多彩な入出力


Nanozwergはモノフォニックのアナログ・シンセです。箱から出してまず目をひくのは大きさ。ちょうどCDを3枚くらい重ねた程度(つまみの出っぱりは含まず)の厚さしかないので、机の上にポンと置いてあっても全然邪魔な感じがしません。電源はアダプターのみ。理論的には電池化もできないわけじゃないのだろうけど、多分ボディのサイズをこれより大きくしたくなかったからだと思います。実際もし現状の1.5倍の大きさで電池対応版が出ても筆者はアダプターの方がいいです。それくらいこの大きさはジャスト・フィットだと思います。フィルター・セクションはゴージャスにもLP/BP/Notch/HPのマルチモードです。まずカット・オフの滑らかさはアナログ特有のものだし、レゾナンスを加えていく際のモッコリ具合も非常に良好。圧巻なのは、このフィルターは−12dBであるにもかかわらずしっかり発振します。いきなり発振するわけではなく、次第に無理なく発振するのでとても幅広い音作りができます。このフィルターはすごく設計が上手。例えば発振させたBPフィルター(4タイプすべて発振します!)上でカット・オフだけを変更していけば、キックからタム、カウベルといった基本音が次々作れてしまいます。つまみをどこに設定しても何らかの音楽的な音が出るというのは、ほかのアナログ・シンセでもなかなか無く、思わず“Nanozwergは10年後のビンテージ殿堂入り確定なんじゃ?”とつぶやいてしまいました。さらにVCOでも述べた高速LFO変調がVCFにも適応可能。こちらではVCO>VCF、あるいはLFO>VCFという経路が使え、ぜいたくです。VCO>VCFができるのはめったに無いのですが、特に本機は発振させた4つのモードに対して使えるので盛りだくさんの音の出来高は間違いないです。またLFO>VCO>VCFという流れで変調もできるのはここでも少ないモジュールを無駄なく使い切ることができる上、奇妙奇天烈な音を奏でてくれ面白かったです。ところでこのVCFは外部オーディオ信号を入力できるのですが、これが大変新鮮。ストレートに各種フィルターをかけるのも良し、積極的に変調をかけて加工するのも良し。プラグインでは味わえないアナログならではの質感が堪能できると思います。コントロールはMIDIとCVが使えますが、この大きさでMIDI-CVコンバーターが内蔵されてるってすごいです。ノート、ピッチ・ベンドはもちろんモジュレーション・ホイールでカット・オフとLFOスピードをコントロール可能。本機にはLCDディスプレイや数字LED、音色メモリーなど“あれば便利だけど無くても支障はない” 装備や機能は当然ナシ。なのでMIDIチャンネルはどう指定するかと思えばLFOの波形を長押しするとLEDが点灯して分かるという仕組み。またVCASelectとフィルターのSelectを同時に押すことでモジュレーション・ホイールのオン/オフも可能です。CV系はコスト・ダウンを考えると真っ先に削られそうですが、CV/Gate/VCF/VCA入力に加え、LFOはOut端子も装備されてますから立派です。ちなみにMFBからはアナログ・シーケンサーやドラム音源などがそろっているので、必要なモデルを予算に合わせて買い足してMFBモジュラー・シンセサイザー王国を構築してみるのも楽しいでしょう。ほかにもVCAのコントロールにエンベロープとオルガン・モードの選択やグライド、もちろんノイズも搭載されてます!今回のレビューでひときわ印象深かった音はベース系、FM(SE含む)系、パーカッション系の3つです。特にFM系で聴ける金属系の響き、パーカッション系の音圧&密度などはいずれもデジタルでは一歩及ばないアナログならではだと感じました。あえて突っ込めばNanozwergはどんな音でも出せる仕様じゃありません。でもこの仕様の範囲内で出せる音はみんな使える音ばかりです。だって1,000音色メモリーにあっても使えない音ばっかりのシンセ、ありますよね? そういうのはナシにして、最低限度のモジュールだけを使った少数精鋭でどこまで行けるかやってみようじゃないかってのがコンセプトだと思いますし、そのもくろみは120%達成できていると思います。ズバリひと言。これは安い買い物となるはず。nanozwerg_rear

▲リア・パネル。左からMIDI In、LFO Out、LFO In、VCA In、VCF In、Gate In、CV In、電源


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年10月号より)
MFB
Nanozwerg
オープン・プライス(市場予想価格/32,800円前後)
▪入出力端子/CV In、Gate In、VCF In、VCAIn、LFO In/Out、Audio In/Out ▪外形寸法/140(W)×45(H)×130(D)mm ▪重量/約300g