真空管/FETサウンドを1度の録音で得られるコンデンサー・マイク

SE ELECTRONICSGemini 5
両回路の音が同時出力される画期的コンデンサー・マイク

SE ELECTRONICS Gemini 5 オープン・プライス(市場予想価格/115,500円前後)音の入り口である超アナログな、そして最も基本的な機材がマイクロフォン。日進月歩するプラグインを尻目にマイク・メーカーは何を進化させるのか? どこに目標があるのか? そんな中、非常に気になる新製品SE ELECTRONICS Gemini 5がリリースされました。

真空管/FET回路の違いによる音の距離感の差を実感


何とこのGemini 5は、FETと真空管それぞれの回路を通った音が同時出力されるという画期的なコンデンサー・マイクです。音を拾うダイアフラムは共通ながら、信号を増幅させるアンプ部を2基搭載。また、真空管のための電源部を持っており、FET回路用のファンタム電源も供給するので、インターフェースなどからの電源供給は必要としない仕様になっています。また、その電源部には専用ケーブルの入力端子と、真空管/FETそれぞれ独立した出力端子を持っています。ダイアフラムには既に定評のあるGemini Ⅱと同じものを使用。いずれにせよ、初めて使用するタイプのマイクなので、非常に興味がわきます。届いたパッケージを開けると、しっかりとしたフライト・ケースに電源部、マイク本体、専用ケーブル、そしてNEUMANN製に似たがっちりとしたサスペンションが収納されています。早速、真空管とFETの音の違いを確かめるべく、現場に持ち込んでみました。私はこれまでマイクやヘッド・アンプをレビューした際に、幾度となく“音の距離感”について書いてきましたが、本機の試聴時にも同様の感覚がありました。Gemini 5で言うならば、真空管の方が実際にマイクから離れている音源もしっかりと太い音で録れるように感じます。それに対し、FETの方は近接効果があるというか、遠くの音源はそれなりに遠くに感じられます。ポーラパターンでの角度による周波数特性を見ると分かるのですが、真空管とFETでは若干の違いがあります。要するに音の回り込みやかぶりは、ダイアフラムやマイク自体の構造の違いだけでなく、増幅アンプによる影響も大きいということです。“だから、マイクやヘッド・アンプを変えるだけで音の距離感が変わってくるのだ”とあらためて考え直し、いろいろな記憶が結びついたわけです。

真空管は女性ボーカルにFETはアコギに向くサウンド


Gemini 5に話を戻します。要するに、先述したような真空管/FETでキャラクターが異なる録り音を、一度のレコーディングで得られるというわけです。トラック数に余裕があれば、両方の回路を通ったサウンドを2トラック分同時録音しておき、ミックス時に選ぶこともできるでしょう。今回はスタジオで弾き語りのボーカル・マイクとして使用してみましたが、真空管の録り音は低域に量感があり、その分スピードが若干遅く感じられました。一方のFETは、決して低域が少ないということはないのですが、やはり中高域に元気があるように感じました。個人的には、ボーカル単体の録り音としては真空管の方が好みでした。特にオンマイクでの女性ボーカルに使用すると好感が持てるサウンドが得られます。シャウト系よりも、ボソボソと語るようなボーカルの方が色気が出るでしょう。一方のFETはシャキっとしていて、アコースティック・ギターのカッティングなどに向いていると思いました。また今回、同時に試してみたGemini Ⅲ(オープン・プライス/市場予想価格189,000円前後)は限定生産モデルですが、これは本当にすごい! この価格帯ではダントツのパフォーマンスを持っていると断言できます。レンジ感が素晴らしいし、真空管ならではの柔らかさとファットさを併せ持つ申し分ないサウンド。また、同じシリーズのG3500(オープン・プライス/市場予想価格84,000円)はGemini 5でのFETサウンドとほぼ同等に感じられました。se_rear

▲付属の専用電源部は、真空管/FETそれぞれ独立したアウトプット(XLR)を備える


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年10月号より)撮影/川村容一(電源部)
SE ELECTRONICS
Gemini 5
オープン・プライス(市場予想価格/115,500円前後)
▪指向性/単一 ▪周波数特性/30Hz〜20kHz ▪インピーダンス/200Ω以下 ▪入力感度/25.1mv/pa -30 ±1.5dB(真空管)、31.6mv/pa -30 ±1.5dB(FET)▪等価ノイズ・レベル/18dB(A weighted:真空管)、16dB(A weighted:FET) ▪外形寸法/62(φ)×203(H)mm ▪重量/1kg