表現力豊かな音源と"ライブな"新機能を備えた音楽制作システム

PROPELLERHEADReason 5 & Record 1.5
ユニークなコンセプトが光る音楽制作システム

PROPELLERHEAD Reason 5 & Record 1.5 Reason 5:オープン・プライス(市場予想価格/30,000円前後) Record 1.5:オープン・プライス(市場予想価格/30,000円前後) 2000年に正式発表されて以来、そのユニークなコンセプトと技術で世界中のクリエイターたちを魅了し続けてきたPROPELLERHEAD Reasonが、このたびバージョン5にアップデートされました! バージョン・アップのたびに驚くべき新機能を搭載してきた本シリーズだけに今回も楽しみです! また、Reasonとの強力なコンビネーションを誇るレコーディング・ソフトRecordもバージョン1.5にアップデートされましたので、併せてレビューしていきます。

楽曲をブロック単位で素早く構築サンプリング機能も充実


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▲画面1 シーケンサーに表示させたブロックス・ビューにIntro、Aメロ、Bメロ、Cメロ、Intro......とブロックを並べて楽曲を構成


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▲画面3 ライブ・サンプリングはNN-TXやNN-19など全サンプラー・デバイスで実行でき、エディター画面で編集可能


Reasonについて既に詳しい方もいらっしゃると思いますが、これから触る方のためにも、あらためてReasonとは何かを説明していきましょう。まず、開発元のPROPELLERHEADはSTEINBERG Cubaseなど、先端的な音楽ツールの開発者たちが中心となり設立された企業です。ポテンシャルの高かった同社は創業から時を経ずして、音楽業界に大きな影響を与えた画期的なソフト、Recycle!をリリース。このソフトは読み込んだサンプルの波形が持つピークを検出し、その部分をスライスするという機能を持ちます。ドラム・ループの中で鳴っているスネアやキックといったものを分解してくれるようなイメージですね。さらに、スライスされたものは個別に編集可能。また、“ループのどの部分をどのようにスライスしているか”というスライス情報をMIDIデータとして内包した“REXファイル”は、今や数々のDAWで扱うことができ、クリエイターたちの重要サンプルとなっています。そのほか、同社はソフト・リズム・マシンの先駆けRebirth RB-338など、現代のコンピューターによる音楽制作の基礎となる製品や技術を世に送り出してきました。そして2000年、これらのテクノロジーの集大成として、Reasonを正式発表するに至ったのです。さて、ReasonはいわゆるDAWとは違い、標準搭載されているサンプラーや音源などのデバイス以外は、外部のソフト音源やプラグイン・エフェクトを追加することができません。制限された環境で完結させるという点にポリシーを持ったソフトと言えます。私見ですが、音楽制作というものは適度に制限のある環境下での方が、作り手がよりクリエイティブになれる傾向があります。ハード・シンセが今より高価だった時代には、やっと手に入れた1台のシンセを徹底的に触って、欲しい音が出るまで頭をひねったものです。“これ1台でどんな音でも出してやる”といった姿勢で音楽と向き合っていたあの感じが、Reasonのポリシーの中にはあるのではないでしょうか。Reasonの概要をひとしきり紹介したところで、いよいよ本稿の主題であるバージョン・アップの内容について見ていきましょう。まずは、今回のトピックである内蔵シーケンサーの新機能、ブロックス(画面①)を紹介します。これは“楽曲をブロックに分けてアレンジしていこう”という発想の機能です。まず、Reason内の各デバイスでAメロやBメロ、サビなど、楽曲の構成要素であるブロックを作成します。次に、シーケンサーの画面をソング・モードからブロック・モードに切り替え、ブロック・ビューをオープン。そこにブロックを配置していくと、素早く楽曲を構成することができるというわけです。新たに加わったミュート・ツールを使えば、ブロック内で演奏される各パートをミュートすることができるので、キックやベースを抜いたブレイクを作ったりするのも至極、簡単。なお、ブロック・モードとソング・モードはシームレスです。そのため、例えばブロック・モードでブロックに新しいパートを追加すれば、その変更がソング・モードのパターン・レーンに配置されたブロックに反映されます。また、ブロックをパターン・レーンに並べた後でリズム・パートにフィル・インを加えるなど、ソング・モードからのブロック編集も可能。Reasonの作曲機能が格段にアップした印象を受けますね。また、従来のユーザーもその便利さを知ると、“マジで?”と目を丸くしそうな、まさしくバージョン5の目玉機能と言えるのがライブ・サンプリング(画面②)です。DAW台頭を受け、サンプラーはハードからソフトへ、その姿を変えてきました。ユーザー側も当然、サンプル集から素材をロードして使ったりと、サンプラーの使い方を変化させてきたと思います。ただ、便利になった反面、ハード・サンプラー時代に楽しめた偶発的でクリエイティブな機会というのは減ったのではないでしょうか? そこで、そういった創造性を復活させようと考案されたのが、本機能なのです。今回のバージョン・アップではオーディオ入力機能がついに採用されたので、あらゆるサウンドをReasonの各サンプラー・デバイスに直接、サンプリングできるようになりました。さらに本機能ではサンプラー走行中に別途、新しい音をサンプリングし、即座に編集/演奏することが可能。しかも、その過程が非常にスムーズなので、制作時のインスピレーションを損ないません。また、サンプラー走行中であろうとも録音が途切れたりすることは無いでしょう。ライブ時は、その場で録音したサンプルを使ったパフォーマンスなど、現場の空気を生かした演奏が意のままに行えるでしょう。

REXファイルを最大8つ読み込み可能ループをパターン的に扱うプレーヤー


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▲画面3 新しいREXプレーヤーのDr.Octo Rexは、最大8つのREXファイルを読み込むことができる。各ファイルのループ・フレーズを曲中で切り替えることで、複雑なリズム構成を組めたりと、アレンジの方法が広がった


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▲画面4 Kong Drum Designerのトップ・パネルにあたる部分は、好みの画像を入れてデザインをカスタマイズすることができる


ここまで新機能を見てきましたが、新しく追加されたデバイスにはどのようなものがあるのでしょうか? まずは看板デバイスから見ていきます。REXプレーヤーのDr.Rexは今回Dr.OctoRex(画面③)に生まれ変わり、1台で最大8つのREXファイルを読み込めるようになりました。これで、ループをパターンのように扱えるようになったので、アレンジの幅が大きく広がったのです。例えば、シーケンス画面のパターン/ループ・レーンから、1台のDr.Octo Rexに同じ音色で異なる演奏内容を持つドラム・ループを幾つか読み込ませると、そのほかのインストゥルメントの演奏に合わせてドラム・ループを切り替えていくことができます。また、シーケンサー走行中に新しいループを作ることができ、そのままそのループを使用することが可能。もちろん、新しく打ち込んだループから任意のタイミングで、本来のループに戻ることも容易です。これらの機能により、状況に応じて演奏を変化させることができます。トリガーにも対応しているので、アグレッシブなライブ・パフォーマンスを実現できそうです。次に、ドラム・デバイスとしては新しくKong Drum Designer(画面④)が追加されました。インターフェースのデザインがAKAI PROFESSIONAL MPCシリーズにそっくりというだけでテンションが上がります。本稿では、インターフェース画面上に描かれたロゴ・マークにちなみ、KongDrum Designerを“Kong”と呼ぶことにします。Kongは大別して2つのセクションから構成されます。1つはパッドを中心としたメイン・セクション、もう一方はドラム・モジュール・セクションです。前者が持つユニークな機能と、後者に用意された素晴らしい音源を早速、使ってみました。ところで、このようなパッド型ソフトでは、マウスでパッドをたたく際に、ベロシティのコントロールができないことが多くなかったでしょうか? ですが、Kongはパッドをたたく位置でベロシティを変化させることができるという、独自の操作系を持ちます。コンピューターのみを用いた打ち込み作業が考慮されている点はさすがですね。パッドの右側に位置するPAD SETTINGSというエリアには、指定した複数のパッドをグループとしてまとめ、特定の演奏パターンの中で扱える機能、“PAD GROUP”が備えられています。PAD GROUPは、演奏パターン別にMUTE×3/LINK×3/ALT×3の、計9グループをそろえています。MUTEはグループ内のいずれかのパッドをたたくと、ほかのパッドが自動でミュートされるという機能を持ちます。例えばこれは、ハイハットの打ち込みなどに効果的です。クローズド・ハイハットの音色がアサインされたパッドをたたくとオープン・ハイハットのサステインが完全に消えるので、キレのあるリアルなハイハットのプレイを再現できるというわけです。LINKでは、グループ化されたパッドのいずれかをたたくと、グループ内すべてのパッドを同時に鳴らすことが可能。複数の音色をミックスするレイヤー演奏などに重宝するでしょう。ALTは、グループ内のパッドにアサインされた音をランダムに鳴らせるグループです。例えば、ボイス素材などを利用した奇抜なパターンを作るときに力を発揮します。

80'sシンセ・ドラム風から生音系まで多彩な音作りを実現するドラム音源


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▲画面5 Support Generatorsはドラム音源モジュールの後につなぐエフェクターの一種。NOISEとTONEの2種類が用意される。音に絶妙な味付けをし、質感を持たせる


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▲画面6 9種類のエフェクト群はKong DrumDesignerのFX1、FX2、BUS FX、MASTER FXといった部分にアサイン可能


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▲画面7 アナログ・モデリングのドラム音源モジュールは各パラメーターをツマミで操作。シンセ・ドラムであるにもかかわらず、設定次第では生音ライクにも作り込め、表現の幅が広い


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▲画面8 生音モデリングのドラム音源モジュールは、実際のドラムを描いたグラフィックを指し示すように、各パラメーターが並ぶ。胴なのか、ヘッドなのか、どこを調整しているのか一目で分かるという扱いやすさが魅力だ


Kongの神髄であるドラム・モジュール・セクションには、9種類のドラム音源モジュールが搭載されており、あらゆるタイプの音色を作成可能です。モジュールはタイプ別に、アナログ・モデリングと生ドラム・モデリング、シンプルなマルチレイヤー・サンプラー、そしてREXプレーヤーの4種類が用意されています。さらに、各モジュールで作ったサウンドにさりげない味付けを施せる2種類の“Support Generators”(画面⑤)や9種類のエフェクト(画面⑥)を駆使することで、好みのドラム音源を追求することができるでしょう。アナログ・モデリング・モジュールは全4種類がそろいます(画面⑦)。まず、“Synth Bass Drum”ではドラムンベース風の長い余韻を持つキックからアタック感のあるハウス系のキックまで、自在に作成できました。なお、各モジュールには、音作りを行うためのツマミが備えられています。モジュールごとにツマミの種類は異なりますが、“Synth Bass Drum”の場合はPITCHやTONE、ATTACK TIMEなどが調整できます。すべてのツマミが使いやすく、密接にかかわり合っているようで、バリエーションに富んだ音作りが可能です。次に、“Synth Snare”では、“HARMONIC FREQ” “HARMONIC DECAY” “HARMONIC BALANCE”というツマミで倍音を操作可能。シンセ・スネアであるにもかかわらず、胴鳴りのような響きを付加することができました。そして、“Synth Hi-Hat”は、リング・モジュレーターのツマミ、“RING”を駆使すれば、非常に音のバリエーションに広がりが出ます。“Synth TomTom”はSIMMONS製エレクトロニック・ドラムをほうふつさせる、レゾナンスが効いたサウンドから、生のタムのようなどっしりとした音まで幅広くカバー。“Bend Amount”や“Bend Time”などのツマミで、シンセ系~生音系まで、劇的な音色変化が楽しめます。これらのモジュールが持つパラメーターのセレクションからは、ソフト制作側がシンセのポイントを心得ていることが伝わってきます。ここまで多彩な音色が作れるとは思っていなかったので、その完成度には驚かされます!一方、生ドラム・モデリング・タイプのモジュール(画面⑧)はどのようなサウンドを提供してくれるのでしょうか? まず、全3種類のモジュールには実際のドラムのグラフィックが描かれています。各パラメーターのツマミはこれに対応して配置され、どの部分の鳴りを調整しているのかを見た目で把握しやすい仕様になっています。キックの“Physical Bass Drum”では、ビーターの特性や胴鳴り、ドラム・ヘッドのチューニングなどを調整し、ジャズ~ロックにまで対応する、生音そっくりの音色を作れました。次に、“Physical Snare Drum”はトップとボトムのピッチやエッジ部分のチューニング、スナッピーのテンションなどをエディットすることで、狙い通りのスネア・サウンドを作れると思います。“Physical Tom Tom”ではSIZEやTUNEなどのツマミを調整し、フロア・タムからハイタムまで、多彩な口径のタム・サウンドを再現可能。スティックの打撃音が変えられるのが面白いと思いました。生ドラム・モデリング・タイプのモジュールは、個性的なパラメーターが魅力です。エフェクトを併用しながら作り込むと、イメージ通りの音作りができるのではないでしょうか? 気が付けば、筆者もエディットに夢中になってしまいました。

作曲機能でReason 5と連携ピッチ補正ソフトも備えたRecord 1.5


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▲画面⑨ Record 1.5にはレコーディング機能のほかに、LINE 6製アンプ・シミュレーター・デバイスなど、作曲に活用できるツールが満載


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▲画面10 アナログ・コンソールの名機、SSL XL9000Kを独自にモデリングしたミキサー。見た目の迫力だけでなく、サウンドの質も高い


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▲画面11 ピッチ補正/ハーモニー生成ソフトのNeptuneを使用するときは、まず中央左上の"INPUT"で入力音に合わせた設定を行う。中央の"SCALE"からは6種類のスケールを選択可能。"ROOT"ではキーを設定することができる


さて、Reason 5はいかがでしたか? ここからは同時にアップデートされたRecord 1.5(画面⑨)を見ていきましょう。このソフトは誰でもすぐにレコーディングを始められるよう、実用的に設計されています。アナログ・コンソールSSL XL9000Kをモデリングした高品位なミキサー(画面⑩)をはじめ、音質に優れたプロセッサーを幾つも実装し、ハイレベルな作業が可能です。また、Record 1.5にもReason 5同様、ブロックなどの新機能が搭載され、使い勝手が向上しました。Record 1.5の最大の特徴は、Reason 5との連携性の高さです。Record 1.5にも内蔵シーケンサーやLINE6製アンプ・シミュレーターのデバイス、マルチ音源ID8といった、高い作曲機能が搭載されています。しかし、より充実した音源やエフェクトを使いたいときは、Record 1.5と同じコンピューターにReason 5をインストール/設定すれば、ReWireを使う必要もなく、Reason 5の全デバイスをRecord 1.5に立ち上げることができます。しかも、Reason 5で作成したソング・ファイルを開き、Record 1.5で作曲の続きを行うことも可能です。例えば、曲のスケッチをReason5で作っていたとき、さえたフレーズができれば、Record 1.5でそのファイルを開き、歌や楽器類を録音、そのままミックス・ダウンまで完了させてしまう、という流れです。また、他社のDAWなどのホスト・アプリケーションとReWireで同期させることも可能です。Recordのデバイスとして新しく追加された、ピッチ・アジャスター/オーディオ・トランスポーザー/ボイス・シンセのNeptune(画面⑪)も興味深い部分ではないでしょうか? Neptuneは最近注目されている、いわゆるボーカル向けのピッチ補正/ハーモニー生成用のエフェクターです。ユニークなことに、Neptuneで補正している音はスケールに追従すると同時に、MIDIも受け付けます。どうしても自動でピッチ補正していると別のノートに飛んでしまうときは、その部分のみMIDIで強制的に補正するという便利な使い方ができてしまうのです。Neptuneはエフェクトのかかり具合も抜群で、録音されたボーカル・トラックとMIDIキーボードなどを合わせて演奏することで、声を利用した新しいハーモニーを生成できるなど、多彩な使い方が可能なツールです。新しいポイントを中心にReason 5とRecord1.5を駆け足で見てきましたが、これだけの数の高品位なデバイス、有用な作曲機能が備わっているにもかかわらず、リーズナブルな価格で販売されており、非常にコスト・パフォーマンスに優れています。製品開発陣も音楽を愛していて、たくさんの人たちに音楽活動を楽しんでほしいと思っているのではないでしょうか。 最後に……Reasonの意味は“理由、訳、根拠”。本ソフトに触れてみて、皆さんそれぞれの“Reason”を探してみてはいかがでしょうか?(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年10月号より)
PROPELLERHEAD
Reason 5 & Record 1.5
Reason 5:オープン・プライス(市場予想価格/30,000円前後) Record 1.5:オープン・プライス(市場予想価格/30,000円前後)
●Reason 5 ▪Mac/Mac OS X 10.4以降、Intel Mac(マルチコアCPUを推奨)、1GB以上のメモリー、2GBのハード・ディスク・ドライブの空き容量、1,024×768以上のディスプレイ、DVDドライブ ▪Windows/Windows XP SP3以上、INTEL Pentium 4/AMD Athlonまたはそれ以上を推奨、1GB以上のメモリー、2GBのハード・ディスク・ドライブの空き容量、1,024×768以上のディスプレイ、DVDドライブ ●Record 1.5 ▪Mac/Mac OS X 10.4以降、Intel Mac(マルチコアCPUを推奨)、1GB以上のメモリー、3GBのハード・ディスク・ドライブの空き容量(プログラムが最大20GBのスクラッチ・ディスク・スペースを使用する場合あり)、1,024×768以上のディスプレイ、インターネット接続環境(ユーザー登録などに必要) ▪Windows/Windows XP SP3以上、INTEL Pentium 4/AMD Athlon XP at 2GHzまたはそれ以上(マルチ・コアCPUを強く推奨)、1GB以上のメモリー、2GBのハード・ディスク・ドライブの空き容量(プログラムが最大20GBのスクラッチ・ディスク・スペースを使用する場合あり)、1,024×768以上のディスプレイ、インターネット接続環境(ユーザー登録などに必要)